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世界の頂に立つ者たち

派生世界―『L-328F-P926』 一二月二十二日 八時五五分(現地時間)

東京都 伊舘区 都立第三高校 二年二組教室



「うっす、今日は早いのね」

「ああ、昨日なかなか寝付けなかったんで、めんどくせえから寝なかったんだ」

「極端だな、あんたは」

「どうかされました?」

すると、後ろからレイトが顔をのぞかせた。

「昨日話した飛鳥よ」

「ええ、実はあの後お会いしてね、一応初対面ではないんですよ。それで、僕の正体はもうご存知かな?」

「ああ、護衛なんだろ、ご・え・い」

「アンタのとこにも来たらしいわね」

「ああ、ふざけた野郎がな」

「まさか、私たちが異世界人だったとはね」

「あのなあ、もっと驚けよ」

「あら何で?とってもドキドキするじゃない?」

(ああ、そうだな。SFオタクのお前ならそう言うと思ってたよ)

そう、俺に多少この怪奇現象に対する免疫があるのはこの女、高杉麻夜にいつも情報提供を(強制的に)受けているからである。

「それで、結局この任務はどっちが担当することになったんだ?」

「共同で行うこととになりました。まったくないってことはありませんが、内容を考えると少し珍しいかもしれませんね」

「へー」

しかし、そこで始業のベルが鳴った。

「それじゃあ、頑張りましょう、世界のために」

「興味無いね」

麻夜が前の席に着く。

(ったく、俺は今それどころじゃねーっての)

飛鳥は鞄の中にある白い包みを確認してため息をついた。






統一世界―『スフィア』 C.E.28907年 一五月三〇日 一七時二分(世界統一時間)

中央都市『ロクス』 東区 時空制御局東方第七七七支部 ホワイトナイト隊隊長室




「なんですかー、隊長?」

マナはノックもせずにホワイトナイト隊隊長室の扉を開けた。

「のの、ノックをしたまえ」

「えっ?ああ、はいはい」

マナはその場で扉をたたいた、ただし二回だが。

ホワイトナイト隊隊長コーラット=ウィットニーはコーヒーカップを片手にマナを部屋に招き入れた。

「ま、まあ入りたまえ」

マナは言葉よりも先にさっさと近くにあるソファに座る。

「で、なんですか?」

「いやあ、七色の宝石のことなんだがね、調査部からも一人護衛がつくことになった」

「たった一人ですかっ!?隊長、ちゃんと増員の依頼したんですか!?」

「お、落ち着きたまえよ、これには訳が…」

「訳?」

ウィットニーは自分のデスクから書類を取り出してマナに見せた。

「なんでも、一三番隊と任務がダブルブッキングしたらしくて、そこの隊員と合同で行うことになったそうだ。向こうが一人しか出せんと言っている以上、立場的にこちらからは何も言えんよ」

「はぁー、なんだかなぁ」

マナはため息をつくことしかできなかった。





派生世界―『L-328F-P926』 一二月二十五日 九時四十分(現地時間)

東京都 伊舘区 都立阪台高等学校 廊下



「なあ」

「なんです?」

教室の片隅で飛鳥は麗レイトに訊ねた。

「あれから四日経つけどなんもねーじゃねえか。ほんとに『七色の宝石』なんていんのか?」

キリアがトパーズを捕まえたあの朝以来、それまでと変わらない日常を過ごしている飛鳥達であった。

「まあ、書面による報告ではキリアさんはこれまでに二八名を捕縛しているようです。ただし、幹部はいなかったようですが…」

「ったく、で、マナは?」

「彼女はスフィアにおいて何やら手続きに手間取っているとのことでしたが…」

「それにしても、私麗斗以外の護衛と未だに会ったことないんだけど?」

「安心しろ、俺もその二人にはその日以外会ってない」

飛鳥はため息をついた。

「そうですね。彼らは実行部隊ですから、戦闘の方が向いてるのでしょう。私も一応護衛の任務を受けているとはいえ、諜報部ですから戦闘よりも情報収集が割に合ってるというか…戦闘能力もあなたたちサーヴュランスに毛が生えた程度ですから」

「その諜報部が私たちの周りにばっかいていいの?その情報とやらの発見はあったのかしら?どちらかというと、そのキリアって人が私たちの周りにいて、あなたが別行動の方がいいんじゃないの?その世界の種とやらを見つけるには」

麻夜は素朴な疑問をレイトにぶつけた。

確かに、麻夜の言うとおり、その方が道理に合っている。

「まあ、そうなんですが…」

「そもそも、世界の種って何なんだ?本物の種って訳じゃないんだろ?どんなのだ?」

「分かりません」

麗斗はきっぱり答えた。

「分からない?」

「ええ、世界の種とは、便宜的な名前にすぎません。それは世界が生まれた時からずっと存在し続けるものも、世界の成長とともに物質循環により常にその形が変化し続けるものもあるのです」

「へー」

「私はあの山なんかが怪しいと思ってるんですが…」

麗斗はそう言いながら窓の外にそびえる山を指さして言った。

「「富士山?」」

「ええ、ですから、マナさんが戻られたら、一度行ってみたいんですが」

「そうね、行ってみましょ。面白そうだし」

「おう、頑張れよ」

「あんたも行くのよ」

「えー」

飛鳥のささやかな抵抗は案の定、却下された。


派生世界―『L-328F-P926』 一二月二十五日 九時四十分(現地時間)

東京都 伊舘区 西商店街 (並行世界)


「ったく、せいぜいトパーズのやつくらいは楽しませてくれよ」

キリアは周りに積まれた『七色の宝石』の雑兵を前につぶやいた。

「あのね、真面目に護衛しなさいよ」

後ろからかけられた声に振り向きもせずキリアは答えた。

「あいつらの護衛なら国沢とやらがやってるぜ」

「なんだ、もう知ってたのね。それにしても、それだけが全部じゃないでしょ?目がキラキラしてるわよ?」

マナはいつものこととばかりに何も言わずに手錠を空間から出して七色の宝石の構成員を拘束していった。

「いいじゃねえか、久々にでかい仕事なんだからよ。それにいち早く幹部つぶした方が事件も早く解決するだろ」

「……」

「どうした?」

突然黙り込んだマナに、初めてキリアはマナの方を見た。

「で、どうだった?」

「何が?」

「その…、能力(ちから)

キリアは腰に手を当ててため息をついた。

「安心しろ、こいつらに手こずるほどじゃねえ」

「でも…、私があんなことしなきゃ」

「おい、それはもういいって言っただろ!!」

キリアの怒鳴り声に思わずマナは体を縮めた。

「?」

自分の頭に柔らかく添えられた手にマナはゆっくりと目を開ける。

「それに、俺は今の生活、結構気に入ってる」

「…うん」

「じゃあ、さっさとこいつら移送して国沢たちと合流して護衛するぞ」

「ああ、そうだ。そのことで一つ変更点が」

「?」








統一世界―『スフィア』 C.E.28907年 一五月三一日 一三時五八分(世界統一時間)

中央都市『ロクス』 中央区 時空制御局本部 第零会議室



「いやー、遅れてすんませんねぇ」

長い茶髪に紫のシャツ、黒のスーツにノーネクタイ、言葉からもこの男が軽い男だと分かる。

「新参者が私たちを待たせるとは…」

男を新参者と言うその少女の年頃は男とさほど変わらない、もしかしたら年下かもしれない。

服装は所謂ゴスロリというジャンルに属するだろう、全身黒ずくめで、長い黒髪に、わずかにある白いフリルと透き通るように白い肌のコントラストが強烈である。

だが、彼女の周りを取り巻くオーラは同年代とは一線を画すものを持っている。

「まあまあ、ノエルちゃん、落ち着いて落ち着いて。エンサイも早く席に着け」

程よく伸びた黒髪に無精ひげを蓄え、西洋騎士のような鎧を身に着け、兜を左手でくるくる回している男は四十代前半であろうか。

一見してこの男も軽そうに見えるが、その一つ一つの動きには数々の死線を潜り抜けてきたものだけが持つ、余裕がにじみ出ている。

「そうだよ~、姐さん。ヴァルケさん、いいこと言う。第一、一番の新参者はパグじゃないですか~?」

エンサイにパグと呼ばれた男は質実剛健と言う言葉がしっくりくる、二十代後半の青年だ。

「この男なら誰よりも早く来ている」

年上の人を『この男』と切り捨てるノエルも随分と肝が据わっている。

普通に日常生活を送っていれば、絶対に関わることのないこの四人の共通点と言えば、キリア達と同じデザインで赤いロングコートを着用し、そのコート全ての右肩に『零』そして背中に大きく『死覇』の二文字が大きく黒い糸で刺繍されていることだ。

「こんな男が東方死覇を名乗るとは…東方も堕ちたものだ。いっそのこと東方なんぞなくして三分割で受け持てばよいのだ」

「まあまあ」

「姐さん、きっびしー。さすが晦冥の北方死覇ノエル=アイスバーンランド」

エンサイの言葉がますますノエルの感情を逆なでしたが、パグの一喝で皆沈黙した。

「いい加減にしてください!!今日はそんなことを言い合うために集まったわけでは無いでしょう!」

ニヒルな笑いを浮かべながら、ヴァルケはため息をつく。

「今回集まったのは、第七七七支部から上がってきた『七色の宝石』の対処をどうするかということでしょう」

そこで、ゆっくりとノエルは立ち上がった。

「ノエルさん、どうしたんです?」

「興味無い、この件に関してはお前に一任する。処理するために出撃(出ろ)と言うのなら従う。とにかく、東方死覇なんぞとこれ以上同じ空間にいるのは耐えられない」

それだけ言うと、本当にノエルは部屋から出て行った。

「じゃあ、おーれも。不公平にならないように俺はヴァルケさんに一任しまーす」

エンサイは指を鳴らすと、空間に飲み込まれるように消えて行った。



「…はあ。まったく、こんなんで大丈夫なんですか?ヴァルケさん」

「なんだお前、爺さんから聞いてなかったのか?」

「俺が師匠から言われたのは、『わしが七千年守り続けた西方一の魔術師の名を汚すな』ってことだけですよ」

「確かに、じいさんの引退には正直驚いたが、お前は十分やってるよ。そもそも、死覇なんざやってるやつは大概こんなもんさ。お前みたいに真面目な方が珍しいんだよ」

「そんなもんですかね?」

「そんなもんさ。それで、どうする?七色の宝石は」

「そうですね。確かに、ここまで大きな組織を七七七支部二名と一三支部の諜報部員一名、他二人に任せるってのは負担が大きいかもしれないですね」

「でもまあ、隊規の四条、敵軍の処理は発見した隊にすべての権限を与える。こいつがある限り死覇と言えどその部隊に依頼されるか部隊が全滅するかいないと動けねえからな」

「全滅って、不謹慎ですよ」

「悪い悪い、まあ、どっちにしても、七色の宝石ほど大きい組織は捕まえときたいところだ。管轄としては東方だが、エンサイがあんな調子だからな、俺としてはいざってときにはお前に出てもらいたい」

「俺ですか?別にかまいませんけど、ヴァルケさんが出て行った方が確実なんじゃ…」

「おいおい、それこそ、死覇の名が泣くぞ。俺たちは東西南北の隊員の名誉を背負ってんだからな」

死覇とは、時空制御局零番隊に所属する時空制御局の中で四人にしか与えられない称号である。

『己が死すとも、覇道を貫きし者』の意味を持ち、東西南北それぞれの区域において最強を認定されたものが持つ称号であり、覇道の意味が表す通りこの称号を得るには圧倒的な武力が必要である。

「はあ、まあそうなんですが…」

「お前、西方死覇になってからまだでかい仕事してないだろ?勲章作るにはちょうどいいんじゃねーか?」

「勲章のために仕事すんのはどうかと思いますが…動機として」

「何言ってんだ。大事だぞ。勲章も…抑止力って意味ではな」

「それはまあ、そうかもしれませんが」

そこでヴァルケはたばこを取り出して指を鳴らしてたばこに火をつけた。

どうやらヴァルケの神能は炎のようだ。

「神羅って男を知ってるか?」

煙を吐きながらヴァルケは訊ねた。

「そんなもの、知らない方がおかしいですよ。赤い瞳に黒髪長髪、背中の死覇の字は本来の意味から外れて相手へ死の恐怖を与えるとまで言われた死神、先代の東方死覇でしょう」

「まあ、実際は神具の力を抑えて相手を殺さずぎりぎりの苦痛を与えていたがな…。死んだ方がましと言っているやつを数えきれないほど見てきた」

「うわぁ、想像以上ですね」

「ああ、だがそのうち死覇のコートを見るだけで投降する連中が増えてきてな。往年につぶした組織のほとんどは無傷の完全降伏だった」

「へー」

「だから、名前が売れるってことはある意味必要なことって訳だ。今はまだ二ヴの隠し兵器と呼ばれてるみたいだが、そのうちお前自身の看板をつくらねーとな」

「はあ、でもそんなすごい男がどうして亡くなったんですか?」

ヴァルケは二本目のたばこに火をつけると、こともなげに答えた。

「爆死だ」

「爆死!?そんな男が」

「ああ、時空制御局本部の北側に昔使われていた旧型の空間移動装置があってな。そこで侵入者との戦闘中に装置が爆発したらしい」

「へー」

「その爆発で発生した時空の歪に飲み込まれたと政府は発表した。さしもの男も時空の力には勝てなかったって言うのが世間の意見だ。真相は分からんが」

「まあ、手柄をたて続けることの必要性は分かりましたが、なんでノエルさんはあんなに東方死覇を嫌ってるんです?」

おかしなことでもないような気がするが、ヴァルケは声を上げて笑った。

「はっはっは。お前、それをノエルちゃんに直接言ったら睨み殺されるぞ。まあ、どっちも東方死覇が関係するんだが…」

「どっちも?」

パグの頭上には疑問符が浮かぶ。

「ああ、ノエルちゃんが北方死覇になる前のことだ。北方区域(エリア・ノース)で人質とっての立てこもり事件があってな、その人質の中にノエルちゃんもいたんだ。その事件を解決したのが先代東方死覇ってわけなんだが。まあ、一種の憧れみたいなもんかな?その事件の一年後、彼女は北方死覇となり、念願の再会がかなったって訳だ。それまでは俺と神羅の二人で大きな事件は担当してたんだが、だんだんあいつら二人で組んで事件にあたることも増える様になってきて、ノエルちゃんもようやく死覇として一人前って言えるようなった矢先、神羅は爆死した。その後新たにエンサイが東方死覇に任命されたんだ。性格が真反対だからな。自分の中の東方死覇と言う理想像とかけ離れて許せんのだろうよ。簡単に死んでしまった神羅にも、軽率なエンサイにも」

「はあ、よっぽどすごい男だったんですね。神羅って人は…」

「ああ、すごい男だったさ」

目をつむってたばこを消し、ヴァルケは今度は深くため息をついた。

どうやら昔を思い出しているようだった。

(ヴァルケさんがここまで率直に称賛するなんて、よほど神羅さんはすごい男だったんだな。俺もいつか、そんな男になりたいな)

もしかしたら、ヴァルケが炎帝の南方死覇と呼ばれる前に所属していた王族直下騎士団『ガーディアン』時代の同僚では無いかとパグは思った。

ヴァルケと同じ騎士装束をまとい、顔にいくつもの傷を残し、豊かにひげを蓄えた男の姿が、パグの脳裏に浮かんだ。

哀愁と言う言葉がぴったりの、かつての仲間との思い出を懐かしむような雰囲気を醸し出していた。

「で、どうするかね?」

「何がです?」

「今回の件だよ。七色の宝石(レインボージュエリー)

「俺に行かせてください」

パグの瞳には秘めたる決意が見て取れた。

「だが、最初(はな)っからの手出しは禁止だ。七七七支部の手に負えなくなるまでは観測者の立場を取れ」

「ええ、しかし仲間ではなくとも味方が瀕死になるまで手を出せないなんて…」

「それが嫌ならもっと偉くなって法律を変えることだ」

暗にそれは、今できることを考えろと言っていることがパグには分かった。

「そうですね。では、準備出来次第、報告のあった世界に向かいます」

「ああ、任せた」

頼もしく出て行ったパグの背中を見送りながら、ヴァルケは新たな煙草に火をつけた。




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