第63話 会長は
「私、そんな話聞いて無いよ!」
その後。
笹谷と合流して何が起きたかを話したんだ。
すると笹谷はメッチャクチャ驚いていた。
で、全否定。
そんな話、私も聞いてないって。
「笹谷も聞いて無いのか……」
じゃあ、謎の紳士が俺たちの間で殺し合いが起きることを期待して吹き込んだ出鱈目なんだろうか?
須藤の奴もそんな話をしてなかったし。
まぁ、意図的に須藤が隠した可能性はあるけどな。
「先に言っておくけど、私はそんなもの欲しくないから」
笹谷が自分の胸に手を当ててそう言う。
その様子は真剣で
「私にはそんなものに縋らないと叶えられないような、どうしても叶えたい願いは無いし」
彼女は全力で主張した。
「頑張れば叶えられるかもしれない叶えたい願いを、そんなもので叶えても空しいだけだよ!」
だからそんなもの、欲しくないって。
……うん。
俺も同感だ。
宝くじの話でさ、こういうのがあるよな。
宝くじで一生で普通に稼げる額のお金を手に入れてしまった場合に。
もう、普通に生きていくなら働く必要は無いよなって仕事を辞めると、高確率で人生を棒に振るらしい。
……最初、なんでそうなるんだろうと思ったけど。
今はなんとなく想像は出来る。
その選択肢を取ると、お金に対するありがたみが無くなるんだと思う。
働いて嫌な思いや苦しい思いをして、手に入れるからお金はありがたいんだ。
そんな、普通の人が感じているありがたみが感じられなくなったとしたら、人格に少なくない影響があるに決まってる。
本当に欲しいものは、自分で手に入れないと駄目だよな。
「私もそんなの要らないっすねェ」
高瀬も賛同してくれた。
……良かった。
自分にも是非叶えたい願いがある、私に集めさせてくれって言い出す仲間は居なかったんだ。
……でも
「西下会長は、悪人が自動粛清をされる社会を実現して欲しいって思ってて……」
それが生き残った者の責任であると。
……そこに思うところがあった。
次の日。
当たり前だけど、学校に来た。
ウチの学校、3年生の教室は校舎の1階で。
俺は1階に降りて、西下会長のクラスを訪問し。
会長に会ったんだ。
「こんにちは会長」
「桜田君……1人かい?」
そう。
俺は1人で来た。
笹谷と高瀬には、教室で待っていて貰ってる。
俺は会長を教室の入り口に呼び出してもらい。
1対1で向かい合っていた。
そして俺は
……左手首に巻いたヒーローブレスに触れて、異空間転移を発動させたんだ。
その途端に。
周囲の喧騒が途絶え。
全てがモノクロの中で凍り付き、停まった。
「これで落ち着いて話せますね」
……目の前で、俺が何を言う気なのかと少し身構えている会長に。
俺は
「会長は……佐藤村虎の被害者遺族ですか?」
そう、気になっていたことを訊いたんだ。
次回、会長の過去。
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