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第15話:ファンキー・マザー・リターンズ


バリバリバリッ、と。


静寂に包まれたはずの山奥に、およそ不釣り合いな爆音が鳴り響いた。


「――ちっ、しつこいね。あんたたち、座ってな!」


お婆ちゃんが杖を床に突き、呪文を唱える。 窓の外では、赤い香水の女が放った霧が、御影家の結界をドロドロと腐らせていた。


橘さんが拳を握り、私が位牌を抱きしめて震えていた、その時だ。


ドガァァァン!!


玄関の扉が、外側から物理的に蹴破られた。


「ハッハー! 間に合ったわね! 九条のクソ野郎どもの匂いがプンプンするわ!」


現れたのは、革ジャンに真っ赤なライダースパンツを履いた、サングラス姿の女性。 大きなバイクのヘルメットを小脇に抱え、紫色の煙草を燻らすその姿は、この古民家で一番浮いている。


「……お、お母さん!?」


私の母、御影沙也加。 数年前に「ちょっと自分探しの旅に出てくる」と言って家を出たきりだった、自称・自由人の母だ。


「さ、沙也加!? あんた、なんでここに……!」


お婆ちゃんが目を見開く。母はサングラスをずらし、不敵に笑った。


「嫌な予感がしたのよ、ママ。……それより、そこの亡霊! いつまでシケた面してんのよ、蓮司くん!」


「……さ、沙也加さん……」


位牌から透けて見える蓮司さんが、珍しく気圧されている。 母はドカドカと座敷に上がり込むと、蓮司さんの胸ぐらを強引に掴み上げた。


「あんた、朱里を守るんじゃなかったの? 九条にビビって成仏なんて、百年早いわよ! ほら、シャキッとしなさい!」


母は懐から、奇妙な文様が刻まれた銀色のスプレー缶を取り出した。 それを蓮司さんの霊体に向けて、思い切り噴射する。


「なっ、何をする……! 熱い、霊力が、逆流して――ッ!?」


「御影流・特製霊素ブースターよ! ママの古臭い儀式なんて待ってらんないわ。戦う力、叩き込んであげる!」


母が印を結び、蓮司さんの背中に掌を打ちつける。 その瞬間、消えかかっている蓮司さんの姿が、爆発的な黄金の光を放った。


透き通っていた腕が、脚が、まるで実体を持っているかのように密度を増していく。


「……力が、溢れる……。これなら、いける……!」


「いいわよ、蓮司くん! そのまま朱里の『器』と共鳴しなさい! 朱里、あんたもよ! いつまでお上品に守られてんの! やり返しなさい!」


ーー


母の手が、私の肩に置かれた。


その瞬間、私の内側にあった『空っぽの空間』に、蓮司さんの強大な霊力が濁流のように流れ込んできた。


「あ、が、あぁあああああ!!」


熱い。 でも、苦しくない。 私の中に咲いていた『赤い花』の香りが、爆発的な殺意に変わる。


それは守るための障壁ではなく、すべてを焼き尽くすための矛。


「――『器』を、舐めないで!!」


私が両手を突き出した瞬間、黄金と赤が混ざり合った衝撃波が、家全体を突き抜けた。


バリィィィィン!! と結界を破りかけていた赤い霧が、一瞬で蒸発する。 庭にいた『赤い香水の女』が、悲鳴を上げる暇もなく数百メートル先まで吹き飛ばされた。


「……ふぅ。いい音ね」


母は満足げに煙草をふかした。


「ちょっと、沙也加! 私がじっくり成仏させて、朱里を安全に切り離そうとしてたのに、なんてことするんだい!」


お婆ちゃんが怒鳴るが、母はケロッとして肩をすくめる。


「ママ、遅いのよ。九条の奴らが本気なんだから、こっちも毒を食らわなきゃ。……それにしても朱里、あんただけよ、何も知らなかったのは」


「え……?」


私は、溢れ出す霊力に戸惑いながら、母と、そして気まずそうに目を逸らすお婆ちゃんを見た。


「九条宗次郎に、私は人生をめちゃくちゃにされたの。あんたのお婆ちゃんだって、御影の血を守るためにずっと戦ってきたんだから。……九条との因縁は、あんたが生まれる前からの『家族の仕事』なのよ」


橘さんが、呆然と呟く。


「……じゃあ、俺の母さんのことも……?」


「ええ、知ってるわよ、慎一くん。美奈子さんと私は、共に九条から逃げた戦友パンクだもの」


衝撃の事実が、次々と明かされる。 私は、ただの被害者じゃなかった。 九条という巨大な悪に抗い続けてきた、御影の女たちの末裔。


「さあ、お喋りはここまで。蓮司くん、ブーストは数時間しか持たないわよ。……その間に、九条の総本山を更地にしにいくわよ!」


「……ふん。最高の提案だ」


黄金色に輝く蓮司さんが、不敵に笑い、私の隣に立った。 その手は、初めて私の肩に、確かな重みを持って触れていた。

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