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龍神たちの晩餐  作者: 一花カナウ
第一章 メイズ
7/30

赤き龍

 深い闇に閉ざされた空間。ヘイゼルはその中に自身が浮かんでいるのに気付いた。あまりの暗さに、目を閉じたままなのかと思ったが、そうではないらしい。

 手や足の感覚がない。身体の感覚もない。よって痛みや感触といった情報は一切遮断されている。

(ここはどこなんだ?)

 記憶を遡る。どうやらシエルによって力を封じられ、それで気を失い、肉体と精神を引き剥がされてしまったらしい。下手をしたら、一歩でも間違えれば、それはつまり『死』ということになる。

 しかしまだ、身体は生かされているらしいことが彼には分かった。この体験は以前にもあったからだ。

「おい」

 呼びかける。何者でもない、そこにあるだろう巨大な精神の塊に。

 知らぬ人間はその存在を『神』と呼ぶらしかった。九つの龍に例えられる精神の流れの一つ。赤の龍として彼に感じられるそれは、静かなうねりを伴っている。

「まだ俺を死なせるわけにはいかないんだろう? 彼女に力を貸してやるよう、他の奴らに頼んで欲しい。彼女の身が危ない。阻止されたくないんだろう?」

 緩やかなうねりは変化を見せない。

「例の、お前が言うところの導師がこの街に来ている。同じ過ちを許す気がないなら、力を貸してやってくれ。わかるだろう?」

 必死になって協力を求める。だが、反応は薄い。

(所詮一人間の言う事なんて耳を貸してなどくれないのか)

 絶望しかけたとき、うねりは激しい波となった。

『……人間よ……そは何故に人に味方をする?』

「それは、可能性を持っているからだ」

 きっぱりと言い放つ。確信を持って。

『なにゆえに、可能性に期待をする? 汝もまた、人間に失望していたではないか』

「……だからあんた等は俺に手を差し伸べたのだろう? 生け贄となる道を」

 意識に直接叩き込まれる言葉を伴わない意志を、ヘイゼルは自分の知る言葉に翻訳して返す。

『……あの少女も、汝と同じものを持つようだ』

 しばしの沈黙は、思考していたらしい。ヘイゼルの記憶をなぞり、少女にその適正があるかどうかを見極めていたのだろう。彼はこの停止をそのように解釈する。

「頼む。彼女は望んでいる。どうか、手を貸して欲しい」

 力強い気配の動きをヘイゼルは自分の内部で感じる。とても奇妙で気持ちの良いものではないが、どこか懐かしい感じがするのも確かだ。この世に生まれる前に感じ取った『それ』なのかも知れない。

『さぁ、どうかな』

 ぐしゃぐしゃにかき乱される意識。ヘイゼルは自分が自分であることを瞬間忘れた。自分という境界が曖昧にぼかされ、世界と交わり、そして新たなる一つのものに収束される。それが、この世にあるべき形の器に帰っていくのだ。

 世界の外から帰ってくる、その感覚が彼にはあった。


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