たこ焼き魔王
「滅びよっ、魔王!」
勇者は光の剣を振り下ろした。
「せいやぁぁーーーっっっ!!!」
「ぐぅああぁーーーーッッ!!!!」
我は討たれた。光の剣が力を取り戻したのは想定外であったな···
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で、現在である!
じゅーっ。たこ焼き器の上で焼けるたこ焼きども。
「店長! ノマ4セット、紅抜き1セット、チーたこ2セット追加でっ」
「よかろう!」
ノマはノーマルのたこ焼き。紅抜きは紅生姜抜き、チーたこはチーズ入りである。
店員の人類、サトウユキコのオーダー通りに我は最適解の所作を演算した。
「ふぉおおーーーっっ!!!」
ピックで回転させてゆく。カリッとふわふわがこの『ヘルファイア軒』の流儀よっ!! フハハハッ。
素焼き状態の物をテイクアウト兼用の舟型パックに盛り、ソース、マヨ、青海苔、鰹節で仕上げる。
「へいっ、お待ちである!!」
「はーいっ」
サトウユキコは手早くあと乗せトッピングを足し配膳を済ませ、続けてテイクアウトの梱包を始めた。ふん、この時間帯はバイトを増やさねばサトウユキコの手が足りぬな。
ともかく駅から徒歩20分駐車場無しの強者物件であったが、今日も繁盛しておるわ。
大手が1パック700円前後の昨今、我が店は『620円前後』に設定してくれたわっ! 価格差にひれ伏せっ、人類よ! 怖いか? 80円差がっ?! クククク。
···といった調子で弱体化転生させられた我は魔法がロクに使えぬ地球世界で『一億円稼ぐまでたこ焼き屋を営む刑』に処せられていた。
くっ、なんたる辱め!! 神めっ! この大魔王デスヒローシ、軽々とこの刑を克しっ、リーラレア世界に再び顕現してくれるわっ!!!
「ノマ5セット、紅抜き2セット、チーたこ1セット追加でっ」」
「よかろう! ふぉおおーーっっ!!」
我のピック乱舞が冴え渡るわ。
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「お疲れ様でしたー。お先です」
「大義であった!」
閉店後、サトウユキコを見送り、売上を確認しタブレットに打ち込まねばならん。曜日にもよるが昼間のバイトにレジ打ちの下手な者が数名いるのでレジのデータと微妙に合わぬのだ。
と、光の魔力を探知! 来たなっ。
魔法陣が発生し、子供のなりをした天使が1人現れおった。ヤツもこの魔力希薄な地球世界では弱体化せざるを得んのだ。
「くっそ魔王。今日の取り立てに来てやったぜ?」
「くっ、天使長ゲスコエル! 血も涙もない金の亡者めっ、ちびっ子ギャングめっ!」
「うるせぇお前も子供店長状態だろがっ、今日の売上はよ」
12万8千···
「相変わらずこんな立地でも繁盛してやがるな。じゃ、2万5千円な」
無造作に念力で金を奪うゲスコエルっ。
「2万5千?! せめて2万2千」
「豆苗でも育てとけっ。あと現金払い歓迎します。て張り紙しとけよ? 手数料高過ぎだし、電子化すると取り出すのダルいんだよっ。あと9904万円だからな!! 税金も払えよっっ」
光の魔法陣で帰還してゆくゲスコエル。
「くぅ〜っっ、今日こそプレジデントビールで晩酌しようと思ったのにっ、天使長ゲスコエル! なんと無慈悲なヤツだっっ」
我は悔し涙を拭い、今日もPBの缶チューハイを買う決断をするのであった···
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『家で試作する体』で持ち帰ったグレイゾーンな店の食材で作ったタコライスとキュウリとタコのガスパチョをつつきつつ、我はPB缶チューハイを飲み、我は趣味とすることにしたボトルシップ造りに興じておった。
ワイヤレスイヤホンを付けVTuber闇散ら子の配信を流しておる。まぁ、闇散ら子は我共々この世界に放逐収監された元魔王軍四天王ダースリリスなワケであるが···
VTuberは売れると儲かるらしくダースリリスは収める金額を50億円に吊り上げられて大変らしい。不憫よな。
「···ステータス、オープン」
唱え、我が闇のステータスを虚空に表示させる。
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名称 デスヒローシ(出州田央士)
レベル1 種族 人間(大魔王因子含有)
筋力F 敏捷性F 直感E 魔力F 属性 無し
スキル 超魔力操作 超魔力探知 超五感強化 超身体強化 超高速学習 闇耐性 魔王のカリスマ 一般地球言語 リーラレア系全言語 高度たこ焼き調理 飲食店経営 精神耐性(ゲスコエルからのイビリ限定)
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我は改めて愕然せざるを得ない。
「Fばかり! 低過ぎるっ。オーク族以下だっ」
窓ガラスに映った自分の姿を見てみる。ぽっちゃりしているが人類の少年である。『背がすごく低いタイプだから』ということでごまかしているが、ギリギリだ。なにゆえかぽっちゃりしてるのとゲスコエルの公的書類改竄でなんとかなってはいるが···
「まぁいい、多少時間は掛かっても必ず果たして見せるぞっ! 刑期完済!! 再び闇の王としてリーラレア世界に復権してくれるわっ、フハハハ!!」
どんっ! 壁を蹴られた。
「···」
まず、稼いで高笑いしても壁の厚い部屋に引っ越さねばな···
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じゅーっ、今日も今日とて踏み台の上でたこ焼きを焼いておると、
「おいっ、くっそ魔王」
魔法陣ではなく勝手口から地球人類の女児服を着たゲスコエルが顔を出した。翼と光の輪も消しておる。
「なんだ? ゲスコエル。まだ営業中であるぞ?」
「服役中のインフェルノギガースが暴れてんだよ。『5万円免除』してやるからどうにかしろ。お前の元家臣だろ? あたしら天使は異世界に間借りしている身、強い力の執行は申請と事後レポートがしち面倒くせぇ」
厄介な。
「店はどうする? 我が店ヘルファイア軒はまだ営業中であるぞ?」
「あたしに任せろ。お前の『調理の天才児』の姪っ子設定でいく」
「平日の昼間であるが?」
「創立記念日なんだよっ」
前から思っていたが、この天使長は思考が雑であるな。
「···仕方あるまい。店員のサトウユキコに粗相のないようにな」
我が踏み台から降り、ほっかむりとエプロンを取ると素早く手を消毒し、我からほっかむりとエプロンを奪い取り嬉々とたこ焼きを焼き出すゲスコエル。さては前からやりたかったな···
「サトウユキコよ! どんどんあたしに注文しなっ」
「えー? 誰ですその子っ??」
「我の姪っ子で調理の天才児であり、創立記念日である」
「えー?? じゃあノマ3セット、紅抜き2セット、チーたこ2セットでっ」
「しゃっ、こーい!」
···ま、取り敢えず行くとしよう。インフェルノギガース。しょうのないヤツだ。
「待て待て、ステータスをC級限定解除してやる。あたしの部下が足止めしてる。とっとと片してこい!」
ゲスコエルが手を翳すと我の心臓の上に『C』の文字が浮き上がった。ドクンっ、力が溢れる。
「うむ」
我は勝手口から出ると一足飛びで4階建てビルの屋上まで跳び上がった。中々良い具合だ。魔力が逆巻き、身体人類の10代中盤程度に成長し、額に角が生え、犬歯も伸びスリムにもなった。破けそうな服や靴は魔力で稽古着風に再構成する。
続けて探知···そこかっ!
どうやらゲスコエルの配下が結界を張ってるらしいエリアを感じ取り、街の屋根から屋根、屋上から屋上へと掛けてゆく。
いた。どちらも人類女児風になっているが認識阻害フィールドで身を隠しつつエンジェルナイトのゴスエルとキックエルが神聖結界で一区画程度封鎖していた。
「うわっ? ホントに来たわ、魔王!」
拳法着風女児服のキックエル。
「ちょっとイエメンになってる···」
ゴスロリ風女児服のゴスエル。
「中に入れるがよい。我がのしてきてやろう。負けを認められぬのは見苦しい」
天使2人は顔を見合わせ、神聖結界に入口を開けた。
「中の人類やペットなんかの避難は済んでるよ!」
「記憶の改竄はあとでするから···」
「ふむ」
我は飛び込んでゆく。
無人の街は爆撃でも受けたように荒れておる。後の修復が面倒であろう。
暴虐の中心に炎の巨人がいた。四天王ガイアボッチ率いる魔王軍剛力怪人兵団所属インフェルノギガース。成長期の勇者と仲間達に早々に討ち取られ、ヤツもまた地球に弱体流刑されていた。
無理矢理本来の力を取り戻したようで負荷と制約で身体が崩壊しかかっておるな。
「インフェルノギガースよ。この魔力薄弱な地球世界で、その姿は危うい。弱体を受け入れ元の刑に服すがよい」
「これはこれは魔王様ぁ! このクソったれ地球世界でっっ、すっかり奴隷根性が染み付いちまったようだなぁ!! もう俺の方がっ、よっぽど魔王だぜぇー!!!」
電柱を引き抜き炎上させ、地を揺らして駆け込んできて殴り付けてくるインフェルノギガース。
ゴッ! 我はそれを片手で受け止めた。
「なにぃっ?! その刻印はC級だろっ? 俺はA級モンスターだぞ??」
我は電柱ごと近くのビルに痴れ者を投げ付け、叩き付けた。
「···大魔王である我が、貴様と同じ力の運用のワケがあるまい」
我は指先に炎を灯し、それを圧縮させた。熱気に我の周囲が焼け付いてゆく。
「その炎は上位火炎魔法?! 地球で使えるのかよっ??」
「ヘルファイア? 違う」
我は圧縮した炎を超高速で撃ち出しインフェルノギガースに直撃させ爆炎でビルごと包み込んだ。昏倒し、かなり大柄な人類男児の姿に弱体化するインフェルノギガース。
「今のは基礎火炎魔法だ。攻撃魔法ではない。王としての、慈悲である」
と言った側からC級限定解除が解けてしまった。
「ヤッバ。もうコイツずっと地球に収監しといた方がよくね?」
「···カッコイイ」
「ええっ?」
なにやら天使どもが騒いでおるな。ふん。
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じゅーっ。今日も今日とてたこ焼きを焼く。平日の午前中のやや暇な時間帯だが、人気店である我がヘルファイア軒にはそれなりには客は来る。
「たのもー! 今日は働かないぜっ?」
「ここが魔王の労役指定所かぁ」
「···こんにちは」
「ども、先日は失礼しました」
人類の姿のゲスコエル、キックエル、ゴスエル、インフェルギガースが入店してきた。
「ふぁーっ? 小っちゃい子一杯来たねー! ゲス子ちゃんのお友達?」
「配下と囚人だぜ!」
「えー??」
サトウユキコを困惑させつつカウンター席に座る4人。
「貢献してやる。あたしノマ1つとコーラ!」
「じゃ、ねぎ盛りとアイスコーヒーで」
「···チーズ明太子とクリームソーダ」
「すいません普通の3つとお水お願いします。自分、人類とやっぱ合わないんで、北海道の現地神族の農園で服役することになりました」
「うむ、よかろう。ふぉおおーーーっっ!!」
多くは言うまい。しかしインフェルギガースにはこの間家で作って美味かったタコライスも付けてやろう。
それぞれのやり方があるものだ。勇者に負けたのは口惜しいが、日々たこ焼き等焼いて凡な繰り返しの中、暮らすのも悪くはない、か? クククク。




