第72話 戦いの結末
会長は冷静に左手首を握り込む。
出血を抑えるためだろう。
そして叫んだ。
「来てくれヒールアカムシ!」
脂汗を流しながら。
会長は左手切断の激痛に耐えて、事前に生み出しておいた架空生物「ヒールアカムシ」に呼び掛けた。
カープに出て来る回復アイテム的生物だ。
呼び掛けに応え、赤黒いミミズみたいな生き物が会長の制服の胸ポケットから這い出して。
自発的に会長の口の中にスルスルと入り込んでいく。
すると
会長の左手が、ズルン、と生えて来た。
一瞬だった。
……会長の苦痛の形相が穏やかになる。
そして笑みを浮かべて
「……はは。本当に効果あるな。もし効果が無ければ、どうしようかとちょっと思ってたんだけど、良かったよ」
血で汚れていたけど、傷ひとつない新しい手。
その手をグーパーしつつ、具合を確かめる会長。
それで問題の無さを確認したのか。
次に地面に落ちている自分の古い左手首を拾って。
そこから、ヒーローブレスを取り外す。
そしてそれを差し出しながら
「……君の勝ちだ。水剋火で僕の方が有利だったはずなのに、どうしてだい?」
「事前に笹谷に応援して貰ったんです」
俺はその、金と黒のヒーローブレスを受け取って、そう答える。
「ええと」
会長は俺の言葉を聞いて、少し目を丸くする。
そうして
「笹谷さんが君の彼女だったのか。知らなかったよ」
ああ、いや、そういうことじゃなくてですね。
「五行相生ってのがありまして」
誤解されると面倒だから、ヒーローブレスにはそういう苦手属性以外にも、支援属性があるんだってことを。
簡単に説明する。
「……なるほど。まぁ、どのみち完敗だ。……それはもう、君のものだ」
こうして。
約束通り、会長のヒーローブレス2つの所有権が俺に移った後。
「桜田君!」
「終わったっすか?」
……校門を壁抜けし、外で待機していた笹谷と高瀬がやってきたんだ。
「ああ、終わったよ2人とも」
俺は2人の目の前で、変身を解除し、自分の赤のヒーローブレスを取り外す。
そしてそれを、まとめて所有したいと思ったんだ。
すると……
複雑な色の輝きを発して、2つのヒーローブレスが融合し。
光が消えると、赤と黒、そして金のカラーリングのヒーローブレスに変化した。
土と火、そして水の属性のヒーローブレス。
変身可能時間は……多分3分のままなんだろうな。
文字盤の部分に変化が見えないし。
「これで3属性……水属性がありますから、支援が私も出来るっすね」
高瀬は少し嬉しそうだった。
笹谷だけが支援で活躍の場があるのが、今回彼女は残念だったみたいだし。
そこで自分が選択肢に入るのが疎外感無くて嬉しいのかな。
「ところで」
そこで。
会長が、申し訳なさそうに地面を指差した。
「申し訳ないが、これを焼却処分してくれないか?」
……切断された、古い方の自分の手首を。
「それじゃ、僕はここまでだね」
切断された左手首を焼き尽くして骨まで灰にして、灰を校庭の一部を高瀬のチカラで掘り返して埋めてしまい。
この戦いの後始末をつけた後。
異空間転移を解き。
俺たちは会長と別れた。
……別れ際の会長は、笑っていた。
どこか、影のある笑顔だった。
会長の問題だから俺は一言も触れなかったけど
会長は、自分の目的のために佐藤を殺害した。
佐藤は死刑囚で、人殺しなんて何にも思ってないヤツだったから
冷静に考えれば。
実際に、あいつから安全にヒーローブレスを奪い取るのは、やっぱり殺すしか無かったかもしれない。
だけど……
それで自分に理由付けして納得できるかは会長自身の問題だ。
他人がどうこう言うことでは無いと思う。
……でも。
出来ることなら、不幸せにはなって欲しくないと思った。
「桜田君」
そのとき。
傍を歩いていた、笹谷が俺に声を掛けて来た。
俺が視線を向けると
彼女は
「……これから先、どうするの?」
5つのヒーローブレスが出尽くした。
ここから先……?
そんなの、俺にも分からない。
だから
「特に変わり映えは……」
無いよ、それしかないだろ。
そう続けようとしたときだ。
ギチッ
また、異空間転移が起きたんだ。
第5章はここで終了です。
次回から最終章に入ります。
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