君と僕とで始める「らぶこめ」
「ねぇ!今からラブコメディを目指そうよ!!」
「はぁ?なんだそりゃ?」
突然わけのわからないことを言い出すのは、いつものことの我が幼馴染。そろそろ大学生としての自堕落な生活にも慣れてきた今日この頃。初めは自堕落を満喫するのだ!!と豪語していたこの小さい幼馴染は、早くも飽きてきたらしい。
「だから!ラブコメディだよ!ラブコメディ!いいよね~。ラブコメ……ただのラブじゃなくてコメディもついてくるんだから、一粒で二度おいしいってやつだよね」
まるで恋する乙女のごとく、祈るように手を組みながらあほ毛をピョコピョコよ揺らす彼女。いったい今度は何に影響されたのか……面倒なことこの上ない。それに、
「お前、ラブコメって言ったら普通高校が舞台だろうが?俺らはもう大学生。気づくのが一年ばかり遅すぎたな。諦めろ。大体お互い相手もいないんだからどうしようもねぇだろ」
そう。ラブコメといえば高校が本番。男の子と女の子の魂が入れ替わってしまったり、男子高に海外から女の子が転入してきたり、才色兼備の女生徒会長が実は性格悪かったり、小さいタイガーがいたり、花の4人組がいたりとか、そういうドタバタを巻き起こすための有りそうでないギミックが必要なのだ。俺たちみたいに、ただ惰性で大学まで来たような、平平凡凡の2人組ではどう転んだってラブコメディーは成り立つまい。
しかし、俺の言葉に彼女は「ふっふーん」と自信たっぷりに口を開く。
「大丈夫だよ!晩婚化の影響でラブコメの舞台も大学が主流になっているのさ!!そ・れ・に~。相手ならいるじゃないか~。目の前に可憐な美少女が!!」
「却下だ。あとで米5キロやるからそれで頑張ってくれ」
「ラブ米!?」
俺の冷たい即答に、少し動揺したのか。いつもなら絶対に乗ってこない安易なギャグに乗ってきた……そんなにショックだったのか?そう思うと悪い気はしない。俺はゲームの画面から目を離して、イスに跨って「ぐおぉぉ」と唸っている幼馴染を見つめる。
……身体は幼児体型だが、だからといってまったく平らなわけではない。顔は…‥自分で美少女というだけあって、たしかにかわいいほうだろう。くっきりとした大きな瞳に形の良い鼻。上品で健康的な唇。そして、白磁のように白く滑らかな肌…‥加えて大学生になってから服の趣味が変わったのか、ちょうど膝上15センチくらいのワンピースから除く健康的な太ももは、短いズボンを下に履いていると理解していても心に訴えかけてくるものがある。
―ドクン。心臓が跳ね上がり、顔が熱くなってきた。幸いなことに彼女は、イスのローラー駆使して、部屋を行ったり来たりすることに夢中のため、自分の表情には気づかれていない。
「というか……止めねぇか!このくそ狭い部屋で、動き回るんじゃねぇ!!」
「え~。だって楽しいんだよこれ?昔は二人でよくやってたじゃん。それ~」
彼女はそう言うと、さらに勢いをつけしかも回転しながら俺の方へと向かってきた。えっ、バカ!?
「あはははっ、きゃっ!?」
「だっ…‥あぶっ!」
案の定、勢いをつけすぎたイスは俺にぶつかる前に転倒し、彼女は勢いよく投げ出されてしまった。―ドスン。狭い部屋に低い音が響き渡る。
「ッ痛……お前少しは先のことも考えろよな……」
何とか上手くキャッチできたようだ。自分の腕の中にスッポリ収まっている幼馴染に、呆れがちに声をかける。なんで、昔からこうなのか……ふうっと、軽くため息をつく。少しは反省してほしいもんだが、
「あははははは。おもしろかったねぇ!!ねぇ。もう一回していい?もう一回?」
全く反省しないのが、こいつクオリティだ。
「今度こそ怪我するぞ!このバカ!!」
俺は少し怒ったような声を出す。これではいつ大けがするかわからなくて、おちおち目を離してもいられない。いい機会だ。この場で反省させなければ!とそう思ってさらに追い打ちをかけようとしたところに、背中をギュっと抱きしめられて思わず声が出なくなってしまう。そんな情けなく固まる俺に、彼女は逆に追い打ちをかけてくる。
「……クスッ。だって危なくなったらこうやって、また抱きしめてくれるんでしょう?ねっ?だから……もう一回」
彼女の方が一枚も二枚も上手だった。いつもの子どもっぽい雰囲気はどこに捨ててきたのか、いきなり大人っぽい艶のある声を出すと、背中に回していた手を優雅に引き抜き、今度はがっちりと俺の顔をホールドしてきた。いつもと違う潤んだ瞳で見つめてくる幼馴染。何のにおいだろうか?同じ人類とは思えないほどの甘くていい香りが鼻腔をくすぐる。コレハ……ヤバイ……
「ちょっ!ちょっとまて。わかった!!わかったから!」
動揺を抑えきれずに思わず「わかった」を連呼する俺。心臓がロデオみたいに暴れて言うことを聞いてくれない。きっと顔は茹でダコのように真っ赤になっているだろう。ナサケナイ……今すぐ隠れてしまいたい衝動に駆られるが、逃さないとでも言うように、彼女はその大きな瞳でじっと見つめてくる。あわわわわわわわわわわわわ!
「……じゃぁ。今度、〇〇ランドのホテル泊めてくれる?」
「わかった!わかった!わかっ……はい?」
「やったー!!あっ。スイートにしてね!スイート!!あそこのスイートで夜のパレード見るのが夢だったんだぁ!!」
突然がっちり掴まれていた顔が解放される。自由になった顔を上半身と一緒に持ち上げると、両手を上げて喜ぶ幼馴染をじっと見つめる。やられた……男の純情を弄ぶなんて。というか、コ・イ・ツ!に弄ばれるなんて……。
俺が頭を抱えていると、それを見て彼女は「ふふーん」とすっきりしたように微笑んだあと、俺の胸にもう一度寄りかかってきた。
「どう?今度も却下できるのかなぁ?」
俺の胸に顔を預けて、小さくつぶやいてくる。その言葉に、今日一番の殊更大きなため息をつく。なんてことだ……何時も振り回されているが、今後はそれがもっと酷くなるのだろう。本当に酷い話だが、しかたない。降参だ。
「できねぇよ!」
そう言い切る俺に、花のような笑顔を向ける彼女。俺とこいつのコメディは、きっと今からが本番なのだろう。そのことを思えば、少し頭が痛くなって、とても心地よかった。
……チャラーン。何か幸せそうな効果音が、テレビから聞こえてくる。その前で、ゲームのコントローラーを握りながら、プルプル震えているのは、俺の幼馴染。彼女がやっているゲームは、いわゆるギャルげーだ。その主人公とヒロインの容姿や性格が自分たちとそっくりだと言って、この前中古屋で買ってきたのだ。
どうやらイベントの一つを終えたようだ。 俺はマンガから目を離して、画面を覗き込む。たしかに俺たちに容姿、性格ともに似ている。しかしどこをどう間違っても、例え天地がひっくり返ろうとも、俺たちではこうはならないだろう。そんなことをしみじみ思いながら画面を見つめていると、突然、幼馴染が吠えた。
「ねぇ!ラブコメしよう!ラブコメ!!」
「えっ!?まじで?」
俺たちのラブもコメディも、今から始まる……のか?
この二人は「クリスマスって美味しいの?」に登場していた二人です。この二人は書きやすいので、これからも何回か頼らせていただこうかと思っております。
何か打ち切りマンガみたいな終わり方になってしまいました。しかも何か古い。ラブコメを書くのは予想以上に難しかったのです。また、挑戦してみたいと思いますが。
では、感想など有りましたら、御遠慮なく連絡ください。
4/18 見直してたら、間違いが多かったので手直ししました。あと、少し表現もいじりました。内容は変化ありません。投稿したあとは、基本的にいじらないように今度から気をつけます。他にも気づいたことがあれば、遠慮なく連絡ください。