新しい仲間
ルルディが起きたら訪ねるように、と言われていた奥の部屋に着く。声を掛ければ、中に入るようにと促された。
「気分はどうだい?」
アスファルは大きな木製の机の前に腰を下ろし、組んだ両手の上に顎を載せていた。両隣には人形の召使いが立ってこちらの様子を窺っている。
「はい。ご心配おかけしました」
ルルディがぺこりと頭を下げる。彼女の長い髪がさらさらと揺れた。
「いやいや。お嬢ちゃんの考えと力には驚かされたよ。黄の龍に訊けば、次の祭までは充分に機能するとのことだ。感謝するよ」
告げて、彼は豪快に笑う。
(あれ?)
ヘイゼルはそこで違和感を覚えた。笑っているのに、彼の身体が動かない。人形だからかとも思ったが、初めて会った時は人間の仕草そのもののように身体を揺らしていたはずだと考え直す。
(まさか、このまま眠りについてしまうのか?)
不安になって話し掛けようとすると、先にアスファルが語り出した。
「――ヘイゼルは気付いているようだな」
真面目な声色に、ヘイゼルは背筋を伸ばす。そして、問うことにした。
「あの……そのお身体、具合でも悪いのでしょうか?」
「具合が悪いなんてとんでもない。使い勝手の良いできた人形だが、これからは都合が悪そうだからな。乗り替えることにしたのさ」
愉快そうな口調で告げられる。
「乗り替える……?」
ルルディがヘイゼルの方に視線を向けるのと、ヘイゼルが彼女に目を向けるのと同時だった。お互いに状況がよくわからないらしい。
「少々慣れが必要だが、カフラマーンを出るまでにはそれっぽく振る舞えるだろうさ」
アスファルの背中から肩に顔を出したのは、一匹の黄色い蜥蜴。するすると短い四肢を動かして、片付けられた机の上に下りてきた。
「え! この蜥蜴さんがアスファルさんなんですか?」
目を丸くすると、すぐにルルディは蜥蜴に近付いた。興味津々のようで、瞳が好奇の色で輝いている。
「いかにも。人型だと魔力消費が激しいし、食事をしないのも不審がられるだろう。旅をするなら、小型の動物がいい」
「ってことは!」
ルルディが勢いよくヘイゼルに顔を向けた。満面の笑顔で。
「ヘイゼル、君たちの旅に同行してもよいかな? 国民を取り戻すため、国を復興させるため、情報が欲しい。協力してくれないか」
机の上の蜥蜴が頭を下げる。ヘイゼルは胸が熱くなるのを感じながら、大きく頷いた。
「えぇ、喜んで」
「そうと決まれば、今夜は宴だ! 旅立ちに相応しい愉快な宴にしようではないか」
アスファルの声に応じ、少女の姿をした召使い人形が動き出す。
「ですねですねっ! 今夜は盛大な宴にしましょ!」
「無事に祭事を終えたしねっ! 今夜はご馳走だよっ!」
くるくると舞い、召使い人形たちは部屋を出て行った。