表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法省魔術認定部部長の話  作者: 針鼠土竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

捕縛

魔法省地下区画は、地図に存在しない。


公式には保管庫。


非公式には――隔離層と呼ばれていた。


 


アルクウェールが到着したとき、すでに結界は三重に展開されていた。


第一層は物理遮断。

第二層は魔力遮断。

そして第三層。


「……法則固定式か」


彼は小さく呟いた。


 


入口に立つ執行部の魔術師が眉をひそめる。


「さすが認定部長。見ただけで分かりますか」


「分かるように作ってある。つまり見せつけたいんだろう?」


返答はなかった。


それが肯定だった。


 


魔法省執行部。


魔術を管理する組織の中でも、唯一“強制力”を持つ部門。


認定部が理論を扱うなら、彼らは結果を扱う。


秩序の維持。


そのためなら手段は問わない。


 


「対象は?」


「児童。推定年齢五歳前後」


「罪状は?」


執行官は少し間を置いた。


 


「――未定義魔術の継続的発生」


 


アルクウェールは息を吐いた。


予想より悪い。


 


地下通路を進みながら、彼は壁面の術式を観察する。


通常の封印術ではない。


式が簡略化されすぎている。


 


「魔術式じゃないな」


「はい。魔法です」


 


執行官の答えに、彼は足を止めた。


 


この世界には二つの言葉がある。


魔法と魔術。


似ているが、本質はまったく違う。


 


「説明してくれ」


アルクウェールが言うと、執行官は淡々と答えた。


 


「魔術は再現技術です。理論に基づき、魔力を用いて現象を模倣するもの」


壁の紋様が淡く光る。


「対して魔法は、現象そのものの発生です。理論過程を経由しない」


 


つまり。


魔術は“計算”。


魔法は“結果”。


 


「そんなものを使う必要があるほどか?」


 


執行官の声がわずかに低くなった。


 


「対象の周囲では、魔術式が成立しません」


 


沈黙。


 


「干渉されるのか?」


「いいえ」


「なら?」


 


彼は答えた。


 


「成立する前に、意味を失います」


 


アルクウェールの理解が一瞬遅れた。


そして次の瞬間、背筋が冷えた。


 


それは干渉ではない。


破壊でもない。


 


――前提が崩されている。


 


魔術とは、世界の法則が一定であるという前提で成立する。


燃焼は燃焼として存在する。


重力は常に下へ働く。


だから式が組める。


 


だがもし。


法則そのものが揺らいでいたら?


 


「……法則層に触れているのか」


誰にも聞こえない声だった。


 


執行官は答えない。


答える必要がないからだ。


 


隔離室の扉が開いた。


 


内部は拍子抜けするほど普通だった。


石床。


簡素な椅子。


そして――


 


小さな少年。


 


床に座り、壁の光を指でなぞっている。


 


結界が、彼に触れた部分だけ微妙に歪んでいた。


壊れてはいない。


だが完全でもない。


 


少年が顔を上げる。


 


透き通った灰色の瞳。


恐怖も混乱もない。


ただ純粋な観察の目。


 


アルクウェールは理解した。


この子は怯えていない。


 


世界の方が、この子を理解できていないのだ。


 


「名前は?」


 


少年は少し考えてから答えた。


 


「……エイル」


 


その瞬間。


部屋の空気がわずかに揺れた。


魔力反応なし。


術式発動なし。


 


それでも、現象だけが変化した。


 


執行官が低く言う。


「ご覧の通りです」


 


アルクウェールはゆっくり膝をついた。


視線を合わせる。


 


「エイル。ここは怖いか?」


 


少年は首をかしげた。


 


「みんな、変」


 


その言葉に、彼は思わず笑った。


 


「そうだな。私もそう思う」


 


背後で執行官が告げる。


 


「本日付で対象は管理指定されます。軍事評価も開始予定です」


 


アルクウェールの笑みが消えた。


 


「……軍事?」


「未知は管理されるべきです」


 


それは魔法省の正論だった。


そして最悪の選択でもあった。


 


アルクウェールは静かに立ち上がる。


 


長年感じていた誤差。


世界の軋み。


 


その中心が、今目の前にいる。


 


そして同時に理解した。


 


これは災害ではない。


兵器でもない。


 


――指標だ。


 


世界がどれだけ歪んでいるかを示す、ただの結果。


 


「部長」


執行官が言う。


「あなたには理論評価を担当していただきます」


 


アルクウェールは頷いた。


 


だが心の中では、別の結論に達していた。


 


もしこの子を“管理”しようとすれば。


 


世界の方が、壊れる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ