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第6話 観測者
退院の日は、あっけなかった。
医師からの説明も、書類の手続きも、
すべてが事務的で、感情が入り込む余地はなかった。
「無理はしないように」
そう言って、白衣の男は視線を落としたまま付け加える。
「……しばらくは、外出も控えてください」
その言葉に、
なぜか背筋が冷えた。
忠告ではない。
命令に近い響き。
病院の出口を出たところで、
俺は呼び止められた。
「少し、いいかな」
振り返る。
七回目のループで会った医師だった。
白衣。
落ち着いた声。
変わらない目。
「君は、踏み抜いた」
前置きはなかった。
「0.02%を。しかも、想定より早く」
「……妹は助かりました」
「うん。だから問題なんだ」
医師は、空を見上げる。
「本来、君がそこにいる確率は、限りなくゼロだった」
「でも、いた」
「世界は、原因を探している」
原因。
――俺のことだ。
「君は、もう“ただの修正対象”じゃない」
医師は、はっきりと言った。
「観測される側から、
観測する側に近づいている」
意味が分からない。
分からないはずなのに、
言葉だけが、胸に沈んだ。
「代償は、必ず来る」
「身体、記憶、存在。どれかは選べない」
「世界が選ぶ」
そう言って、医師は去った。
振り返ったとき、
もう、そこにはいなかった。




