序章
事の起り
この世界には内側と外側の世界に別れている。
ただし、内側と外側は月を隔てて分かたれており、交わることはほとんど無く、月蝕の日にだけ世界を繋ぐ道ができる。
二つの世界の有り様は似て異なる。
内側は大気に満ちた力を具現できるが、外側は常に力が流麗しているため具現できない。そのため外側は澱みが生まれず穏やかで、内側は力の代償に澱みが生まれては溜まり、その澱みに汚染され、動植物は奇怪なモノへと変化し害となる。
だが内側に外側のものを喚ぶことは出来ても、内側から外側に行くことは出来ない。
力の渦は常に中心へと向かい流れており、このため2つの世界の均衡は保たれていると言ってもいいだろう。
創世記に書かれたありふれた一説であり、世界の不条理の一節でもある。
そうしてもうひとつの不条理は、大昔より行われていた"外側"よりの、召喚と呼ばれる術を用いて内側へ連れてこられる者たちがいること。
呼ばれる理由は様々だ。澱みで生まれたものへの戦力として、または平時における生活向上のための労力として。何かしらの技術を持つものが呼ばれればいいが、外側は内側よりも多種多様な国と生活様式があるようで、その違いによってか召喚間もなく発狂するものが大半であった。
だがその中で異質とも言えるもの達もいた。
彼らは最初は不条理に嘆くも、こちら側に素早く馴染み、自分の持ちうる全ての知識、技術を用いて自身の周りを黙々と開拓していく。本人たち曰く「後々自分が楽できるから」と言い切るのだという。
日本人というその種族は本当に変わっていた。
後に召喚の術でかの種族を引き当てれば当たりだと言われるようにもなった。
だが、何代か前の召喚の術でその日本人を喚び出した際に事件がおこった。
何故か術者全員が召喚者によりこっ酷く怒られたという。そのもの曰く「呼び出す前に通達しろ!せめてPCとスマホと薄い本を処分する時間を与えろ!」と魔王も逃げ出しそうな気迫でつのられたのだと記録にある。
その時の召喚は、世界の力の低迷による新しい技術のために喚び出したらしいが、その事を説明し宥めたところ「今の日本人なら召喚されても異世界ものか〜って驚きはするけど受け入れは容易いと思う」と言いきられ、何より日本人の中でも"オタク"と言う職業を引き当てろと助言も追加されたとの事であった。
当時の術の精度は座標を細かく指定するものではなく、月の道が開いた場所の者をランダムに喚ぶもので、また世界が繋がる時に起きる時空の歪で時代もバラバラだったようだ。
助言をした召喚された者は研究を重ねてその道に入り、召喚の精度を上げ、さらには世界の力を"魔法"と名付け、それが内側の各国に伝わり現在に至る。
その結果、20数年前に行われた召喚の儀でやってきたのは、今はこの国の王妃その人である。
彼女はこの国の風紀から変えてしまったとんでもなく破天荒な人物であるが、王の寵も貴族の信も民の心も掴んでいる。姫と王子が授かり、この治世は安泰であると誰もが信じるような時代だが、翳りがない訳では無い。
そう。
破天荒すぎる王妃と、その血を濃く受け継ぐ(王妃いわく)フジョシという特殊能力を開花させた姉姫。父王はそんな2人を愛してやまず、いつも2人の引き起こす事件に振り回されるのは、息子であり王太子である自分と家臣のごく一部。
これはその受難を纏めた記録のさらに1部である。
ゆるりと思いつきを書いて参ります。
お暇な時にご覧頂ければ幸いです。