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幸福な数字を持つ部隊の史上最悪な奴ら


統一世界―『スフィア』 C.E.28907年 一六月二日 二六時二六分(世界統一時間)

中央都市『ロクス』 特別区内 世界統一機関 評議員宿舎

 


キリアが専属騎士団に連行され統一世界に戻ってから、世界統一時間で二日後、ようやく一行は目的地へ到着した。

本来はこのような時間がかかる場所ではないが、部外者ここではキリアに場所を特定されないために場所を転々と移動した結果である。ただし、これがキリアに有効であったかどうかは定かではない。

キリアが両手両足を神具の錠で拘束され、両脇に二人ずつの監視を受けながら通された部屋には明かりが灯っておらず、奥には初老の男性が葉巻をふかしながら堂々と座っていた。

「久しいな、キリア=トライハート=神羅」

『神羅』の言葉にキリアの両脇ではどよめきが起こる。だがしかし、そんなことはキリアにはどうでもよいことであった。

「こちらこそ、ローウェル=M=ヴァルトシュタイン卿」

葉巻を灰皿に置き、ローウェルは立ち上がりキリアに近づく。

「ヴァルトシュタイン卿、危険です。お下がりください」

「大丈夫だ。この手錠は神具だろう?」

「どうだかな?気を付けた方がいいぜ?」

「貴様、口のきき方に気をつけろっ!」

隊員をローウェルは手で制する。

「よい、それよりキリア、娘はどこにいる?」

「何の話かね?」

ローウェルがキリアの胸ぐらをつかむ。

「とぼけるなっ!あの爆発の時、貴様と一緒にいたことは分かっておる。正直に言え、わが娘、マナはどこにいる?」

「さあな、あの爆発の時にいたんなら爆発に巻き込まれたんじゃねえのか?」

「くっ…」

話はこれで終了と判断し、キリアは体を反転させる。

「聞きたいことがそれだけなら俺は帰るぜ」

「待てっ!」

キリアは腕と足に軽く力を入れると、拘束具はわけもなく引きちぎられる。

「ちょっと手錠の強度が足りてなかったようだな。まだ…、なんか用があんのか?」

場の空気が一気に緊張の度合いを増した。

「貴様がその気ならこちらにも考えがある」

そこへ扉が三回叩かれ、扉が開く。

「失礼致しします。七七七支部に送った部隊からの連絡が…」

どうやら、キリアが拘束されている間に、七七七支部にもローウェルのものの手が伸びているようだった。

「ちょうどよい、それで、娘は見つかったのか?」

「そっ、それが…」

歯切れの悪い部下の言葉に、思わずローウェルはキリアから部下へ顔を向ける。

「どうした?」

「我々の攻撃が…、一切通じません」

「なんだとっ!?たかが傭兵の集まりに?」

「たかが政府の狗が傭兵に敵うと思ってんのかが疑問だね」

「黙れ、キリア」

キリアは何かを考え直し、部屋の中央に戻りソファに腰かけた。

「今は随分と支持率が落ちているようだな。ヴァルトシュタイン卿」

「……」

口にこそ出さないが、一瞬ローウェルの表情が崩れる。

「それで義理の娘の生存を発表し、支持率を回復しようってとこか?長年の探索の末の感動的な再会とでも、メディアを煽るつもりか?人気者の政治家はつらいな」

「……」

「はっきり言って、ウチの部隊は守りに関しては死覇級だ。だが、いつまでもしつこく付きまとわれるのも迷惑だ」

「何が言いたいのだ?」

「商談だ、ヴァルトシュタイン卿。アンタの人気を回復させる程度の獲物を見繕ってよこせ。すぐにその首をアンタの前に差し出してやる」

「だからお前たちを見逃せと言うのか?」

キリアは不敵な笑みを浮かべる。

「話が早くて助かるね」

ローウェルは顎に手を当てしばし意識を深いところにまで持っていく。

「…よかろう。では、『巨人の軍団(ジャイアンツ・フォース)』のボス、イリオット=ドラゴ=ファーニルの首を持ってきてもらおうか」

ローウェルのつ弦にまたしても周りがどよめく。

「ヴァルトシュタイン卿、それは…」

「うるせえぞ、外野は黙ってろ」

その声をキリアは一喝する。

「いいだろう、イリオットだな。ただし、契約は書面で行ってもらう。この契約に違反したとき、アンタの支持率がどうなるかは、アンタはよくわかってるだろう」

「それは脅しかね?」

「警告だ」

キリアとローウェルは静かに、しかし激しく視線で火花を散らす。

折れたのはローウェルであった。

「仕事はきっちりしてもらう」

ローウェルは部下に契約用の書類を持ってくるよう、目で指示を出す。



「じゃあな」

契約内容を確認すると、キリアはゆっくりと立ち上がり部屋を後にする。迷いなく道を進むキリアの後姿を見る限り、騎士団のこの二日間は無駄なことであったのは明らかだった。

「よろしいのですか?」

「よい」

ローウェルは、新しい葉巻に火をつけるとゆっくりと煙を肺に持っていく。

「『巨人の軍団』を壊滅させれば、私が再び政権を握ることも不可能ではない」

「それは…、そうですが。しかし、元東方死覇と言えど、傭兵風情が四神のうちの一つである『巨人の軍団』を相手にできるなど」

「その心配は必要ない。『巨人の軍団』を相手取るよりあの男一人を敵に回す方がやっかいだ」

「そんなバカな」

「あの男を敵に回さずに済むのならそれに越したことは無い。それに、この契約は破れぬものの、公にはでないものだ。キリアが敗北しても我々にはリスクが無い。敗北した時はマナに活躍してもらうだけだ。当時、死覇に敗北は許されなかった、故に下手に手出しはできなかったが、今やつは何者でもない。考えようによってはより便利な駒になったのかもしれん」

不気味に低く笑う老人の姿を、部下は畏怖の念をこめて無言で眺めていた。



統一世界―『スフィア』 C.E.28907年 一六月三日 八時一九分(世界統一時間)

中央都市『ロクス』 東区 時空制御局東方第七七七支部 ホワイトナイト隊控室

 



「『巨人の軍団』ですってっ!?」

七七七支部に戻り、事の顛末を隊員に伝えると、最初に口を開いたのはマナであった。

「ああ、続けざまに大物だ。運がいいな」

うれしそうなキリアにマナはしっかりとツッコんだ。

「よくないっ!!だいたい、あんたがのんびりふらついてた間に七七七支部(うち)がどんな目に…」

「俺は全然かまわんぜ?」

左目の下に複雑な形の刺青を入れた、長い銀髪の青年が扉近くの壁に寄りかかりながらキリアの意見に同意した。格好は白い無地のTシャツに緑のチノパン、黒いブーツ、年齢はキリアと同じくらいに見える。

「ヴィンセントっ!少し黙って!」

ヴィンセントは肩をすくめる。その横に座っていた少女が続けて口を開く。

「…私も」

「オルレアまで!」

オルレアと呼ばれた美少女(美しいというよりかは可愛らしいと言った方が正しい)はこんなごろつきとも傭兵とも言えそうな(マナは除く)連中と一緒にいるには違和感のある年齢のように見える。

マナと比べても五、六歳くらい離れているだろうか。

「お子様は向こうでジュースでも飲んでなさい。これは大人の話なの」

「子ども扱いしないでって言ってるでしょっ!?私はあなたと同い年よ、ヴィンセント!」

ヴィンセントの年齢はキリアと同じくらいだろう。

ということは、この少女の年齢は二十歳ほどと言うことになる。それにしては彼女の顔は幼い。最近ますます道行く人の視線を集めるようになったマナがとなりにいることを差し引いても、体のおうとつは控えめだ。身長も一四五㎝ほどである。

そんな少女が長いアッシュブロンドの髪を揺らしながら無地の白いワンピースを着てムキになってヴィンセントにくってかかる様子は、本人には申し訳ないがどうみても子供にしか見えなかった。

「うるせえぞ、そこっ!兄妹げんかは表でしてろ」

確かに、微妙に髪の色は違うものの瞳の色は同じスカイブルーだ、兄妹と言われるとそう見えなくもない…かもいれない。

「「誰が兄妹だ(よ)!」」

見事にハモって抗議した二人だがキリアはお構いなしに話を続けた。

「そもそも、お前らは今『南海の人魚』を追ってんだろ?首ツッコんでんじゃねえよ」

「いいじゃねえか、手伝ってやるよ。人魚より巨人の方が狩りがいあるし」

「そうそう、それに、『巨人の軍団』のリーダーはイリオット=ドラゴ=ファーニルだし…」

その言葉に反応したのは、これまた別の美少女だった。

「その人とキリアさん、何かあったんですか?」

長い金髪に碧眼、まるで生きているお人形と言っても過言は無いが、それは彼女の服装が全身モスグリーンの軍服をきっちり着こなしていなかった場合である。

「違うわ、アリス。ただキリアの神能とイリオットの神能の相性が悪いってだけよ」

キリアの代わりにマナが答えた。

しかし、第七七七番隊に入隊して間もないアリスにはマナのこの答えでは不足のようだった。

「『相反する力』に相性の悪い神能なんてあるんですか?」

「そっちじゃなくて、『神喰』の方だよ」

「『神喰』?」

自分の予期していた答えではなかったが、どちらにせよキリアの神能に苦手な神能があるとは思えなかった。

「別に苦手じゃねえけどな」

「キリアの『神喰』は獣神系の神能は使えねえんだ」

「??」

「詳しいことは俺にもわからんがおそらく炎や水を司る神々の神能者と獣神の神能者は先天的に肉体の構造が違うんだろう。七死の命がすべての能力を喰うことができたのは、神だったからなんだろうな」

キリアがどうでもよさげに答えた。

「確かに、獣神の神能者だけは生まれた時から筋力に差がありますからね」

アリスは、なるほどと軽くぽんと手をたたいた。

「まあ、別に獣神系の神能を喰わなくても困らねえから神能が使えない理由なんて考えたこともないけど」

すると、アリスの長い髪の中から、全身真っ白い何かが出てきた。

「それは、俺たちが神能を使えないことと何か関係あんのかな?」

驚くことに、その白い動物、外見は猫のようだがウサギのように耳は長く、尻尾は九本もある。

だが、もっとも驚くべきことはその猫がしゃべったことだ。

「さあな」

「それは、神能が人類に何故与えられるのかが解明されなきゃ分からないわね。チーシャ、あなた神能が欲しいの?」

アリスはそこにいるのはさも当然のごとくその生き物に声をかける。

「別に~。俺はアリスの力になれれば魔法でも神能でもなんでもいいんだ」

チーシャと呼ばれたその猫は再びアリスの髪の中に戻った。

正確には、人類に神能が与えられるのではなく、神能が与えられた生物が人類とされているのだが、今はどうでもいいことである。

コーラットが話をまとめようと口を開く。

「そ、それで、今回の仕事はどうしようか。なあ、ルシ?」

黒の時空制御局のコートと真紅の髪が相まって一層冷たい印象を受ける青年、ルシ=ユキムラはその印象にたがわず、ゆっくりと静かに答えた。

「俺も別にかまわない。問題はどうやって巨人の頭を見つけるかだ。何か策があるのか、キリア?」

「あるわけねえだろ、さっき言われたんだから」

「じゃあ、どうするんだね?」

キリアの意見を完全に頼りにするあたり、キリア達が隊長への報告をためらった理由が思い浮かばれる。

「まあ、とりあえず二班に分かれて捜索にあたる」

キリアはコートの胸ポケットから紙切れをコーラットに投げてよこした。

「何かね?これは、世界の住所(ワールド・アドレス)?」

「ああ、ご親切にも巨人の軍団の中で今一番派手にやってるグループがいる派生世界のナンバーをヴァルトシュタインがよこしてくれたんでね。そこまで分かってんなら自分でやりゃあいいのによ」

そんなことは無理だろう、それが一般的な意見である…が、ことこの隊においてはその常識は通じない。

「まったくだ。四神だか何だか知らないが、そもそも今までそんな連中を野放しにしていた方がおかしいんだよ」

ヴィンセントは面白そうにキリアの意見に同意する。

「もう一組は統一世界(こちら)を捜索するのか?」

「ああ、確かあいつらの拠点は西地区だったな。そのあたりを中心に聞き込みを行う。こっちの世界でのやつらの動向は一般人に知られている以上のことはヴァルトシュタインも把握していないようだ」

ルシは一瞬考え込むとすぐに踵を返して歩き始めた。

「ならば俺は派生世界の方を引き受けよう」

「なら私も~」

ルシの発言にアリスが反応する。

「んじゃまあボチボチ取り掛かるとするかね」

キリアは頭をかきながら立ち上がった。




統一世界―『スフィア』 C.E.28907年 一六月三日 八時一九分(世界統一時間)

中央都市『ロクス』 特別区内 世界統一機関 評議員宿舎

 



「たっ、大変です!!」

ノックもなしに突如開いた扉に不機嫌さを隠しもせずにローウェルはそちらに視線を向けた。

「しっ、失礼いたしましたっ!」

「いいから、なんだ?」

「はい。それが、七七七支部を調査していた部隊から報告が上がってきまして、所属隊員の素性に関して大変なことが判明しました!」

眉をひそめてローウェルが聞き返した。

「大変なこと?」

「はい。ご存じのとおり、『死神』と呼ばれた元東方死覇、キリア=トライハート=神羅。他にはまず、隊長に『千軍提督』の異名をとったオズワルト=ウィットニーの息子、コーラット=ウィットニー。そして、この数十年観測されなかった何人も傷つけることを許さない、『絶対不可侵領域』を持つオルレア十七世=デ=アーク。己の身体を神具と同等の能力にまで鍛え上げ、武器を一切使わない暗殺拳をこの世に生み出したアスラール家の直系、ヴィンセント=アスラール。その存在を制御局でも確認できなかった、『幻影の魔女』、デュカ=E=レイノルズ。他の者の素性も現在調査中ですが、調査を進める中で…とんでもない男が一人……」

「誰だ?」

「ルシ=ユキムラです」

部下によって告げられた名前にローウェルの表情が崩れた。

「なんだとっ!?そんなバカな話があるかっ!ルシ=ユキムラは現役時代にキリアが潰した中で最大の組織、『六文銭』の頭だった男だぞ。ルシにとってはキリアはもっとも憎むべき相手のはずだ。そんなやつらが同じ組織にいるわけないだろっ!?」

「ですが、確かな情報です。五年前、史上もっとも世界が荒れたと言われた群雄割拠の時代に名をはせた奴らがこうもそろうなんて…一体、七七七支部とは一体何なんでしょうか?」

「バカモノッ!!それを調べるのがお前たちの仕事だ」

「しっ、失礼しましたっ!」

部下の男はあわてて部屋から出て行った。一人残った部屋でローウェルは部下の前では隠していた焦りをかき消すために葉巻に火をつけた。

「ルシだと?悪い冗談だ…」




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