第34話:摩天楼のゲートと、二人の女王
新宿の街を、一筋の黄金の閃光が切り裂いていく。
母・沙也加が駆る大型バイク『ナイト・ホーク』のエンジン音は、もはや咆哮に近い。
「……ひっ、ひぃぃぃ! 沙也加さん、ブレーキ! ブレーキを踏め! この速度でコーナーを曲がるのは慣性への反逆だ!」
サイドカーのような増設シートに押し込められた蓮司さんが、真っ青な顔で叫ぶ。
「うるさい! 蓮司くん、舌噛むよ! 朱里、障壁展開! 桐生のドローン軍団、まとめてブチ抜くわよ!」
「――やってやりますよ! 黄金の器、最大出力!!」
私はバイクを包み込むように霊力のドームを張り巡らせた。
都庁から放たれる迎撃パルスが障壁にぶつかり、火花となって夜空に散る。私たちの25メートル圏内。この狭い空間こそが、今や日本で最も強固な聖域だ。
1. 異界と化した新宿都庁
都庁の敷地に突入した瞬間、視界が「赤」に染まった。
かつての都政の象徴は、今や巨大な血管に覆われた心臓のようにドクドクと脈動している。二つの塔の間に、不気味な霊素の渦――人工門が形成されようとしていた。
「……あぁ、胸糞悪いな。桐生め、都庁の構造を依代にして、日本全土の霊素を強引に吸い上げているのか。……朱里、見てみろ。あれが、あいつの言う『合理的な神』の姿だ」
蓮司さんが、激しいGで乱れた眼鏡を直し、塔の頂上を指差した。
そこには、無数のケーブルに繋がれ、まるで磔にされたかのように宙に浮かぶ、赤い香水の女がいた。
「……えっ、女王が……捕まってるの?」
「……あぁ。桐生にとって、怪異の女王すら高効率な生体バッテリーに過ぎないというわけだ。……皮肉なもんだな。世界を滅ぼそうとした怪異が、今や世界を管理するシステムの部品にされているとは」
橘さんが、実体化した拳を固めて呟く。
女王の目からは、赤い血のような涙が零れ落ちていた。
2. 展望台への超高速上昇
私たちはバイクを乗り捨て、一気に展望台行きの直通エレベーターへ駆け込んだ。
上昇を開始した直後、エレベーターの天井が物理的に引き裂かれ、桐生が送り込んだ人造霊能者たちが雪崩れ込んでくる。
「……しつこいですね、もう!」
「朱里、供給を橘に集中させろ。エレベーターの加速Gを利用して、相対速度を相殺する……今だ!」
蓮司さんの指示が飛ぶ。
狭い密室、時速60kmで上昇する極限状態。
私は黄金の霊力を橘さんの背中に叩き込んだ。
「――還れ!! 九条流・迅雷送り(じんらいおくり)!!」
橘さんの拳が、エレベーターの揺れさえも利用して、敵の急所に突き刺さる。
バキバキと音を立てて崩壊する人造霊能者たち。
そして――。
チン。
不気味なほど軽やかなベルの音と共に、エレベーターの扉が開いた。
3. 二人の女王と、システムの見下ろす先
地上202メートル、展望室。
そこには、巨大なコンソールを叩き、データの大海に溺れる桐生勝己が待っていた。
「――ようこそ、欠陥品諸君。そして、朝比奈の新しい器よ」
桐生は振り返ることもせず、背後の巨大なディスプレイを見つめている。そこには、女王から抽出されたエネルギーが、全国へ送電される様子が刻一刻と映し出されていた。
「桐生……! あなた、女王を何だと思ってるの!」
『資源だよ、朱里くん。彼女という強大すぎる怪異を私が管理することで、日本は永遠のエネルギーを手に入れる。……彼女の悲しみも、憎しみも、すべて電力に変換される。これ以上の救済があるかね?』
「……ふざけるな。……おい、朱里。こいつに教えてやれ。……父親が命を懸けて遺した結晶は、資源を奪うための道具じゃない。……絆を証明するための鍵だってことをな」
蓮司さんの言葉に、私は懐にある黄金の結晶を強く握りしめた。
結晶が、女王の叫びと共鳴し、暖かな光を放ち始める。
「――桐生! あなたのシステムなんて、お父さんの愛と、私たちの絆で……今ここで、ぶっ壊してあげる!」
黄金の光と、赤い霧。
新宿の空を焦がす、最終決戦の幕が上がった。




