最終話 逃げられないんだな
俺は剣道部に再入部した。
警察官を目指すなら、剣道は続けておいた方が良いだろうと思ったから。
警察は剣道と柔道が重要だしさ。
……出戻りってどういう扱いになるのか。
部内で最底辺になるんじゃ無いのか?
そう思ったけど。
別に普通に受け入れて貰えた。
で、ヒーロー活動をしていたときの経験が生きて。
剣道男子としての復帰はかなりスムーズに……というか。
前より上のランクの選手になることができた。
センスがなんだかんだ言って磨かれてたんだな。
妖怪や、ヒーローブレス悪用者との戦いで。
だけど再入部したの、2学期中盤以降で。
流石に大会に参加するみたいなことはできなかったけど……
「桜田、辞めてた期間何やってたんだ? 俺もやってみたい」
……俺が1度辞めた後も部活を続けていた仲間たちにそんなことを言われた。
オオオオオ!
ヤアアアアア!
……今日は、他校との交流試合で。
俺も出ていた。
今、試合中。
公式試合は無理でも、こっちは出られるんだ。
……でも。
ああ、剣道部を辞めるの止めとけばよかった。
そう思うんだよな。
「桜田君頑張って!」
「桜田くーん!」
……こんな感じで、女の子に応援して貰える立場になれるんだと分かっていたら。
俺の相手は、別に嫉妬はしてないだろうけど
……手心は加えないだろうな。
俺が向こうの立場でもそうするよ。
ここで手心加えたら、剣道を馬鹿にしてるみたいじゃん。
今、この場に制服姿の笹谷と高瀬がいる。
2人が応援に来てくれてたんだ。
今日が交流試合だって言ったら
「絶対応援に行く! お弁当作って!」
「私も行くッス! お弁当作って!」
……で、来てくれた。
まぁ、嬉しい。
2人はあの後、正式に告白してくれて。
その上で
「急に決めろって言われても困るよね」
「出来ればクリスマスまでに解答を出して欲しいッス」
……そんなことを言われてさ。
悩んでるんだよ。
そんな好意、向けられたこと俺は無いから。
2人とも俺は嫌いじゃ無いし。
アリといえばアリなんだよな。
ちなみに母さんには言ってない。
怒られる可能性あると思うから。
あなた、女の子を商品扱いしてるのか、って。
多分、というか絶対に言われると思う。
……こういうとき、父さんが居たら良かったなと思う。
お墓参りしたら、何か回答が降って来たりするかな?
オアアアアア!
……って、そんな考え事をしていたら。
相手が打って来た。
……小手だな。
ホント、手に取るように分かる。
俺はスッと後ろに下がり、竹刀を振り上げ。
相手の小手を避け、そのまま面を打つ。
「メェェェェン!」
小手抜き面。
……決まると気持ちいいんだ。
剣士の戦いっぽくてさ。
パァン、という竹刀が叩き込まれる音が俺の声と共に響いたとき。
「1本!」
俺の勝ちが宣言された。
午前中で交流試合が終わり。
解散になったんだけどさ。
制服の俺たち3人は、他校からの帰り道。
道中の公園で。
弁当を食べていた。
……2人の協定があるのか、半分の量ずつ作ってる。
2人合わせると1食になるっていう計算だな。
笹谷はミートボール、ブロッコリー、プチトマトに。
少量のご飯。
高瀬はサンドイッチを作って来てくれていた。
……ちなみに。
2人とも、料理は普通に出来た。
元々出来たのか、ここに至るまでに練習したのか知らんけど。
で、それぞれいただいて。
「ごちそうさまでした」
お礼を言う。
「どっちも美味しかったです」
……こういう答え方、どうなんだろうな。
そうは思うんだけど。
……2人、俺があのとき……ムゲンソルジャーを嵌めるために、喧嘩を演出したとき……にショックを受けたって言ったからか。
あからさまに競ったり、俺のより高評価を貰おうとはしないんだ。
そこのところ、俺は何というか……
ちょっと愛を感じて、ドキドキしていたりする。
本心は、平等で良いなんて思ってないはずだし。
日本は一夫多妻制の世界じゃ無いんだからさ。
そんなこと、思うわけがないよな。
そう思い、弁当箱を片付けていたら
「今日は11月24日だよね」
「……あと1カ月っスね」
2人が、そんなことを呟く。
俺は2人は嫌いじゃ無いし、それどころか彼女になってくれることに何も異存はない。
でもなぁ……
あと1カ月で決めなきゃいけないのか……
どちらかを選ばなきゃいけない。
……基本、拾える命は全て拾うのがヒーローだけど。
恋愛にもそれは拡大しては……
いけないんだよな。
うん。分かってる。
分かってるんだよ……
「桜田君」
悩んでいたら、2人が俺を見ていた。
真顔で。
そして、こう言ったんだ。
「試験結果の合格発表って、期限が守られないと受験生は困るよね」
「他の試験が受けられませんスから」
……見抜かれているみたいだ。
逃げられないんだな。
そこを理解し、俺はあと1カ月間……
真剣に考えていくことを心に決めた。
そしてなんとなく。
この決断で選んだ相手と、俺は一生を共にするような予感がした……。
<了>
次回、あとがき
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