真っ暗闇のカトル探し 2
「あれ? あれ? おかしいッス、マッチがつかない!」
メイド服のエプロンポケットからマッチを取り出したココが、いくら奮闘してもマッチの火はつかなかった。
「何をしている! 早く灯りをつけろ!!」
暗闇に怯えたミリヤが急かしている間も、ココは何本もマッチを擦ったが、先の折れたマッチが暗くてはっきり見えない足下に散らばっていくばかりだった。
「エネマラの魔力のせいだ」
ぼくはマッチを擦るココの手を止めさせて言った。
「夜這いするとき、家の灯りを消すための魔法だろう。エネマラのやつ、攻撃魔法なんかは一切使えないし、力も人間と同じくらいしかないくせに、こういう魔法を応用するのが異常にうまいんだ」
ぼくは舌打ちをして、真っ暗になった玄関ホールを見渡してみた。
さっきまでホールの天井から壁の端まで見えていたのに、今では自分の足下はもちろん、肩を寄せ合っているミリヤとココ、それに胸ポケットの中のカリナでさえもはっきりと見えない。
闇夜というより黒い煙にでも包まれているみたいだ。
「こ、これが悪魔が作る闇か? 月明かりも差し込まないじゃないか!」
「うぅぅ……奴隷のときに入れられた地下室だって、こンなに暗くなかったッスよぉ!」
震え上がったミリヤとココが、ぼくの両脇からしがみついてきたそのときだった。
「ぬふふふん♪ カトルた~ん、どこにいるの~ん?」
真っ暗闇の屋敷の奥から、エネマラのいやらしい猫なで声が響いてきた。ばたん! ばたん! ばたん! と、いくつもの扉を開ける音もする。
どうやらエネマラは片っ端から部屋を調べてカトルを探してるようだ。
「グズグズしていられない。カリナ、頼める?」
ぼくは胸ポケットの中からカリナが入ったガラス瓶を取り出し、うなずいて見せた。
「はいですぅ! ……はぁぁ!」
小さなカリナが、ガラス瓶の中で拳を握り、下っ腹に力を入れると、身体から黄緑色の光が発光し始め、ガラス瓶が電球のように輝きだした。
身体を寄せ合うぼくらの周囲の、ほんの数歩先が見えるようになる。
「カリナ、すごい!」
「これは、魔法の光か?」
驚く二人に説明してやる。
「カリナは自分の生命エネルギーである魔力を光に換えることができるんだ。でも、あまりに長時間光り続けると、魔力が尽きてカリナが死んでしまう」
「そうなんですぅ……!」と発光するカリナが全身に力を入れながら頷いた。
「急いでカトルを見つけるんだ。カリナの魔力が尽きる前に、エネマラより早く」
「わかったッス!」
「……」
表情を引き締めてうなずくココに対して、ミリヤはどこかためらったような顔で目を逸らした。
「大丈夫かミリヤ?」
「な、何がだ?」
「そのままの姿で、カトルと会っても大丈夫か?」
心配になって聞いてみたのが的を得ていたようだった。ミリヤはまた目を逸らして黙りこくってしまう。
「今までウソついていたことを告白するんだろ?」
「……」
「今ここで告白しなかったら、もう告白するチャンスはないぞ?」
「……」
いよいよカトル本人と対面することを実感して、馬車で激走していたときに見せた気合いはすっかり消え失せてしまったようだ。
気持ちはわかるけど、ここで引き返させるわけにはいかない。なにより、今ぼくらが諦めたら、カトルは魔法オーラを抜き取られて魔法が使えなくなる。魔法騎士が魔法を使えなくなったらおしまいだ。
そういえば、いまだにカトルはどんな魔法が使えるのかわからないままだった。
屈強な兄貴二人を、いったいどんな魔法を使ってぶっ飛ばしたんだろう?
今この場で考えることではないのかもしれないけど、妙に気になった。
「しんたろ様、黙ってないで早くカトル様を見つけてくださぁい……!」
生命エネルギーを魔法の光に換えてぼくらを照らしてくれていたカリナが言った。
左手に発光するカリナが入ったガラス瓶を掲げ、右手にミリヤとココの手を取る。
「行こう」