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真っ暗闇のカトル探し 1

 広々とした玄関ホールに出た。

 二階まで吹き抜けになった高いホールの天井には豪華なシャンデリアが吊されていて、床には正面の階段まで敷かれた真っ赤な絨毯が広がっている。

 一階にも二階にも、各部屋へ繋がった扉があって、この屋敷の広さがうかがえた。

 が、外から見たとおり、人の気配というものが感じられない。

 シャンデリアや壁のあちこちについたランプには火が灯っているのだけど、使用人や執事がいる様子がまるでなかった。


「おーい!」


 ぼくたちは足音を吸収するぶ厚い絨毯を踏んでホールの真ん中へ移動して声をあげたが、返ってきたのは反響した自分の声だけだった。


「神隠しにでもあったみたいだな……おわっ!」


 ぼそっとぼくがつぶやくと、両隣のミリヤ、ココがぼくの腕にしがみついてきた。


「こここ怖いこと言うな!」


「怖いッスぅぅ――!!」


「落ち着けよ。神隠しなんかじゃなくて、エネマラが何かやっただけだって」


「何かってなんだ!?」


「悪魔がやったことなら神隠しみたいなモンじゃないッスかぁ!」


「そう言われればそうだな」


「ここは手分けしてカトル様を探してみませんかぁ?」


「待てカリナ。それは仲間が次々と死んでいくフラグだ。その手を使ったら確実に屋敷のやつらと同じ目に遭う……おわっ!」


 ミリヤとココが、「ひぃぃ!」とさらに怯えてぼくの腕にしがみついてきた。


「ほらみろ。余計にビビらせちゃったじゃないか」


「ビビらせたのは、カリナじゃなくて、しんたろ様ですぅ!」


「わわわ私はビビってない! オーノーがサキュバスに襲われないか心配してやっただけだ!!」


「オ、オラ怖ぇ!! もう帰りてぇ!」


 そのときだった。


「なによぉー? アタシをさしおいて、しんたんは二人とヨロシクやるつもりー? ずーるーいー!!」


 エネマラの、からかうような声が玄関ホールの天井から響いた。


「エネマラ!?」


「ぬふふふん! はぁーい、しんたん! 遅かったわねぇん?」


 見上げると、天井のシャンデリアに、むっちりした長い足を組んだエネマラが座っていた。下からだと、下半身の大事な部分だけを隠した面積の小さな革のビキニが、よーく見える


「しんたん、どこ見てるのん?」


「ど、どこも見てない!」


「ぬふふん。顔そむけちゃってぇ。やっぱ、しんたんって、か・わ・い・い♪」


 くそ、のっけからエネマラの先手を取られた!


「オーノーの役立たず! おい、サキュバス! 屋敷の者をどこへやった!?」


 不甲斐ないぼくを押しのけたミリヤが、天井を見上げて怒鳴った。


「カトル様の兄様たちや、執事どもは無事なのか!? それに、カトル様は――!?」


「あらら。ビビリの変身の魔法使いちゃんのくせにずいぶん強気ねん? いいわ、その強気に免じて教えてあげる。この屋敷にいたオトコは、ぜーんぶアタシがいただいたわよん?」


 ぺしん! と、エネマラが、おへそのあたりを叩いた。(ちなみにエネマラには、おへそがない。悪魔だから)


「アタシのココに、全員吸い込んでやったのよぉん」


 ぼくも、ミリヤも、ココもカリナも、何を言っているのかよくわからない顔になったのだと思う。


「聞かせてあげる」


 エネマラが、居眠りする人を起こすように、ぺしん! と下腹部を叩いた。

 こんなときじゃないととても直視できない、エネマラの股の間から、うめくような人間の声がした。


「あはぁぁぁ~ん」、「うぅおぉぉ~」、「たまらんのぉぉぉぉ~」、「天国じゃあ~、ここは天国じゃあ~」、「気持ちえぇぇぇぇ~」


 妙になまめかしくて、間延びした男たちの声が、エネマラの下腹部から響いた。


「アタシは、誘惑に成功した人間の名前を呼んで返事した者の身体ごとココへ吸い込むことができるのよぉん」


 西遊記に登場する金閣のひょうたんみたいだ! エネマラにこんな能力があるなんて初めて聞いた!


「そ、そうやって、戦争中は砦の兵士一〇〇人を相手にしたんスね……!?」


 エネマラの武勇伝(?)を思い出したココが震え上がると、エネマラが「えへん」と長い髪で乳首を隠した大きな胸を反らせた。


「でもぉ、残念ながらカトルたんだけ見つけられなかったのねん? この屋敷からにおいはするんだけどぉ」


 鼻先をひくひく動かしながら、エネマラが、ぬめる舌で唇をぺろりと舐めた。


「面倒くさいからバラしちゃうけど、アタシが狙ってるのは、あの子の魔法オーラなのよねん?」


「魔法オーラ?」


「魔法使いのオーラは、普通の人間の精気の何倍も濃くて美味しいのよぉん。白くて、ねばっこいアレなんかと違って、虹色で、のどごしがよくて、何杯でもごくごくいけちゃうのよねぇん。ま、白くてねばっこいほうも好きだけどぉ」


 細かくエロ発言を挟んでいくエネマラはさておき、ぼくは初耳の情報で浮かんだ疑問を投げかけた。


「魔法使いが魔法オーラを抜かれたら、魔法が使えなくなるだろ!?」


「当ったり前よぉ~~ん!!」


 エネマラが、ケラケラと笑いながら広げた翼をひとあおぎすると、玄関ホールに突風が捲きおこり、シャンデリアと、壁についたランプの灯りがすべて消えた。


「うわっ!」


「ま、真っ暗ですぅ!!」


「オ、オーノー! どこだ!? 何も見えんぞ!?」


「お嬢様、大丈夫だスかぁ!?」


 ランプの灯りに慣れていたぼくらが、墨のような闇に包まれて慌てふためくと、


「あはははは! しんたんたちは、そこでじっとしててねぇ~ん!!」


 屋敷のどこか奥の方へと、エネマラの声が遠のいていった。

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