煙る地下室
煙が充満していて視界が悪い。ヘイゼルは魔法の光を灯し、建物の中へと進む。奥のほうから少女の咽ぶ声が聞こえていたからだ。
やがて行き着いた地下室。焦げ臭さが鼻腔を掠める。
(くっそ……よりにもよって……)
真っ青な髪の少女が立ちすくんでいた。足元に転がる何かを見下ろしながら、両手で顔を、目元をこすっている。
「ルルディ?」
そっと声を掛けてみるが反応はない。
「ルルディ……?」
もう一度彼女の名前を呼ぶ。そして、近くまで来て彼女が見つめているものがなんなのかを理解した。
(これはっ……)
転がっていたもの、それはヘイゼルよりも年上と思われる男だった。よくよく見れば一人だけではなく、さらに二人ほど近くに転がっている。
ヘイゼルは慌てて彼らの状態を診た。万が一のことがあったら、そう思って確認したが命には別状はなさそうだ。少々身体を強く打ちつけたがために気絶しているらしい。
(なるほど、大体のことはわかったぞ……しかし……)
ヘイゼルはルルディをもう一度見る。服は乱れていないが、ところどころ煤けてしまっている。そしていまだに彼女の視界にはヘイゼルの姿が入っていないらしいかった。
(これが彼女のやったことだとしたら、後々厄介だな……)
魔法の暴発。
生まれ持った魔力に自身の技術が伴っていないときに起きやすい現象だ。ヘイゼルも身に覚えがある。今回の場合、彼女の精神に思わぬ負荷がかかり、結果として爆発を引き起こしたというところなのだろう。
(ルルディの魔力を思うと、この程度で済んだのは奇跡だ……)
致命傷を負うほどの威力が出なかったことが幸運であったようにさえ思えてくる。秘められた魔力が大きければ大きいほど、出力される力も大きくなる傾向があるからだ。
(事情を聞かれるのも厄介だし、ここはとにかく何事もなかったように出て行くとしよう)
ヘイゼルはルルディの肩に両手を置き、視線を合わせる。俯いた彼女の視界に入るようにしゃがんだところで、焦点がやっと合った。
「ヘイゼル……さん?」
「説明はあとでしてもらう。今はここを出るぞ」
「え、でも、その、そこにいる人たち……」
ルルディは足元で転がっている男どもに視線を向け、ヘイゼルの服の袖をぎゅっと握る。
「彼らが君に危害を加えようとした人間であるなら放置だ」
「でも……」
「心配するな。命に別状はない」
そう答えてやると、ルルディの表情がほんの少しだけ緩んだ。彼女が懸念していたのは、彼らの怪我の状態だったようだ。
「とにかく行くぞ。厄介ごとには関わりたくない」
ルルディの手を取り、ヘイゼルは強引に歩き出す。うめき声も聞こえてきたので、そろそろ気絶している男たちが目覚めてもおかしくはない。それだけではなく、他に人が入ってくることも考えられる。あまり長居はしたくなかった。
「す、すみません……」
足元が気になるらしく、小声で謝ってくるルルディの足取りは重い。
(こういうのにも慣れろと言うのは酷か)
ヘイゼルはいろいろと面倒になって、腕を強く引いて近付けさせる。彼女の軽い身体は簡単に引き寄せられた。
「抱えるぞ」
ルルディが返事をするのを待たずに、細い少女の身体を持ち上げる。抵抗がなかった。
「……」
(何の反応も無しか)
よほど怖かったのだろう。昨夕のような困ったような照れてるような態度をすることもなく、泣き腫らした目と強張った顔のまま、ルルディの腕が首元に回される。
「――しっかり掴まってろ」
見ていられなくて、ヘイゼルは視線をそらしたまま告げる。そして誰にも気付かれないように、二人はそっと地下室を抜けた。




