第二話 朝
一枚、また一枚と本のページをゆっくり捲る。
俺こと釧風柚木が、高校に行く前にリビングで読んでいるこの本は、ライトノベル――通称ラノベと言って、俺の大好きな本の種類だ。
家を出るまでに多少時間があるから何故俺がラノベを大好きか教えてやろう。
何故かと言うと、俺がラノベに興味を持った頃に読んだラノベの主人公が、俺の環境と似ていたからだ。
その主人公と俺の似ている環境とは――、
「兄さん、ご飯が出来ていますよ。早く食べないと遅刻してしまいますよ」
「ああ、悪い悪い。すぐ食べる――」
「お兄ちゃん! 何で昨日はすぐに寝ちゃったの? 一緒にゲームするって約束したじゃん!」
「ごめんごめん。昨日は疲れて――」
「柚木兄ー! 私の制服知らないー? 見当たらないんだけどー」
「俺を柚木って呼ぶな! それに俺は知らないぞ。自分の部屋――」
「……にぃに…………。………………」
「何も言わないのか!? それはそれで何とも言えないんだが! とりあえず――」
「うるさい、バカ兄貴!! 静かにしといてよ!」
「……疲れたよ。先に行ってるからな」
……毎朝がこんな感じ。嫌になってくる。
そう。俺には、五人の妹がいるのだ。
中には血の繋がりがないやつもいるが、それでも一応妹になっている。苗字も全員一致。いや、当たり前だけど。
学校まで結構な距離があるので、妹たちの自己紹介をしよう。
一番最初にご飯のことを言ってきたのが、長女の釧癒菜。
高校一年生で、高校二年生の俺と一歳しか変わらないのに掃除洗濯料理、引っ括めて家事なら何でもできるのだ。
ちなみに癒菜は、俺と血が繋がっていない。俺の誕生日に親父が、何処からか拾ってきた女の子である。
二番目でゲームの話をしてきたのが四女の釧琴音。
……順番通りに話し掛けてくれれば説明しやすかったのに。
まあ、それはおいといて。
琴音は小学六年生で、長女の癒菜と違い家事は全くできず頭も悪いが、運動ができてソフトボール部のキャプテンをやっているらしい。
俺と琴音は母親が違うが父親は同じなので、一応血は繋がっている。
次に、制服を探していたのは、次女の釧美姫。
中学三年生で何でも一通りはできてしまう、所謂天才児だ。まあ、それでも癒菜には及ばない。
言い忘れていたが、癒菜は頭脳明晰スポーツ万能家事ができるという完璧児なのだ。
多分総合では誰も勝てないだろう。個々ならば、五分五分以上。それくらい癒菜は凄い。
話が逸れたな。誰の話をしてたっけ? ……ああ、美姫か。
美姫は色々な運動部の助っ人をしていて、特定の部活には入っていない。
癒菜と同じで、俺と血が繋がっていない拾われ児である。親父に何処で拾ったかを聞いたが、教えてくれなかった。美姫と癒菜は、親父と同じ秘密主義者なので、聞いたが無意味だった。
残る二人の内、殆んど何も言わなかったのが、五女の釧愛。
人のことは言えないが、『愛』と書いて『ちか』と読むのは、珍しいと思う。まあ、本人が気に入っているようだからいいけど。
俺は愛と違って風柚木という名を気に入っていない。
風柚木って何だよ! せめて冬樹か冬木にしてほしかった。風を入れたかったのなら風雪。どうしても柚木は入れてほしくなかった。今更言っても無駄だけど。
話を戻すが、愛も癒菜や美姫と同じで拾われ児。此方も親父の秘密主義発動で、何処で拾われたかは、わからない。愛も深い意味がないこと以外教えてくれなかった。
最後は、俺を罵倒してきた三女の釧舞。
唯一俺と両親が同じちゃんとした実妹だが、口が悪い。良い言い方をすれば、多分ツンデレ。俺はデレを見たことがないけど、ツンがあるならデレもあるだろう。
おっと、そんなことを言ってる間に学校に着いてしまった。学校までの道程が好きなわけじゃないから別にいいけど。
逆に学校が嫌いだったりする。俺は特別政治家とかそんな偉い人になりたいわけじゃない。じゃあ、何になりたいと聞かれれば、作家になりたいと答えるだろう。ライトノベルの。
それなのに無理矢理、長い時間授業を受けさせる理由がわからない。俺みたいに将来作家になりたいやつには必要かもしれないが、野球選手とかサッカー選手とかだったらまず運動させろよ。
させなくて勉強も中途半端なのにプロになれなかったら終わりだろ。そいつの人生真っ暗だ。
それでも学校に行ってるのは、俺には必要だからであって。
そんなどうでもいいことを考えていると、ポンッと背中を軽く叩かれた。
「いって~! これは骨折したな」
「えっ!? そんなに強く叩いたような気がしないんだけど……ごめんね? 大丈夫?」
「無理だわ。もう瑞穂がキスしてくれないと治らないな」
「ふぇ!? どうしても? しないと治らないの!?」
「ああ……もう、時間がない……」
説明が遅れたな。こいつは響平瑞穂。
かなりの天然で、悪い言い方をすれば馬鹿。しかし、テストの点数などは、癒菜と良い勝負ができるぐらい賢い。
それにしても……ちょっとからかいすぎたか? そろそろ教室に行かないと遅刻してしまうかもしれない。
「ん……」
ん? 瑞穂は何をしてるんだ?
目を閉じてゆっくり唇を近付けてくる。
もしかして本当にキスしないといけないと思ったのか? いや、冗談だったんだけど。それに俺の方が十センチくらい大きいから届かなくて背伸びをしている。足がプルプルしていて面白い。
「瑞穂、冗談だ。早く行かないと遅刻するぞ」
こんなところを癒菜や他の妹たちに見られたら笑い者にされてしまう。
それに瑞穂と俺の妹たちは、何故か仲が悪い。しかし、何故か俺の話になると、意気投合して仲が良くなる。
女ってのは、本当によくわからん。
噂をすれば、ということにはならず、それから俺と瑞穂は教室に向かった。




