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龍神たちの晩餐  作者: 一花カナウ
第二章 ダンス
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不穏な影

 牢屋に入れられて三日目。窓のない部屋であるので正確な時間はわからなかったが、定期的に部屋に届けられる食事でそう判断する。つまり、今日が青龍祭最終日だ。

(結局あれから一度も来てくれなかったな)

 嫌がることを強制しようとしたヘイゼルを嫌って足が遠のいているのかもしれないし、儀式の日が迫って警備や監視の目が強くなったのかもしれない。どちらにしても、話ができなかったことには違いない。

 ヘイゼルはため息をついた。

(ま、黙って彼女が死ぬのを見過ごすわけにはいかないからな――そうだろ? 赤の龍神よ)

 滅多なことでは意識の表層に出てこない赤の龍神に声を掛けると、ヘイゼルは瞳を閉じて呪文を詠唱する。魔力を抑え込んでいる枷の一つを外すのだ。

 長い詠唱の後、座っているヘイゼルの身体を赤い輝きが包み込む。揺らめく炎のような不可思議な光。その光度が増していった刹那――。

 カチャッ。

 魔術錠が外れ、組んだ足の上に落下した。ヘイゼルは目を開ける。その瞳はさっき身に纏っていた光よりも澄んだ紅い色に染まっている。

(やっぱり楽勝だな)

 自由になった手首をくるくる回す。特に異常はない。

(――しかし、この気配はなんだ?)

 魔術錠を取り外したことで、より魔力を感じやすくなった。昨日寝る前に気付いていたように、地面を這いずり回るような嫌な気配が辺りに充満している。儀式が近付いている所為だろうか。

(この感じだと、魔物が出現しそうだな……)

 ザフィリを襲う魔物の出現はだいたい青龍祭の前後に集中している。その理由が青龍祭で披露される舞にあることを、ヘイゼルは見抜いていた。鎮魂と浄化の舞自体が一種の魔術で、それが行われることでこの町を魔物から守っているのだと。それゆえに、ルルディに舞を踊るように言ったのだ。

(とりあえず、外に出て状況を把握しておかねーと)

 ヘイゼルは自由になった手で簡単な印を結ぶ。

「エア・ラウド」

 周辺にある風の要素を集めて鉄格子にぶつける。空気の層が鉄格子に膜を張った。

「ブレイクっ!」

 ぱちんと指を鳴らすと、格子が音を立てずにぐにゃりと歪む。大人一人が通れそうなくらいに間隔が広がった一つの格子を慎重に抜けた。

(精霊魔法で対処するにも、要素が少なくてやりにくいな)

 ふうっとため息。精霊魔法を使うには、近くに魔法を構成する要素がないと扱えない。今使用したのは、地上ならばほぼどこでも使用できる風系の呪文だ。

(風と地を中心に魔法を組み立てるように注意しよう)

 辺りを見回して誰もいないことを改めて確認すると、ヘイゼルは風の吹いてくる方向へと駆けた。出口があるとすれば、風が入ってくる場所だ。


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