第78話 無限の戦士
……何で?
変な話だけど、困惑していた。
俺はてっきり、笹谷と高瀬が殺し合いをはじめるんじゃないのかと思っていた。
なのに、何故?
それは男も同様のようで
「……どういうつもりだ?」
男は、怒りの形相で笹谷を睨む。
笹谷は
「あなた、この世界の人間を舐め過ぎよ。私たちの心情や、やってきたことの歴史を閲覧できるのは外にいる間だけで、こっちに来たらどうやらそれは出来ないみたいね……」
笹谷はしてやったり、という笑みを浮かべていた。
「高瀬さんが言ったのよ……『アイツの望んでる展開にしてやりましょう』『そして援護を引き出して、一泡吹かせてやるっす』って」
多分、取っ組み合いのときだ。
高瀬が、笹谷に言ったんだろう。
思わず高瀬を非難してしまうような何かをまず高瀬が言い。
それに怒った感じで笹谷に近づいて。
そして不自然にならないように近づいた後、取っ組み合いをはじめたふりをして
……そこで内緒の会話をしたんだ。
すごい、と思ったし。
その2人の演技力に、少し恐怖を覚えた。
女は嘘を吐くのが上手い、って言うけどさ。
内心「それは差別だろ」って思って否定してたんだけど。
……実例を見せられた気がした。
まぁ、でも。
お陰で、こうして一矢報いた。
「……何故分かった?」
男は悔しそうに呻く。
「何がっすか?」
高瀬の言葉。
「お前たちの世界に入り込んだら、ボクの自由な情報閲覧は不可能になるってことをだ!」
男の怒声。
笹谷や高瀬に出し抜かれて、攻撃されたのが悔しいのか。
冷静さが、もはや無い。
高瀬は
「確証なんて無いっすよ。それしか手が思いつかなかったからなのと……」
平然とした感じでそう返し
「……ゲーム転生や、漫画転生で、転生後にその世界の現在の情報閲覧能力なんてのは普通、デフォルトで付く能力じゃあありませんよね?」
そう続け。
笹谷はざまあみろ、という顔で
「……私もアンタに暴露されたこと、4月の出来事だけなのが変だと思ったのよ」
そう言った。
つまり2人は……
自分たちの思考を読まれていないことに賭け、男が望む醜い喧嘩を演じ……
この結果を呼び込んだのか。
……内心、ちょっと今笹谷が言ったことが気になったが、それはまあ、触れないでおこう。
隠しておきたいはずだし。
しかし……
相当怒ってるな、コイツ。
ブルブル震えている。
そして
「舐めやがって……低次元のくだらない生き物が!」
怒りの形相のまま、男は左手を高く上げた。
その男の左手首に。
ヒーローブレスが見えた。
それは……
赤、青、白、黒、そして黄金……
5つの色を備えたヒーローブレス……!
やっぱり、持ってたか。
妖怪の生みの親がこいつなら、ヒーローブレスと同じものをこいつも持ってるのではないか?
それは普通に予想していた。
だからまあ、驚かなかったよ。
「変身ッ!」
……男がそのまま、変身したことも。
複雑な色で発光する男。
その光が消えたとき。
豪奢な装飾が付いた、戦隊ヒーローで6人目の戦士を務めそうな姿の戦士がそこにいた。
その色はもちろん
赤、青、白、黒、そして黄金……
5色のカラーリング。
ヘルメットに描かれる紋章は、五芒星……
男は
「……叩き潰してやる。高次元人舐めんなよ?」
そう言い、そして
「ボクのヒーローブレスは制限時間なんてものは存在しない! お前らと違って!」
怒りと、愉悦に満ち溢れた声で
「だからお前たちに合わせて名乗ってやるよ! ……ムゲンソルジャーってな!」
自分の変身体に関して、名乗りを上げたんだ。
ラスボス・ムゲンソルジャー。
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