第66話 それぞれの思い
3年の教室前で勝手に異空間転移を解除して戻ると、俺たちの教室で待たせている2人に無駄な時間を使わせるかもしれないので。
異空間転移したまま教室に戻り、俺はまだ異空間に居た2人に会長の考えていることを語って聞かせた。
全ての話を聞き終えて
「そっか」
笹谷は、そう言葉を発した。
その顔は困惑……いや、迷ってる顔だった。
会長が他人の命を引き換えに悪人の魔の手から救ってもらったから、この世の中から自分が受けた苦しみの原因を取り除きたい……
その、気持ちだけは分かるんだろう。
賛同できるかどうかは別にして。
だけど
「私は悪い人間がバタバタ死んでいくのは別に何にも感じないっすね」
そこに。
高瀬が声は小さいけど。
ハッキリとそう言った。
笹谷が顔を上げて高瀬を見た。
「高瀬さん、そんな……」
そして笹谷がそこに、非難めいた言葉を掛けようとするけど
高瀬は、続けて
「でも、ヒーローブレスを渡すのは嫌っす」
こう言ったんだ。
笹谷の言葉が止まる。
高瀬は
「……自分が嫌いな人間が死に絶えていくことに、自分の手を汚さないで1票投じる」
ちょっとおどおどしてたけど。
彼女は
「そういうの、すごく嫌っす」
……なるほど。
「私は何をもってヒトを不要な人間って判定するの? それが分からないのがすごく怖い」
笹谷の言葉。
俺は目を向けた。
彼女は続ける。
「……私がその『要らない人間』に認定されたらどうしよう? ……そう思う」
……なるほど。
それぞれ、彼女ららしい答えだと思う。俺は。
俺の意見は……
「俺さ……あの死刑囚に父親を殺されたんだよ」
言おうかどうか迷ったけど。
言うことにした。
俺の出した結論を正しく理解してもらうためには、避けては通れないからな。
2人は驚く。
あいつ……今朝の新聞で
『死刑囚・佐藤村虎。緋色市住宅街で変死体で発見。緋色市通り魔事件で2人殺害の元凶悪犯』
って書かれていたけどさ。
そいつが昔に殺害した2人の人間が、まさか俺の父親と会長の母親だとは思わなかったのか。
「何で言わなかったの?」
動揺しながら笹谷。
「訊かれなかったから」
普通に返す俺。
聞いて楽しいことじゃ無いし。
当たり前だろ。
「どうしてアイツに仕返ししようとしなかったんですか!? そういうことだったら……」
高瀬。
知ってたら、アイツを苦しめ抜いてからヒーローブレスを奪うにはどうすればいいかを算段した?
生け捕り最優先じゃなくて?
「意味が無いだろ」
俺。
それで誰か喜ぶのか?
喜ぶとしたら俺だけだし。
そしてそんなことをやったら、きっと歯止めが効かなくなる。
2人は動揺してる。
優しいんだな……
でも、俺はそんなことのために、身の上話をしたわけじゃあない。
「だからな」
俺は思うところを口にする。
「会長の願いに賛同したら、俺の父親はヒトを粛正することのために命を捧げたことになる」
だから、俺は認められないんだ。
父さんをそんなことのために死んだ人にしたくない。
主人公の結論は定まった。
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