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魔法騎士カトル 3

「はぁっ!」


 キシリがカトルに向かって振り下ろした剣撃は、はっきり言ってヘボかった。

 足腰は引けて腕だけで振り回していたし、木剣の切っ先もブレブレ。

 いつも居酒屋のキッチンで、バスコが獲物を剣で一刀両断しているのを見ているぼくは、キシリがどれだけヘボ騎士かがよくわかった。あれじゃリザードマンの肉も切れやしない。

 だからカトルがあくびでもするように身をかわすところまでは何の不思議もなかった。

 地面にめり込んだキシリの木剣が、大きな地割れを作るまでは。


「なっ!?」


 カトルの足下に、カットしたケーキみたいな土の断面ができて、ぼくは唖然とした。

 攻撃をかわしたカトルが後ろに飛び退きながら言った。


「ちょ、ちょっと! いつのまにこんなにすごくなったの!?」


「訓練の成果だ。私の『切り裂く魔法』は、以前は岩を切り裂くのがやっとだったが、今では鉄だって切れるぞ」


「かわしてなかったら死んでたよ!?」


「私たちを怒らせたおまえが悪い。さあ、わかったら剣を置いて今すぐ謝れ」


「やだよ!!」


 「べー!」と舌を出したカトルの前に、今度はミルドが出た。


「きかん坊のお子ちゃまめ。今度は私がおしおきだ」


 両手で構えた木剣を振りかざし、カトルに襲いかかるミルドの動きは、キシリと同じように遅かった。


「だあっ!」


 今度はカトルが先に動いた。カトルはスイカ割りのように木剣をミルドの脳天に叩きつけた。

 思わず目を背けたくなるくらいの、鋭い一撃だった。ミルドの頭はスイカみたいに砕けて、バラバラになってるはずだった。

 が、バラバラになったのは、カトルの木剣だった。


「そ、そんな! 前はこれで倒せたのに!」


 柄だけになった木剣をあたふたさせたカトルに、ミルドが言った。


「あのときは私が石頭じゃなかったら死んでたぞ! あれから訓練を積み、私の『硬化の魔法』は、弓矢も砲弾も効かなくなったのだ」


「うぅ……、ミルド兄様の石頭がそこまで硬くなるなんて」


「石頭と言うな――!!」


 慌てふためくカトルに、ミルドが攻撃した。ぶんぶんと大振りで、カトルは器用にかわし続けているけど、武器を失ったうえに、弓矢も砲弾も効かない防御力を誇る魔法を前に為す術もなく、どんどん後ろへと後退する。


「はぁっ!」


 そこへ横からキシリが斬りかかり、カトルの腹のあたりをかすめた木剣がシャツを切り裂いた。

 よろめいたカトルが尻餅をついて倒れた。


「今度こそおまえの負けだ!」


「さあ、謝れ! 今なら許してやる」


 キシリとミルドが、うつむいたカトルの喉元へ木剣の先を突きつける。

 この二人、剣技はとことんヘボだけど、魔法は強力だ。

 鉄も切り裂ける『切り裂く魔法』に、弓矢も砲弾もはじき返す『硬化の魔法』が相手では、身体の大きな大人と、ピストルを持った子供が勝負するようなものだろう。

 強力な魔法は騎士の強さのハンデを決定的なまでに埋めてしまう――と思っていた。


「なんちゃって」


 うつむいていたカトルが顔を上げ、にや、と白い歯を見せた。


「相変わらず甘いよ。兄様の魔法じゃぼくは倒せない」


「な、なんだと!?」


「この期に及んで往生際が悪いぞ!」


「わかってないな。キシリ兄様の『切り裂きの魔法』は剣が当たらなければ何の意味もないし、ミルド兄様の『硬化の魔法』だって硬いだけじゃ防げない攻撃もあるんだよ?」


 その言葉を聞いてキシリとカトルの顔が真っ赤になった。


「そこまで言われたら弟といえど容赦できん!」


 キシリが、背中から噴出させた魔力のオーラを木剣にまとわせ、振りかぶった。

 ちょっ……! キシリの目は本気だ! あの地面をケーキみたいに切り裂いた魔法をカトルにやるつもりだ!


「死んでも文句は言わせんぞ!」


 やめろ!! とぼくが叫ぶよりも早く、キシリは木剣を振り下ろした。

 その木剣を、カトルが両手で挟んでキャッチした。

 真剣白羽取り!?


『なっ!?』


 キシリとミルドとぼくの驚きの声が重なった。

 なんてやつだ! 受け止め損なったら真っ二つにされる魔法を、素手でキャッチするなんて。並の動体視力と度胸じゃできっこない。

 カトルは両手で挟んだ木剣の刃を捻って奪い取ると、キシリの脇をすり抜け様に一閃させた。


「いくら強力な攻撃でも、当たらなければ意味がないよ」


「ぐはっ……!」


 木剣を振り抜いたカトルの背後で、キシリが崩れ落ちた。


「や、やったな!? カトル!」


 キシリが倒れるまでを呆然と見ていたミルドが、慌ててカトルに向き直った。


「おまえの魔法では私は倒せんぞ! さあ、何度でも打ち込んで――」


 と、ミルドが長ったらしい挑発をしている間に、カトルはミルドの背後へ素早く回り込んで、首に腕を絡ませていた。


「あがっ……!?」


「前から言おうと思ってたけど、剣も弓矢も砲弾も効かなくても、息を止めたら無意味だよ? ミルド兄様?」


 ミルドの首を締め上げて呼吸を止めたカトルが余裕たっぷりに言う。

 ほどなくして、じたばたともがいていたミルドが、がっくりと頭をもたげて動かなくなってカトルの足下に崩れ落ちた。


「卑怯者め……」


 そのとき、先に倒れたキシリが、よろよろと苦痛に歪んだ顔をあげて言った。


「おまえの使う魔法は卑怯だ……! 私たちの使う魔法に比べたら、おまえの使う魔法は――」


 ばたり、とキシリが気絶する。

 「おまえの使う魔法」?

 カトルはいま、魔法を使ったのか?

 魔力オーラは見えなかったし、呪文を詠唱したわけでも、魔法アイテムを使った様子もなかった。

 いったいどんな魔法を使ったっていうんだ?

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