第68話 契約
そして次の日。
教室の隅で、昨日のうちに作っておいたヒーローブレス譲渡契約書を仲間2人に確認して貰った。
「印鑑は?」
「……それはなんか違う気がしたんだ。この契約で、偽造を疑うようなキッチリした内容はおかしいって思えて来てさ……」
俺の作った契約書の内容を確認し、笹谷が捺印欄が無いことに気づいて、指摘してきたんだけど。
俺はそう返した
甘いよ、って言われるかな……?
「ああ、つまり……」
印鑑が本物の印鑑かどうかで強制力が変わるとしたら、私たちだけ本物を用意して、会長は偽物を用意。
結果として契約の内容に縛られるのは私たちだけで、会長は一切縛られない。
こういう状況が起きるかもしれない。
だからその場合、互いに印鑑の正当性を示し合わなければならない。
「……そういうことが違うってことなの?」
……うん。
まぁ、そういうことかな。
「で、桜田君はそれの何がおかしいと」
そんな高瀬の言葉に
「普通に考えておかしいと思わないか?」
俺はちょっと大仰な様子で主張した。
「結婚するときに、浮気したら自動的に命を無くす呪いを相手に掛ける魔法使いが居たら、どう思うよ?」
あ、だったらこんな人と結婚するのはやめとこう、ってなるだろ?
相手が自分を裏切ったときの保険掛けておくって、相手を信用していませんってことじゃないか。
自分を信用してくれない相手を、どうしてこっちも信用しなきゃいけない?
そして何より、それは侮辱だ。
そんな俺の言葉に。
高瀬は神妙な顔で
「……桜田君と婚約したら、浮気に関する婚前契約書の作成提案をすると婚約破棄されるってわけっすね」
……何か良く分からないことを言って来た。
「会長」
俺たちは、契約書を持って校舎1階の3年の教室を訪ね。
そこで異空間転移を発動させて、会長の前に立ったんだ。
「やぁ。答えは決まったかい?」
すると会長は爽やかに微笑んで応えてくれる。
そんな会長に俺は
「これを読んで、同意できるなら……ここにサインをください」
あの、ヒーローブレス譲渡契約書を差し出したんだ。
俺たち3人のサインが入った契約書を……。
それは、こういうものだった。
1つ、会長と俺が1対1で戦う。
2つ、戦いにヒーローブレスの力は自由に使ってよい。
3つ、勝負は変身解除によって決着する。最初に変身解除をした方が敗北者となる。
4つ、勝負に負けた勢力が所持しているヒーローブレスの所有権を、自動的に勝者の勢力の代表戦闘者に全て譲る。
会長は俺がA4の紙に打ち出した、ヒーローブレス譲渡契約書の内容を何度か読み返して
「……変身解除はどうやってすることを想定している?」
「左手首の切断です」
ヒーローブレスを装着している左手首を身体から切り離せば、変身解除が起きる可能性が高い。
もしそれでなくても、出血で戦いどころではなくなる。
そういう、予想だ。
会長は俺の言葉を聞き
「……分かった。受けよう」
頷き、自分の欄にサインをしてくれた。
契約成立。
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