成長
数年が経ち僕らは少しだけ成長した。僕は、バイトができるまでになり、凌は表情をつけることができるようになった。
「ただいまー」
僕が料理していると猟賀さんが帰ってくる。ドアが閉まる前に凌は読んでいた本をその場におき、猟賀さんの元へニコニコしながら、走っていく。
「お、ただいま凌」
「(満面の笑み)」
凌は多分、半分記憶喪失なんだと思う。だって、あの頃の凌は笑顔なんてあまり見せてくれなかったし、兄なんて嫌いみたいだったから。まぁ本当は好きだったみたいだけど。
でもさ、猟賀さん。でれでれしすぎじゃありません?いくら、凌が可愛いからって、大の大人が膝の上に自分の弟乗せるって…どうなんでしょう?
まぁ凌が楽しいならいいか。
「猟賀さん、もうすぐご飯できるんで、着替えてお皿の用意してください。」
「はいはい、ったく人使い荒いよなぁ。凌もそう思うだろ?」
首を傾げる凌はものすごく可愛い。もともと可愛い顔だから余計に可愛い。
着替え終わったのかお皿を重ねる音がする。と思っていたら、ガシャンッと音がした。
「何やっ…大丈夫!?凌」
「大丈夫か!?凌!!」
なるほど、お皿を用意してたのは凌だったってわけか。涙を浮かべながら、うつむき、破片を拾おうとする凌。
「さわんなっ!!」
思わず僕までびっくりするほどの猟賀さんの大きな声に凌が怯えて僕にしがみつく。
「あ……ごめんな大きな声出して。でも、危ないから、な?怪我したら嫌だろ?だから触るなよ、ってこと。」
凌は僕にしがみついていた手を離して猟賀さんにしがみつき、涙を落とす。やっぱり凌は猟賀さんのこと好きなんだなぁ。
猟賀さんはごめんなと言って凌をあやす。そして僕に向かって、わりぃそれ片付けといてくんね?という。
全く、扱いが違いすぎる。ま、仕方ないっか。僕も猟賀さんも凌が大好きだから。
それから僕は食器を片付けて、料理を再開した。そして、凌が泣き止んだ頃に夕飯を食べ始めたのだった。