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魔族の奴隷少女ココ

「ココじゃないか!」


 勢いよく開かれたドアから入ってきた、メイド服姿の女の子を見て、ぼくは嬉しい声を上げた。メイド服はたとえ異世界でもかわいい。だから嬉しい。

 しかもそれが、魔族の容姿をした幼女ならなおさらに。


「しンたろ様ぁ!!」 


 青黒いの肌に、灰色の髪、尖った耳、鋭いキバを唇からはみ出させた、一〇歳くらいのメイドの女の子が、泣きそうな顔でぼくの座るカウンター席へと駆け寄ってきた。

 そしていきなりぼくの足下で土下座した。


「ちょちょちょ! やめろって、ココ!」


 幼女に土下座される気まずさに耐えきれず、肩を掴んで起き上がらせようとしたけど、ココは足腰にぐっと力を入れて床にへばりついていて離れない。


「すンませんすンません! でもオラたちディンガ人は、ノキア人に懺悔しなければいけないんだス!!」


 ひどく訛った言葉づかいで喋りながら、ぐりぐりぐり、と小さな額を床にこすりつけるココ。

 ノキア人とは、このカザリンガを支配する、魔法使いを中心とした民族のこと。

 青黒い肌をしたココたちはディンガ人と呼ばれる民族で、大昔、悪魔に魂を売り渡した祖先の罪によって禍々しい容姿となり、その罪を浄化するためノキア人に下僕として仕えなければいけないと、この地方に広まるイキア教の教義で定められている。

 カザリンガではディンガ人の奴隷市場まであって、ココもまた奴隷としてこの街へやってきた。言葉が訛ってるのは、地方にあるディンガ人の集落から買われてきたからだ。


「だーかーらー! ぼくはノキア人じゃなくて、日本人なんだって!!」


「ニホン人って、イキアの教典には出てきませんけど、どのくらい偉いんだスか?」


「少しも偉くないよ。異世界人だし。引きこもりだし」


「でもカリア様に仕える使い魔ですから、カリア様と同じ身分だスよね?」


「ぼくはカリアの使い魔じゃない!!」


「タローはお嬢の使い魔だ。私がこさえた借金によって召喚屋の魔法で召喚されたのだから、使い魔じゃないと困る」


「このタイミングでそういうこと言うなバスコ!」


「ははーっ!!」


「だから土下座しないでくれ――!!」


 いくらお願いしてもココは頭を上げてはくれなかったので、ココの懺悔の祈りを待つことにした。この光景に慣れてるバスコは、中断してしまったリザードマン肉の解体を再開した。ぼくは祈りの言葉を三小節唱えるココのつむじを見下ろしながら、最高に気まずい思いをした。


「お久しぶりだス、しンたろ様!」


 祈りを終えて顔を上げるなり、かわいいキバを覗かせた笑顔になるココに、ぼくは苦笑した。


「久しぶり。新しいご主人様のところでは、元気にしてる?」


「おかげさまだス! 前のご主人様のように、人体錬成の実験台にされたりしてませんス!!」


 くったくのない笑顔で言われて、ぼくはココと出会った出来事を思い出す。

 ココは以前、ある錬金術師のもとで働いていたとき、人体錬成の実験台でネコと合体させられたことがある。

 あのときのココは頭にネコ耳を生やし、お尻から尻尾を生やしていて、殺人級に萌える姿だったのだけど、人格が消えて完全なネコになりかけてしまった。

 そこを、「真の萌えを追求するのなら生命をもてあそんではいけない!」と錬金術師に説き、ココを元の姿に戻させたのだ。

 ココを実験台にした錬金術師は改心し、今では「萌えを追求する錬金術師の一派」なる組織を結成して、人体実験を廃止する運動をしている。

 日本で培った萌えの精神が、異世界で役立つとは……。


「ココは、ネコの姿のままでも別によかったんスけど……」


「よくないだろ! あのときはオス猫に発情しちゃって大変だったじゃないか」


「でもココはディンガ人で、奴隷だスから。何をされても仕方ないッス……」


 生きてるだけで幸せだと思わなくちゃ、みたいな笑顔でココが言う。ぼくはなんだかひどく腹が立って、


「ふぅー」


「ひゃおっ!?」


 ココの尖った耳に息を吹きかけて、ココを飛び上がらせてやった。耳まで真っ赤にしたココに言う。


「奴隷だからって尊厳まで失うな。ココはぼくらと同じカザリンガに住む人間なんだから」


 ココが大きな瞳を丸くさせる。


「にんげん……。いま、オラのこと、人間って言ったスか……?」


 そう言うと、ココは大きな金色の瞳に涙の膜を張らせ、その目に映ったぼくの姿を「うるるる……!」と、させた。


「しンたろ様! オラ、しンたろ様に会えてよかった!」


「わあっ!!」


 未だにネコにされかけたころの性なのか、奴隷の性なのか知らないけど、ココは歓喜しながら、ぺろぺろぺろ! と、ぼくのを顔を舐め回した。


「しンたろ様しンたろ様――!!」


「あぁああぁぁ……!!」


 悶絶して、足の先までピンと伸ばしていると、


「それより、何か用事があるんじゃないのか?」


 すっかりリザードマン肉の解体を終えたバスコが、顔に飛び散ったリザードマンの返り血をタオルで拭きながら言った。


「そうだった! ご主人様のお使いで、ココはやってきたッス!」


 よだれまみれのぼくの顔から舌を離したココが、哀願するように手を組んだ。


「変身の魔法使い、トラウメテオ家のご主人様が、『娘の悩みを解決できる腕利きの魔法使い探偵を連れてこい!』と言ってるッス!!」

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