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第16話:聖域強襲(ハイパー・バトルトーク)


夜明け前の東名高速を、異常なコンボイが爆走していた。


先頭を切るのは、母・沙也加が駆る真っ赤な大型バイク。 爆音を撒き散らし、時速150キロをゆうに超えるスピードで風を切る。


その後ろを、橘さんが必死の形相でハンドルを握る中古の軽自動車が追っていた。 車体からは霊力の負荷に耐えかねた青白い火花が散り、エンジンは聞いたこともない咆哮を上げている。


「ハッハー! 慎一くん、遅いじゃない! そんなんじゃスペア失格よ!」


インカム越しに聞こえる母の笑い声に、車内の橘さんは青い顔で叫び返した。


「無茶言わないでください! こっちは軽なんですよ! ……それにしても、蓮司!」


橘さんが横目で車外を見た。 そこには、黄金の霊気を纏い、時速150キロの車と並走して宙を滑る蓮司さんがいた。


「……黙って運転してろ、橘。……沙也加さん、あんたのブースト、少し出力が高すぎないか? 体が熱くて、今ならビル一つくらい殴り倒せそうだぞ」


「あら、いいじゃない! それくらいノリが良くないと、九条の門番バウンサーどもは散らせないわよ!」


ーー


その時。後部座席で耳を塞いでいたお婆ちゃんが、不機嫌そうに身を乗り出した。


「うるさいねぇ! さっきからピーピーガヤガヤと! 沙也加、あんたのやり方は下品なんだよ! 霊力は静かに、刃のように研ぎ澄ますものだって、子供の頃から言ってるだろうが!」


「出たわねママの『お上品教』! 時代はパワーとスピードなのよ! そんな悠長なこと言ってっから、九条にいいようにやられんのよ!」


高速道路の車内とバイク。 死線を越える直前だというのに、母と祖母の親子喧嘩が始まった。


「なんですって!? あんたが勝手に家を出てバイクなんか乗り回してる間に、私がどれだけ結界を張り直したと思ってるんだい! このバカ娘!」


「はいはい、結界お疲れ様! でもその結界、結局『赤い香水の女』に腐らされてたじゃない! 私のブースターの方が役に立ったでしょ!」


「二人とも、やめてください!!」


私はたまらず、二人の間に割って入った。


「もうすぐ敵の本拠地なんですよ!? なんで今そんな言い合いしてるんですか! お婆ちゃん、お母さんのバイクを呪うような念を送らないで! お母さんも、お婆ちゃんに煙草の煙を吹きかけない!」


「朱里、あんたは甘いのよ! この婆さまは、私がちょっと新しい術式を試すたびに『邪道だ』なんだってうるさいんだから!」


「邪道に決まってるだろうが! 霊力をスプレー缶に詰める奴があるかい! そんなの御影の歴史への冒涜だよ!」


「歴史なんかで九条は倒せないの! ……あぁもう、朱里! あんたも器なんだから、少しはシャキッとママに加勢しなさいよ!」


「加勢って言われても……! 私、二人みたいに戦い慣れてないし、そもそも霊能者って、もっとこう……静かでミステリアスなものだと思ってたんです!」


私の嘆きに、蓮司さんが窓越しに苦笑した。


「……朱里。諦めろ。……俺はこの数分で、御影の女たちが九条から恐れられている本当の理由を理解した気がする。……単に、関わると面倒くさいんだな、お前らは」


「「誰が面倒くさいって!?」」


お婆ちゃんと母の声が完璧に重なる。 蓮司さんはヒュッと視線を逸らし、加速して前方へ逃げた。


ーー


「――見えてきたよ。お喋りは終わりだねぇ」


お婆ちゃんの声が、一瞬で氷のように冷たくなった。


前方に見えてきたのは、地図には載っていない山奥の私道。 その突き当たりに、巨大な黒い要塞のような邸宅がそびえ立っていた。


通称『聖域』。


「……よし。慎一くん、そのままアクセル全開! ママ直伝の物理除霊、見せてあげなさい!」


「あぁ、もう、ヤケクソだ!!」


橘さんが絶叫しながら、アクセルを床まで踏み抜く。 ボロボロの軽自動車が、重厚な鉄門を物理的にブチ破り、広大な庭園へと躍り出た。


即座に、周囲から数十人の黒服たちが現れる。 だが、彼らはただの人間ではない。 全員の目が血のように赤く、不気味な香水の匂いを漂わせている。


「朱里、位牌を離すなよ!」


蓮司さんが空中で一回転し、庭園の中央に着地した。 黄金の霊気を拳に集め、迫りくる黒服の集団に飛び込む。


ドォォォォォン!!


蓮司さんの拳が空気を叩くと、凄まじい衝撃波が走り、黒服たちが紙屑のように吹き飛んだ。 実体化した今の彼は、文字通りの死神だ。


「さあ行くよ! 沙也加、あんたは外の雑魚を散らしな! 朱里、あんたは私についてきなさい!」


「オッケー、ママ! 派手にぶちかますわよ!」


お婆ちゃんが数珠を弾けさせ、一瞬で十数人の動きを封じれば、母がバイクをスピンさせて霊力を込めた排気ガスで敵を浄化していく。


ーー


私は蓮司さんの手を取った。 黄金の光に包まれたその手は、驚くほど温かかった。


「……行こう、朱里。俺の……いや、俺たちのケリをつけにな」


私たちは、混沌とする庭園を突き抜け、屋敷の正面玄関を蹴破った。


吹き抜けのホール。 その階段の上には、あの男――九条宗次郎が、不敵な笑みを浮かべて待っていた。


けれど、私の目は、男の背後に釘付けになった。


巨大な硝子の棺。 その中に、横たわっていたのは――。


「……っ、あれは……!」


「……あぁ。……俺の、体だ」


蓮司さんの声が、震えた。


そこにあったのは、紛れもなく、本物の『工藤蓮司』の肉体だった。

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