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第15話 妹が異変を口にする

朝、キッチンに立つ妹は、いつも通りの声で言った。


「お兄、朝ごはんできてるよ」


でも、俺にはその声が、いつもより少しだけ遠く聞こえた。

昨日より確実に、距離ができている。


「……ありがとう」


言葉を返すが、笑顔は出ない。

胸の奥が、じんわり冷えていくのを感じる。

これは、昨日までの違和感とは違う。

――妹が、気づき始めている。



学校への道すがら、妹がぽつりと言った。


「ねえお兄……最近、変だよね?」


その声は、疑問というより事実確認のようだった。

俺は立ち止まる。

言葉を返す間もなく、妹は続ける。


「顔も、動きも、声も……なんか、前と違う」


「ちょっと疲れてるだけだよ」


嘘は、頭では理解している。

でも、口に出すと、世界のルールを刺激してしまう気がして、言葉は喉に詰まった。


「ううん……疲れてるんじゃなくて、違うんだって」


その瞳が、初めて恐怖を帯びていた。

――そうか。もう、隠せない。



放課後、帰り道。

妹が手を止め、俺を見上げる。


「お兄、本当に……変だよ」


震えた声ではない。

決意の入った、まっすぐな声。


「昨日の夜も、変だった。

 私、なんか……分かるんだ」


心臓が凍る。

無意識のうちに、世界は彼女に手を伸ばし始めている。


「何が、分かるの?」


問いかける俺の声も、自然ではなかった。


妹は目を細め、口を開く。


「お兄、

 昨日……誰かに触られたみたいに変だった」


その一言で、血の気が引く。

――世界だ。

俺を削り、妹を監視する、世界そのものの干渉だ。



その夜、ベッドで横になりながら考える。


0.02%の未来。

まだ希望は残っている。

でも、妹が気づいた瞬間、世界の修正は本格化する。


俺が動けば動くほど、世界は容赦なく、代償を積み上げる。

それは、目に見える形で現れ始めた。


今日、妹が言葉にしたのは小さな一歩。

しかし、その一歩が、次の死を加速させるかもしれない。


胸の奥で、ひりつくような感覚が続く。

手が震え、ペンを握る力も鈍くなる。

存在感が、少しずつ薄れていく。



それでも、選択肢は一つ。


妹を守るために、俺は踏み込むしかない。


机に向かい、日記にペンを走らせる。


「俺が薄れても、守る」


文字が震え、インクが滲む。

それでも、文字は確かに紙に残る。

これが、俺が“まだここにいる”証拠になる。


だが、胸の奥で、何かが割れる音がした。

0.02%の未来を生きる代償は、もう、静かではない。


――世界は本気で、妹と俺を分けに来る。

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