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魔法省魔術認定部部長の話  作者: 針鼠土竜


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3/7

執行

地下隔離区画に警報が鳴り響いたのは、エイルとの面談から十分後だった。


低く、連続した警告音。


戦闘級事案を示す音色。


 


執行官が即座に通信結晶へ手を伸ばす。


「侵入反応? あり得ない、結界は――」


言葉が途中で途切れた。


 


空気が、静かに冷えた。


 


アルクウェールは振り返る。


魔力の流れが変わっている。


いや、正確には。


 


整いすぎていた。


 


「……外部術式か」


 


次の瞬間、通路の壁面に描かれた封印式が同時に発光した。


そして。


音もなく、消えた。


 


破壊ではない。


解除でもない。


 


まるで最初から存在しなかったかのように。


 


「理論分解……?」


執行官の声が震える。


 


通路の奥から足音が響く。


ゆっくり。


迷いなく。


 


現れたのは一人の男だった。


黒い外套。


装飾のない杖。


年齢はアルクウェールと同程度。


だがその目には、明確な確信が宿っていた。


 


「久しいですね、認定部長」


 


アルクウェールは眉をわずかに動かす。


 


「……レオン・ヴァルシス」


 


天才。


そう呼ばれる魔術師は数少ない。


彼はその筆頭だった。


 


「民間研究機関に所属していたはずだが」


「ええ。現在は別の雇用主に」


微笑む。


「合理的な方ですよ。世界を動かす方法を理解している」


 


セドリック。


名前を出さずとも分かった。


 


執行官が前に出る。


「侵入罪で拘束する!」


同時に三名が術式を展開。


火炎拘束式。


重力固定式。


魔力封鎖。


 


完璧な連携だった。


魔術師としての最適解。


 


――だが。


 


レオンは一歩踏み出しただけだった。


 


術式が崩れる。


火は燃える意味を失い。


重力は方向を忘れ。


封鎖式は成立条件を見失う。


 


「どうして……!」


 


彼は軽く肩をすくめた。


 


「計算が遅いんですよ」


 


次の瞬間、空間が歪む。


圧縮された魔力が爆発的に解放された。


通路が吹き飛ぶ。


石壁が裂け、結界が悲鳴のような音を立てた。


 


圧倒的出力。


純粋な才能による魔術。


 


アルクウェールだけが動かなかった。


 


「なるほど」


彼は静かに言う。


「法則層への“近似アクセス”か」


 


レオンの目が細まる。


 


「理解が早い」


「理解はできる。再現はしないが」


 


アルクウェールが指を軽く振る。


床に描かれた微細な補助式が起動した。


光は弱い。


出力も低い。


 


だが。


 


崩れていた空間の歪みが、静かに収束した。


 


「……出力ゼロ補正?」


レオンが初めて驚きを見せる。


 


「過剰な魔力は誤差を生む。なら使わなければいい」


 


それが彼の戦い方だった。


最小干渉。


最小出力。


理論による制御。


 


天才が世界を押し曲げるなら。


達人は世界に合わせる。


 


二人の間で空気が張り詰める。


 


「その子を渡してもらいます」


レオンが言う。


「彼は未来を変える。だから管理されるべきだ」


 


アルクウェールは首を横に振った。


 


「違うな」


 


静かな声だった。


 


「君たちは未来を固定したいだけだ」


 


魔力が再び膨張する。


通路が震える。


 


そしてその時。


 


背後の隔離室から、小さな声がした。


 


「……けんか?」


 


エイルだった。


 


瞬間。


世界がわずかに沈黙した。


 


魔力が止まる。


術式が揺らぐ。


 


アルクウェールもレオンも同時に気づいた。


 


これは干渉ではない。


 


戦闘という現象そのものが、意味を失いかけている。


 


レオンの笑みが消える。


 


「……本物か」


 


エイルが立ち上がる。


ただそれだけで、空間の整合性が変化していく。


 


魔術が成立する前提。


法則の固定性。


それが曖昧になる。


 


アルクウェールは直感した。


 


この子は力を使っていない。


 


ただ、存在しているだけだ。

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