魔法使い小野真太朗 1
「こいつが、ミリヤロッテ・エミリオクシズの好きな男?」
ミリヤから預かってきた姿見のクリスタルを覗きこんだカリアが皮肉げに言った。
「なんかいかにもモテそうな男」
先にクリスタルを覗いていたぼくは、カリアの率直な感想にうなずいた。
ミリヤの片想いの男の名前は、カトル・ガルガンディーナ。
剣術と魔法を操る魔法騎士の家系の三男坊だという。
長身に、長い手足、たくましい筋肉がついた胸板と引き締まった腰をしていて、飾りのたくさんついた騎士の礼服とマント、ベルトに差した長剣。
長い金髪を後ろでまとめ、ひきしまったシャープな顔立ちに、切れ長の二重まぶたをした青い瞳、鼻筋の通った高い鼻、薄い唇。
まるでフランス革命を設定にした少女マンガにでも登場しそうな設定の持ち主だ。
「ひきこもりになる前、自宅で開かれた晩餐会に出席したカトルに一目惚れして、その場で文通の申し込みをしたんだって」
「それって、例の巨乳女に変身した姿で申し込んだんでしょ?」
「『だってしょうがなかったのだ!!』って、ミリヤは真っ赤な顔で嘆いていたよ。美少女に変身しないと、とても文通を申し込めなかったみたい」
「じゃあ、カトルはミリヤのこと巨乳だって思い込んでるわけね?」
「三ヶ月にわたって、変身した姿を映したクリスタルと、手紙を交換し合ってるから、完全に信じ込んでるだろうね」
「その正体が、実は貧乳のひきこもり女とは知らず……」
「なんでさっきから胸ばっかり強調するの?」
「ふん、男なんて、女の見た目しか見てないからよっ!」
カリアはベッドに寝転び、カトルの姿が封じ込まれたクリスタルをまた覗いた。改めてカリアの姿を見ると、今朝見たときと同じパジャマ姿。
「こいつも、見た目しか見てない薄っぺらそうな男」
「見ただけでわかるのかよ」
「あんたはなんでわからないのよ。よく見なさいよ。こいつの着てる服、この間オペラクリスタルで観た『王子リアムと封印の剣』で、リアム王子がが着ている服と同じよ」
「なんだよその面白そうなタイトル!?」
「あんまり面白くなかったわ。そこらへんにあるからあんたも観れば?」
「ていうか、また新しいオペラクリスタル買ったのかよ!? 人が仕事で稼いだ金で無駄遣いをするなとあれほど――!」
「流行の服を真っ先に着て女に披露する男が、女ウケを狙ってないわけないじゃない。まったく、あんたもミリヤも男を見る目なさすぎ」