第四話 屋上
睡魔による誘惑に四時間全て耐え、現在は昼休み。何時ものように屋上で弁当を食べていた。
多くの学校では、屋上に行ってはいけないという制限があるが、この学校にはない。
一緒に昼飯を食べるメンバーは、俺を含めた五人。俺、鈴音、瑞穂、癒菜、修也だ。
氷室鈴音は俺や瑞穂と同じクラスで陸上部の副部長を勤めている。瑞穂とは中学からの知り合いで、俺もその頃に知り合った。
比較的穏やかな瑞穂とは違い、活発で誰とでもすぐに仲良くなれるやつだ。……う、羨ましくないぞ? これでも友達は……まあ、多いとは言えない。精々ここにいるメンバーくらいだ。
「僕がこの場所にいると君のハーレムに参加しているみたいだね」
と、いきな りバカなことを言ってきたのは、悪友の金城木葉。
俺の友達の中で唯一部活に入っていないやつだ。
俺も部活には入ってないが、大した理由はない。入る理由がないから入っていないだけだ。
もっと詳しい説明をすると、こいつはそこそこのイケメンなのに探偵みたいなことをしているからモテない残念なやつだ。
「何だ? 自覚していないからハーレムのメンバーを教えてほしいのかい?」
そんな顔をしていたのか? 好きな人に次の日告白しようと思っていたら、実はその子が転校していた時ぐらいショックだ。そんな経験はないけど。
「時に悪友よ。俺も色々考える生き物だ」
「そりゃ、君は人間だからね。ここで本当は妖怪でした、とか言われたら僕は軽 蔑した目で見てしまうかもしれない」
そんな宣言をするつもりはない。もしそうだったとしても時と場合を考える。
俺はチラリと横目で癒菜を見て、距離があるのを確認すると話を続けた。
「妹たちのことなんだが」
「却下だ――」
「はやっ!」
「――とは言わない」
「紛らわしいわ!!」
本気で殺意が湧いたのは俺だけだろうか。それに却下しないなら言わなくてもいいだろ。
「まあ、話は妹たちの下着のことになるんだけど」
「卑猥な方向に話しを繋げるお前を少なからず尊敬する」
本当に尊敬の眼差しを向けてくる木葉をあえてスルーして、何の序でかはわからないが序でに木葉の弁当箱からウインナーを回収する。
何も言わないので、そのまま自分の口に運ぶ。 あ、普通に美味い。
「で、話は下着の話になるんだけど」
「その話は釧長女やその他の女どもに聞かれる可能性があるのに言わなければならないことなのか?」
僕はないと思うよ、と木葉が言う。
そんなことはない。女性の下着には、男の夢を隠すという特殊能力が付いているんだからな。これについて話さなければ、一体何を話せばいいんだろうか。
「俺の家の家事は、大抵癒菜がやっているから当然洗濯も癒菜がやることになるんだ」
「僕の言うことは聞いてくれないんだね?」
「一々口を挟むな。話が途切れるだろ。……で、この前たまたま洗濯機の中を見てみると、なんとそこには黒のレース下着があったのさ」
そこで俺は、誰のかはわからなかったが、と付け足した。
「………………」
「いや、話が終わったんだから何とか言ってくれよ」
「君って意外に面倒だね」
パクっと一口で卵焼きを食べて、木葉は呆れたような落胆したような表情を見せた。
それから木葉は、でも、と言って、
「黒のレース下着があったところでそれが何なのだい? それはファッションセンスなんじゃないのかい?」
女性に対して特に興味のない木葉には難しい話なのかもしれない。
しかし、黒のレースはファッションセンスうんぬんで着けていい代物ではないのだ。
多くは女性が勝負下着として着用するものである。
つまり、俺の妹の誰かは既に彼氏とそこまで発展しているというわけだ。このままでは非常に不味い。妹の純潔が奪われてしまう。
癒菜はともかく他はみ んな高校生にもなっていない。親父は長期出張だから父親代わりの俺は、そんなことを絶対に許してはいけないのだ。
「心の声が駄々漏れだよ。けどまあ、もしかしたらということもあるんじゃないかい?」
声が駄々漏れしていたことにも驚いたが、それよりももしかしたらの方が気になる。
「もしかしたら?」
ああ、と言って、勿体振るように水筒の緑茶を啜る木葉。お茶じゃなくて緑茶。何でわざわざお茶より面倒な緑茶を作ってくるのだろう。まあ、それは人の好みか。
俺も木葉の水筒から自分のコップに緑茶を注いで、一緒になって啜った。ちょっと苦いが、これがまた癖になりそうな味だ。
「もしかしたら君に見せるためじゃないかな。見せる……いや、魅せるためにね」
「何で 俺に見せるんだ? 魅せる? 見せる? それはどっちでもいいか」
「まさか自覚していないのかい? 君の妹たちが可哀想だよ」
横目で癒菜を見て、それから俺の方を向きニヤリと不気味に笑った。
背筋がぞくりとする。相変わらずこいつの特殊な笑いかたは気味が悪い。
「何を自覚すればいいんだよ」
「それは自分で見付けないと意味がないんじゃないかな」
「自覚しないといけないものなのか?」
「僕としては、どっちでも面白いとは思うけど……彼女たちからすれば、自覚してほしい反面自覚してほしくないだろうね」
俺はだいたい八十度くらい首を傾けた。これ以上傾けるともげてしまいそうだ。
……で、結局どうすればいいんだろう? 自覚してほしいのか自覚してほ しくないのかはっきりしてほしい。
それを妹たちに聞いても教えてもらえないだろう。
まあ、下着の話はもういいか。ちょっと長く話しすぎたな。そろそろ昼休みが終わる時間だ。
半分も残っていた弁当を手当たり次第に食べていく。
序でに「お腹いっぱい」と言って、三分の一程度残っている弁当箱を地面に置いた木葉の分も残さず食べる。男子高校生は、目の前の木葉を除いて食欲旺盛だ。
俺が可笑しいんじゃない。木葉が可笑しいんだ。そこは勘違いしないでほしい。
それと木葉の弁当を食べている時に再度思ったが、やっぱり癒菜の弁当は美味しい。ウインナーの焼き加減や卵焼きの甘さ。何れをとっても最高だ。
癒菜のご飯を食べている時は、まさに至福の時と言っても 過言ではない。




