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自己満の

作者: P4rn0s
掲載日:2025/11/23

タイムラインを眺めていると、また彼の投稿が流れてきた。

「需要あるって言われたけど、これってみんな好きじゃないよね。」

そんな一文を添えて、やけに整った写真を載せている。


スクロールする指が、そこで止まった。

嫌悪というより、胸の奥にじわりとした不快感が湧いて、呼吸が少しだけ浅くなる。

まるで「本当はみんな欲しがってるんだろ?」と、遠回しに確認しているようなその言い方。

卑屈を装った自信。

自信を隠した卑屈。

どちらにせよ、誰かに「そんなことないよ」って言わせるために置かれた仕掛けのようで、どうしても好きになれない。


もちろん、本人はそんなつもりじゃないのかもしれない。

傷つく前に保険をかけているだけかもしれない。

否定されることに怯えて、先に自分で自分を軽く蹴っておく、あの癖。

わかるよ、わかる。

私だって昔はやっていた。

「どうせ大したものじゃないけど」

「下手だけど」

「誰も見ないと思うけど」

そんな前置きを盾にして、内心では“誰かに肯定してほしい”と勝手に期待していた。


でも今は、その感じがもう耐えられない。

あれは、自分の中の弱さを隠しているようで、逆にむき出しにしている表現だ。

そして、他人を巻き込んで承認欲求の穴を埋めようとする仕組みでもある。

「そんなことないよ」

「好きだからもっと見せて」

そう言わせるための伏線。

そう言わない人に対しては、心の中で勝手に「やっぱり誰もいらなかった」と傷つく。

自分で落とし穴を掘って、自分で落ちる。

それを誰かに見せる。

そのたびに、世界に小さいため息を増やしている。


画面を閉じた。

青白い光が消えて、部屋の空気がひとつ静かになる。

嫌悪なんて強い言葉を使いたくはないのに、どうしても胸の内側から押し上げてくる。

たぶん私は、彼の投稿そのものが嫌いなんじゃなくて、ああいう表現をしていた“昔の自分”が嫌なのだ。

過去の自分の影が、他人の姿を借りて目の前に現れる。

それを見ると、自分がまたあそこに戻ってしまうような気がして、居心地が悪くなる。


思えば、あの頃の私は「嫌われたくない」よりも、「好かれてる実感がほしい」でいっぱいだった。

“好かれるための言葉”を探す癖がついていたし、

“嫌われないための言い訳”を常に用意していた。

そういう投稿をすれば、誰かが優しい言葉をかけてくれる。

安心したような気になる。

けれどその安心は、すぐに不安へと裏返る。

だって本当は、褒めてもらうために卑屈なふりをしていることを、一番よく知っているのは自分だから。


だから今、タイムラインで誰かが同じことをしているのを見ると、どうしてもチクリと痛む。

まるで、胸の奥の古い傷跡を指先で触られたみたいに。


でも、だからこそ思う。

人は誰だって、誰かに認めてほしい生き物だ。

不器用な表現を選んでしまうことだってある。

「これってみんな好きじゃないよね」

その一言に詰まっているのは、嫌味や挑発なんかじゃなくて、

ほんのわずかな寂しさと、

ほんのわずかな期待と、

ほんのわずかな臆病さ。


私はその投稿を閉じたまま、ゆっくり息を吐く。

嫌悪の向こう側にある感情に触れてしまえば、少しだけ見える景色が変わる。

それは好意でも、共感でも、許しでもないけれど、

ほんの少し距離を置いて眺められる余裕のようなもの。


画面の向こう側で、彼は今日も自分の小さな世界を守ろうとしている。

その方法がたまたま私の癇に障るだけで、責める権利なんてどこにもない。

ただ私は、その前置きの中にある“自分を守るための棘”が刺さってしまうだけだ。

それは、私がまだ完全に治っていない証だ。


スマホを机に置いて、深く息を吸った。

光から距離を取ると、世界がほんの少しやわらかく見える。

他人の投稿なんて、本来はただの一枚の絵のように流れていくものだ。

そこに立ち止まってしまうのは、私の中にまだ整理しきれていない感情があるから。


だけど、それも少しずつ変わっていく気がした。

他人の言葉に揺さぶられなくなる日は、案外近いのかもしれない。


コップの水をひとくち飲んで、呼吸を整え、

そしてもう一度だけスマホを見た。

彼の投稿はさっきのまま、静かに画面の中に浮かんでいる。

それでも、さっきよりは少しだけ軽い気持ちで、私は指を滑らせて次の投稿へと進んだ。

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