第65話 会長の意志
「僕はあの人に命を救ってもらった、あの人の命を犠牲にして」
会長の声は穏やかだが、有無を言わせない強さがあり
「そして今、あの人の悲劇を2度と繰り返さないで済むための手段が手の中にある」
そう言った会長の目には、揺るぎない強い意思があった。
……説得なんて、無駄だな。
この人は、絶対に折れない。
それが一瞬で理解できた。
「……俺らがヒーローブレスを渡さないって言い続けたらどうするつもりですか?」
だから。
そこを確認した。
俺や笹谷、高瀬を殺して奪うのか?
……実行可能な手段はそれだ。
だけど
「……その場合は仕方ない。願いを使わずに、悲劇を減らす方法は他にもある」
……ゾッとするほど、冷たい声だった。
会長のそのときの言葉は。
他の方法……
すぐに思いつくのは
近所の評判の悪い人間。
周囲に嫌われ、孤立している人間。
刑務所や少年院に居る人間。
前科山盛り、経歴ガタガタのガラの悪い人間。
……そういうのを、見つけ次第抹殺する。
これは中学時代に、警察官が親だという知り合いに聞いた話だけど
警察の捜査の基本も、実はそこなんだ。
殺人や強盗のような重大犯罪が起きると、被害者の周辺でそういう属性の人間が居ないかを確認するらしい。
そういう人間の中に、犯人が居ないかを探していく。
それが基本なんだそうだ。
残酷な話だけど、殺人や強盗のような重大な犯罪を行う人間が、近所の評判が最高で、誰からも愛されていて、これまでの人生で何も問題を起こしたことが無い。
そんなケース、あり得ると思うか?
そういうことなんだよ……
そして、ヒーローブレスの力を使えば、そんなことは余裕で出来る。
特に会長のヒーローブレスは、生命創造でスパイのような存在を作り出せるし。
本人がやる気であれば、確実に実行できる。
させないためには、会長からヒーローブレスを奪わないといけない。
だけど……
会長は絶対にヒーローブレスを手放さない。
取り上げるには殺害するしか無いだろう。
会長を殺すなんて……
それは、絶対おかしいだろ。
会長に罪を重ねさせないために、会長を殺害して止める?
私刑だが、会長が排除しようとしているのは、社会に害がある連中なのにか?
……俺は嫌だ。
絶対に拒否する。
歪な、幼稚な正義だと言われても、そんな悍ましい偽善者にはなりたくない。
だから……
「ちょっと、考えさせてください……」
それだけ言い残し。
俺はその場を去った。
「なるべく早く、結論を出してもらえると助かるよ」
そんな、会長の言葉を背中に浴びながら。
そして俺は2階にある、俺たちの教室に戻って行った。
笹谷と高瀬が待っている、俺たちの教室へ。
主人公の決断は?
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