タイトル未定2025/12/27 09:23
テーマ:クリスマス 居間
身内コンテスト用の小説です。
テーマに沿って3000字以内で作ります。
クリスマス・イブが終わりを迎えようとしていた頃、日付を変えることを知らせる古時計の鐘に合わせて、スレイベルの音が家の中で高らかに響いた。それと同時に、この古い木造の家に住む長男の真司は怒声を上げた。
「なんてことをしてくれたんだ……! 奴が、奴が来てしまう……」
真司は悲壮感の漂う声で狼狽しながら、玄関や勝手口の鍵をかけ、雨戸が閉まっているかを確認するためか居間や仏間を駆け回る。古い家特有の木製の雨戸は少し傾いて外の光が漏れているものの、真司が閉め直すことでこの家は完全に外界から遮断された。
しかし、遮断されたものの音だけは漏れてくるらしく、クリスマスを彷彿とさせるような軽快なスレイベルの音がいつまで経っても家のあちこちから聞こえてくる。
真司の家は今時にしては珍しく、古くからの慣習を大事にする家系であった。隣家に行くのに車が必要なほどの田舎で、農家を営んでいるらしい彼の実家はある程度の古めかしい考え方は残しているものの、真司の焦りぶりはマナーやモラルからくる考え方とは異なるもののように見える。恐怖から逃れるために行なっている仕草のようだ。
「なんで、クリスマスツリーの最後の飾り付けをしてしまったんだ……?」
真司は客人である眼鏡の青年に怒気を孕んだ声で詰め寄った。対照的に青年はただきょとんとしたまま動かずにいた。
「えぇ、なんでそんなに怒っているのですか? 勝手にやったのは申し訳ないんですが、僕……やっぱりてっぺんの飾りが付いてないツリーがなんだか間抜けに見えちゃって、つい……」
眼鏡の青年、仁村桃李はばつが悪そうに頭を掻いた。ツリーの飾りを壊した訳ではあるまいに、ただ元々用意されていた飾りを乗せるという行為で怒られるとは思っていなかったのだろう。何が悪いのかと言わんばかりに困惑するのみであった。
しかし、真司の動揺も致し方ないのかと桃李は考えることにした。スレイベルの音は先ほどよりも大きくなり、家の周りからまだ続けて聞こえてくる。
誰かが頻繁に通るわけでもない、田畑に囲まれた山間の民家を取り囲むように。
プレゼントの箱を囲んでパーティーをする人々がスレイベルを鳴らしながら開封を楽しみにしているかのように。
「ねぇ、真司くん。これって、君ん家のドッキリ?」
真司はつい桃李を睨みつけるものの、全力で首を振った。
「今日家に招いた時に言ったじゃないか。うちの実家の面子、町内会の温泉旅行で全員いないって。家長がいないから今日は俺たちの騒ぎ放題だって」
真司の一言が本当であるとするならば、このスレイベルを鳴らしているのはドッキリのために待機していた家族という路線は完全に消滅する。
「じゃあ、この鐘は誰が鳴らしているんだ……?」
桃李がそう呟いた時、居間の窓にかけられた薄いカーテンの向こうで何かが動いた。桃李はそれを見逃さず、居間のカーテンを開けて外を確かめようとした。
しかし、それには真司が強く拒否する。桃李の腕にしがみついてまでやめてくれと彼は叫ぶ。
「仁村くん、やめてくれ。もう俺たちにできることはこの家の中で朝まで静かに過ごすことしかできないんだ」
「真司。教えてほしいんだけど、一体何が起きているんだ? 君は、何をそんなに恐れているんだ?」
桃李の質問に真司は口ごもり、しばらく何かを伝えようとしてもじもじと震えた。
家の周りからは相変わらずスレイベルが鳴り続けている。
ややあって、真司はおずおずと口を開いた。
「うちでは奇妙な慣習があって……。うちのクリスマスツリーは家長が最後の飾り付け……ツリーのてっぺんの星飾りをつけなければならないんだ」
「奇妙すぎるだろ」
「あぁ、俺も昔はおかしいと思った。でもな……。昔、俺にも兄貴がいたんだが、兄貴がある年のクリスマスに飾り付けを勝手にやってしまって……」
「真司にお兄さん? 今までそんな話……」
「重い話になるからな。できなかった。クリスマスに勝手に飾り付けをやった日の夜、鐘の音と共に何かの肉を叩いている音が夜ずっと家の外から響いていた。俺、怖くなっちゃってそれを確認できなかった。……次の日、兄貴はいなくなっていた。代わりに、変なボロボロの肉塊が転がっていたが」
「まさか」
「言わないでくれ。俺は、いまだにアレを兄貴とは信じていない。……でも、本当だったんだ。家長が飾り付けをしないととんでもないことが起こるんだ」
真司は頭を抱えて狼狽える。彼の青ざめた顔を見ると冗談を言っている様には見えない。彼は本気でこの鐘の音を恐れている様子だった。
その時、玄関のドアが丸太か何かで叩かれたように大きく揺れた。
「……ッシュ……」
外からは叩いただけでなく、重く低い声が何か響く。
「……ひっ、きたっ……」
真司は思わずその場で腰を抜かした。その時のへたり込む音で外の何かも家の中に誰かがいることがわかったのだろう。玄関の頼りない薄い引き戸を引き続き大きく何度も叩き出した。
その最中、この家を震わせるように歌声が響いてくる。
「ウィー……あ……マス……」
「あ……?」
桃李は外の声に耳を澄ませる。反対に、真司は耳を塞いでその場で丸くなって震え続けていた。
「We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas……」
一節ごとにドアが強く叩かれる。玄関の薄明かりの向こうには、明らかに全身を赤く染めた何かが、丸太のように太い腕で引き戸を大きく叩いている姿が見えた。
「も、もうダメだ……殺される!」
真司がそう叫ぶと、桃李はしばらく考え込んだのち、勝手口を開けて外に出る。
「真司。君の家のルールを破ってしまって悪かった。勝手に飾りつけたやつを追ってくるんだろう?」
「仁村くん、君は……何を……」
真司は狂乱めいて桃李を止めようとするが、それより先に桃李は勝手口のドアを閉めてしまう。
「ここは俺が、話をつけてくる」
真司は最後まで止めようとしたが、勝手口のドアが閉まった途端に玄関にいた誰かがものすごい勢いで勝手口の方に走り込んでくる音が聞こえ、真司は本能からか勝手口の鍵を閉めてしまう。
外からは玄関から聞こえてきたあの歌と共に、何か大きな足音がにじり寄ってくる。
「We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas, And a Happy New Year.」
「っせぇな……。今何時だと思ってんだ」
何かはずっと讃美歌を歌う。桃李と思しき声も単純にそれを咎める声から何かを恫喝する声に変わる。おとなしい青年の声とは思えないほどの凄味が感じられた。讃美歌は続き、何かを叩く音が鳴る。それと同時に、あの耳に残る歌が二人の声で延々と響き渡った。
「We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas, We wish you a Merry Christmas, And a Happy New Year.」
「もう……もうやめてくれぇ!」
真司はひたすらに叫び続けていると、いつしか疲れてしまったのか深い眠りについてしまった。
翌日になって真司は家の勝手口を恐る恐る開ける。
「あ、真司。おはよう。昨日は勝手に外出てごめんなさい。昨日の人は帰ってくれましたよ」
外には所々に返り血を浴びた仁村桃李の姿があった。
この日以来、慣習が続くことはなかった。
なんやこれ




