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富士へ


派生世界―『L-328F-P926』 一二月二十六日 一七時三五分(現地時間)

東京都 伊舘区 路上



「今、なんとおっしゃいました?」

並行世界においてキリア達が七色の宝石の幹部を時空制御局に転送したその約十分後、こちらも幹部を転送したレイトに合流したキリアは皆に事の顛末を説明した。

「だからこいつが先代の東方死覇なんだってよ」

「今はただの賞金稼ぎだがね。その賞金を頂くために早くここを出たいってわけだ」

ちなみに飛鳥と麻夜は少し離れたところにいる。この場にいるのはキリア、マナ、レイト、マシューの四人しかいない。これはマシューの意向による。あまり自分の正体を広めたくないために必要最低限の人間にしか知らせないということだ。

「……それは…確かにありがたいんですが」

「私たちと行動を共にする以上、これ以上賞金は出ないわよ?」

マナもさすがキリアと行動を共にしていると言っていいのか、さほど驚いていないようだった。

「なにもこの稼業で財を成そうとは思っておらんよ。四千万あればしばらくは大丈夫だ」

「まあそう言うことだ。さっさと終わらせようぜ。本当はあいつらの契約魔法が完成してからと思っていたが、東方死覇が加わるんならもう行ってもいいかもしれん」

「どこに?」

「『世界の種』のある場所へさ」

キリアは首にかけた『世界を告げる鐘』を右手に持ちながらその場にいる飛鳥達を除く全員に告げた。

「キリアさん、ちょっといいですか?」

「なんだ?」

レイトは手招きして少し離れた場所にキリアを呼び寄せた。

「信用してもいいのでしょうか?」

「何が?」

「神羅のことです。」

「どういう意味だ?」

「いえ、確かに彼の容姿は世間一般に言われている先代東方死覇と符合しますが、しかしそれをそのまま信じるのはいかがなものかと…」

事実として、先代東方死覇がの爆死報道がされた後、世界(統一世界)各地で先代東方死覇神羅の目撃情報が報告された。そのたびに時空制御局は現地に赴いたが神羅を見つけ出すことができなかった。その神羅を名乗る男がぽんと出てきて、すぐに信じるというのは控えめに言ってもあまり賢い選択とは言えなかった。

しかし、キリアはこともなげに答えた。

「どうでもいいことだ。あいつが本物なら七色の宝石はあいつに任せればいいし、そんなもんに成りすまさなければならないほどの敵なら相手にならん」

「なんというか、あっさりしてますね」

「お前が考えすぎなんだろ?あいつが神羅だって言ってんだから神羅でいいだろ」

「…そうですね。そんなことより『世界の種』を探した方が建設的のようです」

「これまでに逮捕した人数と話に聞く『七色の宝石』の人数を比較すると、幹部五人、構成員が十数人と随分少ないが…、『苗床(ナースリー)』は用意できている。そろそろいい頃合いだろう」

『苗床』とは、統一世界の特定の地域にのみ存在する鉱物で、これと『世界の種』を反応させるといかなる神能を持ってしても破壊できず、その世界から動かすことができなくなるものである。

このため、時空制御局は『苗床』を用いて世界の保護を行っている。だが同時にこれが時空犯罪者の手に渡ると時空制御局をもってしても時空犯罪者が作った世界を破壊できなくなるため、その生産場所は秘匿され、またその警護も厳重にされている。

「そうですね。『七色の宝石』の幹部は残り二人、我々と東方死覇、それだけいれば十分でしょう」

「決まりだな。行くか、富士へ」



「おっ、戻ってきた」

キリア達が戻ってくるのを待ちわびていた飛鳥達は、飛鳥の声に反応してキリア達に視線を集めた。

「マナ、今から『世界の種』が存在する可能性が最も高い富士へ向かう。準備しろ」

「オッケー」

それだけ言ってレイトとさっさと歩き出したキリアに従って歩きながら麻夜はマナに訊ねた。

「随分と急な話ね」

「あいつはいつもあんなもんよ。死覇を相手にあの態度なのを見ればわかるでしょ?」

「確かに、態度だけは死覇級かもね」

「フフ、そうね」

マナは面白そうに微笑んでいた。




キリア達の後方三キロメートルほど離れた位置に、パグはたたずんでいた。

「そんな…バカな」

思わず口に出してしまうほどに、パグは動揺していた。西方死覇になってから日が浅い(世界統一時間)が浅いパグにとっては、あるいは『死覇』だからこその驚きだったかもしれない。

「あの男が…先代東方死覇」

気が付けばパグは通信機を取り出していた。通信機が無機質な声で応答する、

「現在、この通信機器は異世界に存在します。お繋ぎしますか?」

パグの持つ通信機はどの世界の相手にでも連絡を取れる仕様だが、一度統一世界を経由するため、相手が派生世界にいる場合、このような音声案内が流れる。

「繋いでくれ」

そしてしばらく待つと、目当ての相手にようやく繋がる。

「ヴァルケさん」

「なんだ?」

通信を受けた南方死覇、ヴァルケ=A=ガルムハルムは珍しく動揺の色を見せる同僚に、片手に持ってたテキーラの瓶をおいて耳をかたむけた。

「死覇です。死覇が現れました」

「死覇はお前だろ。何だ、エンサイがふざけて出てきたか?」

「違います!先代です!先代東方死覇が現れました」

「何っ!?」


通信機越しに、ガラスが割れる音がパグの耳にい届いた。

恐らく酒の瓶でも割ったんだろうと、正確に予想したパグは、同時に先代東方死覇の名の持つ意味を察した。


「お前、今どこにいるんだったか?」

「世界―『L-328F-P926』です。今は『一方通行』ですが、一三番隊の隊員たちが『世界の種』に向かっているようなので、もうすぐ解除されるかと」

「分かった。俺の仕事ももうすぐ終わる。俺がつくまで手は出さずに逃がすなよ」

それだけ言って、通信は途絶えた。

「手を出さずに逃がすな…か、難しい注文だな」

そうは言いながらも上がった口角は無理難題な注文をやり遂げられるだけの自信を表していた。






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