第71話 最悪に対する最良
「俺が剣道をはじめたのは、父親が通り魔に殺されたからです」
自分を語りながら、俺は会長の矢を回避し続けた。
会長は
「君も犯罪被害者遺族なのか」
母子家庭と聞いていたけど。
俺は俺の話を記憶していてくれた会長に感謝をし
「ええ、そうですね……。俺が剣道をはじめたのは、俺の父親が通り魔に戦いを挑んで……死んでしまったからです」
父親が悪人に殺されたのが悔しくて、自分が同じ立場に立たされたときに一方的に勝てるように、って。
……ここで。
さすが会長だ。
察したみたいだ。
矢の鋭さが……少し、衰えた。
俺は
「俺は父親の死の意味を、悪党を皆殺しにするための生贄だったことにしたくない」
「あの人……君の父親が僕の願いに賛同してくれないって言うのか!?」
矢の鋭さが落ちていく。
会長の矢を掻い潜りやすくなる。
「ええ」
「何故だ!?」
俺の答えに、会長は動揺してるみたいだった。
自分を救った人が、自分の決意を支持しないだろう……
その根拠、気になるのかね。
……なるだろうな。
「何故って……」
俺は間合いを詰めていく。
矢の雨を掻い潜り。
そして言ったよ
「……アイツが生きてたのが何よりの証拠でしょう!」
父さんは空手の黒帯だった。
だから「佐藤が死んでも構わない」って思ってたなら、ああはなって無いんだ。
……殺すつもりで、頭を思い切り蹴り飛ばせば良いんだから!
そこの意味に気づいた会長の手と足が一瞬止まった。
俺はそれを逃さない。
剣を大上段に構え、突っ込む。
そして……
会長が、黒く輝く。
瞬時に会長は、馬の下半身を持つ黄金騎士から、重装甲の黒い戦士に姿を変えた。
佐藤から奪い取った黒のヒーローブレス……
亀モチーフの、水の戦士……!
……瞬時に会長は、自分の身体を水で包む。
俺の一撃に備えているのだろう。
俺と今の会長は、水剋火。
相性最悪。
俺の攻撃は会長にまともに通じない。
……普通ならな!
俺は大上段に構えた剣を振り下ろす。
会長は手の中に斧を出現させ、それを受け止めるために構える。
そこで。
超高熱化し、青く輝く俺の剣。
俺は……
「相生太陽斬ッ!」
五行相生・木生火。
俺はこの戦いに挑む直前、全力で笹谷に五行相生による援護を貰ったんだ。
会長は、いよいよ俺の斬撃を避けられなくなったら、こういう風に水の戦士に変身して防御するかもしれない。
そうなれば、俺の斬撃が通じない可能性がある。
水剋火だから。
……なので。
その可能性を、事前に笹谷の助力を得ることで乗り越える!
相性最悪を、相性最良の仲間の助力で乗り越えるんだッッ!
俺の剣は
会長の構えた斧に
やすやす食い込み、切り裂いて
そのまま会長の左手を前腕部半ばで切断する!
同時に解除される会長の変身。
会長は……
驚愕と、無念さと、諦めの混じった表情を浮かべていた。
……ありがとう笹谷……!
勝負ありだ……!
決着!
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