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【祝2000PV 1000UA達成⭐︎】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第5章:星詠みの旅路 ―七つの金の鍵(後編)

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第5章・第8話:沈黙の白き修羅

記憶を喰らう見えないギミックの網の目を、シエルは『水と樹の鍵』を併用した即席の「精神防壁ファイアウォール」を展開することで強行突破した。

透明な硝子の迷宮を抜け、ついに三人は氷雪都市の最深部にそびえ立つ中枢――『クリスタルの城』へとたどり着いた。

しかし、その荘厳な硝子の正門はすでに開け放たれ、凄惨な戦闘の痕跡が残されていた。

扉は禍々しい『黒い焔』によってドロドロに溶かされ、その周囲には、イグノタフ侯爵家の特務部隊のものと思われる数十体の『灰色の石像』が、無惨に砕け散っている。

三人は息を殺し、砕け散った硝子と石の破片を踏み越え、城の内部へと足を踏み入れた。

「ここは……!」

内部の光景を見渡した瞬間、シエルは思わず声を漏らした。

外観からは想像もつかないほど広大な、巨大な円筒形の吹き抜け空間。

壁面には果てしなく上層へと続く螺旋階段が這い、その壁一面を埋め尽くしているのは、無数の『青白い硝子の本』が収められた巨大な本棚だった。王都の『時計台の書館』と酷似した、世界の根源データを記録するクリスタルの記憶媒体群。

だが、その荘厳な景色を眺めながら、バルドが義手で顎を撫で、険しい顔で口を開いた。

「……なあ、シエル。ここに来て、どうしても腑に落ちねえことがある」

「何?」

「外の硝子の大通りも、広場も、この城もだ。ベンチがあって、街路樹があって、道幅も広く取られてる。どう見ても『元々は人が普通に行き交う生活空間』として造られた設計だ。にもかかわらず、なんで人が歩く道のど真ん中に、あんな一撃必殺の消去レーザーやら、記憶を食い潰す悪魔のセキュリティが張り巡らされてるんだ?」

シエルは目を伏せ、『銀色の魔導鍵』をそっと床のクリスタルへと押し当てた。

アメジストの瞳に、この都市の底を流れる魔力データがホログラムとして展開される。それを読み解いたシエルの顔が、みるみるうちに蒼白になっていった。

「……バルドの言う通りだわ。この街は元々、システムを維持・管理するために人々が暮らす『箱庭』だった。最初はあんな凶悪なトラップなんて、存在しなかったのよ」

「じゃあ、なんであんなイカれた防衛網が敷かれてるんだ?」

「……暴走よ。システムが、人間という存在そのものを『不要なノイズ』だと誤認して牙を剥いたんだわ」

その真実に、ティオがハッとして獣耳を立て、周囲の広大な空間を見回した。

「……だったら、クリスタル・フォールに住んでいた人たちは、どこにいっちゃったの?」

ティオの声が、硝子の図書館に虚しく反響する。

「システムが人間を排除したっていうなら、戦った跡や、せめて骨くらい残ってるはずでしょ? なのに、この街には……特務部隊の石像以外、誰も死んだ匂いすら残ってないよ」

三人の間に、重く冷たい沈黙が落ちた。

その時だった。

「――みんな、消えたよ」

不意に、三人の『後ろ』から、ガラスが触れ合うような無機質な声が響いた。

ハッとして振り返ると、彼らが通ってきたばかりのクリスタルの柱の陰から、一人の『白い騎士』がゆっくりと歩み出てくるところだった。

白銀の甲冑に身を包み、右手には神々しい白銀の聖剣、左手には呪いのように黒く淀んだ漆黒の魔剣を握りしめた青年。

かつて王都で洗脳から解放されたはずの彼――カイル・イグノタフが、完全に虚無に染まった瞳で三人を見つめていた。

「このクリスタル・フォールは、かつて古代の魔導師たちが暮らし、そして一度『滅んだ』過去がある」

カイルの足音が、コツ、コツと冷たく響く。

「集まりすぎた特異点の魔力が致命的なバグを生み、暴走した防衛システムが、古代の住人たちを不要なデータとして完全に消去デリートした。……チリ一つ残さずにね。それが、この特異点の真実だ」

カイルは立ち止まり、硝子の本棚を虚ろな目で見上げた。

「そして……恐ろしいことに、そのバグは再び目を覚まし、南へと浸食を始めていた。何も知らずにこの街の周辺に現在住み着いていた人々も、過去に起きたそのバグの再発によって、すべて消し去られた」

「現在住んでいた人たちまで……消された?」

バルドが息を呑む。

「ああ。肉体も、記憶も、すべてシステムの光に呑まれて空間から消滅した。……助かったのは、私が『石』に変えた者たちだけだ」

その言葉を聞いた瞬間、シエルの脳内で、これまでバラバラだった不可解な情報データが一本の線となって繋がった。

バグを起こし、人間を「完全消去」して回る狂ったシステム。

それに抗うように、すべてを「石」に変え、物理的に時間を凍結させて回るカイルの行動。

「まさか……!」

シエルは銀の鍵を握りしめたまま、信じられないものを見る目でカイルを指差した。

「あんた、フロストフォールの街を住民ごと石にしたのは……ただの虐殺じゃなかったのね!? 暴走したシステムに街の人が完全に『削除』される前に、石化させることで彼らの生体データを物理的に保存バックアップした……そういうことなの!?」

バルドも驚愕に目を見開く。

「なんだと……!? じゃあ、あいつは街の人たちを消滅から守るために、あんな真似を……?」

シエルはカイルの正面へと数歩踏み出し、悲痛な声で問い詰めた。

「だったら、どうして何も言わないの! 自分が虐殺者の泥を被ってでも、システムから人々を守ろうとしたんでしょ!? なのに、どうして私たちにすら何も説明せずに……!」

しかし。

シエルの悲痛な問いかけに対し、カイルの表情は微塵も動かなかった。

「…………」

虚無の瞳には、かつての生真面目な青年の心も、人々を救おうとする熱い意志も、もはや欠片も残されていなかった。

度重なる洗脳と、絶望的なシステムとの対話。その果てに、彼のログはすでに修復不可能なほどに欠損し、ただ言葉を発することなく「最適解」だけを実行し続ける機械へと成り果てていたのだ。

カイルは何も答えることなく、ゆっくりと、白と黒の二振りの剣を交差させるように構えた。

「……これ以上、不確定要素イレギュラーにこの世界を触らせるわけにはいかない」

静寂な空間に、漆黒の魔剣から放たれる『石化の波動』と、白銀の聖剣から放たれる『浄化の光』が渦を巻き始める。

「答えて、カイルッ!!」

シエルの叫びも虚しく、彼はただ冷徹に告げた。

「――イレギュラーの排除を開始する」

「来るぞ! 構えろォッ!!」

バルドが叫び、シリンダーを限界まで駆動させてパイルバンカーを突き出す。ティオもサバイバルナイフを逆手に握り、地を蹴る体勢をとった。

「……言葉が通じないなら、力ずくで(ハッキングして)聞き出させてもらうわ!!」

シエルもまた、アメジストの瞳に猛烈な演算の光を宿し、『銀色の魔導鍵』をカイルへと突きつけた。

世界の真実が眠るクリスタルの城の最深部で。天才ハッカーと、心を失いシステムに抗い続ける白き修羅の、絶望的で悲しい死闘が今、幕を開けた。

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