表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

第31話:地下室の記憶と、氷の微笑


 隠し階段を下りきった先には、カビの生えた地下室ではなく、異様なほど清潔で機能的な「書斎」が広がっていました。  壁一面に並ぶ古い和綴じの本と、それとは対照的な最新の観測機器。


「……ここが、お父さんの部屋?」


「あぁ。朝比奈一真が、一族の呪いから逃れながら、お前を守るためのロジックを組み立てていた戦場だ」


 蓮司さんは毛布を肩から落とし、部屋の中央にある古いデスクに歩み寄りました。  そこには、一枚の小さな写真が立てかけられていました。  若かりし頃の沙也加さんと、優しい目をし、幼い私を抱きかかえる父・一真の姿。


「……あ」


 その写真に触れた瞬間、私の脳内に、黄金の砂が流れるような映像が溢れ出しました。


「いいかい、朱里。お前の力は、誰かを傷つけるためのものじゃない。いつか、迷える魂を救い、この世界の歪みを直すための鍵なんだ」


 大きな、温かな手。  5歳の冬、雪が降るこの廃村で、父が私の額に手を当てて、何かを「封印」するように呟いた記憶。


1. 別れの真相:御影と朝比奈の矛盾

「……思い出しました。お父さんは、私におまじないをかけてくれた。それから……桐生が、たくさんの黒服を連れてやってきたことも」


 私の震える声に、蓮司さんがデスクの上に広げられた一冊の日記を読み上げました。


「……日記によれば、朝比奈一真は、お前の器としての才能が桐生の目に留まることを恐れていた。御影の純粋な力と、朝比奈が溜め込んだ負の霊素……この二つが交われば、現世を書き換えるほどの究極の兵器が生まれる。それがお前だ、朱里」


「兵器……。だから、お父さんとお母さんは別れなきゃいけなかったの?」


「そうだ。一真さんは自ら朝比奈のゴミを背負ってここに残り、桐生の監視を引き受けた。代わりにお前と沙也加さんを、御影の聖域へ逃がしたんだ。……桐生に『お前は失敗作だ』と信じ込ませるための、偽装工作を施してな」


 愛し合っていた二人が離れたのは、憎しみからではない。  朱里という「光」を、桐生というシステムの闇から隠し通すための、命懸けの契約だったのです。


2. 接点:5年間の基礎

「お父さん……ずっと、私を守ってくれてたんですね。……ただ逃げたんじゃなかった」


「あぁ。お前の中に今ある、あの黄金の泉。あれは一真さんがお前の魂に施した、最高難度のプロテクトだ。……お前が今日、この旋律を起動させるまで、その力は眠らされていたんだよ」


 橘さんが、部屋の隅にある巨大な水槽のような装置を見つめて言いました。


「……でも、蓮司。一真さんはどこにいるんだ? ここには、生活感はあるが本人がいない」


「……あぁ。その答えは、おそらくこの奥だ」


 蓮司さんが指差した先。書斎の奥に、強化ガラスで仕切られた特別室がありました。  そこには、無数のコードに繋がれ、眠るように椅子に座る一人の男の姿がありました。    ――朝比奈一真。  しかし、その身体には体温がなく、まるで精巧な蝋人形のように静止しています。


「……お父さん……!?」


『――無駄だよ、朱里くん。彼はもう、この世界の住人ではない』


 部屋のモニターが突然点灯し、桐生の冷徹な顔が映し出されました。


『朝比奈一真は、数年前、自らシステムの人柱になった。この屋敷に溜まる数万の怨念を繋ぎ止めるための、生きたサーバーとしてね。……今の彼は、ただの記録媒体だ』


3. 究極の矛盾と、人造霊能者の襲来

「桐生……! お前、お父さんをそんな目にあわせて……!」


『彼が望んだことだ。君を守るための代償としてね。……だが、その契約も今日で終わりだ。……朱里くん、君にはこれから、お父さんが管理していた全てのデータを吸い上げてもらう。……拒否権はない』


 部屋の自動ドアが開き、3人の人間が入ってきました。  しかし、彼らの目は機械のように無機質で、その身体からは、吐き気がするほど高密度の、けれど作り物の霊力が溢れ出していました。


「……こいつら、霊能者じゃない。……霊力を機械的に埋め込まれた、**人造霊能者アーティフィシャル**か」


 蓮司さんが私の前に立ち、25メートルの境界線を強く意識して構えました。


「……おい、朱里。泣いている暇はないぞ。……お前の父親が命懸けで守ったその力を、今度は俺たちのために使え。……死にたくなければ、俺の背中に全霊力フルパワーを叩き込め!」


「……っ、はい! やってやりますよ、蓮司さん!」


 黄金の光が地下室を埋め尽くす。  父の遺した書斎で、三人と、桐生の放った刺客との決戦が始まろうとしていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ