第62話 ヒーローブレスは
俺のスマホに電話が掛かって来た。
会長だった。
俺は通話状態にする。
すると
『……やあ』
予想通り、本人だった……
その予想が外れてくれることを、頭の片隅で期待していたのに……
「会長! 何をしてるんですかッ!? あなた、人を殺したんですよッ!?」
俺は気が付くと叫んでいた。
佐藤を弓で射殺した相手に
会長は
『佐藤は救いようのない人間だ。自分の都合で何の罪もない人を殺し、それを反省せず、あくまで自分は被害者であると泣き喚く……唾棄すべき、人間のクズだ』
そんなことは分かってる!
でも、だからといって俺たちが手を下していい理由なんて無いはずだ!
「正義の使者気取りですか!?」
俺は大声で会長の言葉を斬って捨てた。
だけど……
『そうじゃない』
会長は俺の言葉を否定した。
そして続ける
『……このヒーローブレスを僕に与えた人物は……』
会長が言ったこと。
それは衝撃的だった。
『ヒーローブレス全ての所有権を得た人間は、どんな願いでも1つだけ叶えることができる』
え、と思った。
願いを叶えられる……?
そんな話、俺はアイツから聞いてないぞ……?
俺は
「そんな話知りませんよ! なんですかそれ!? 本当の話なんですか!」
でも……そういえば佐藤も同じことを言ってた気がする。
そんなことを頭の片隅で考えながらも、感情で。
ついでに危機意識で否定した。
……全部集めたら、願いが叶う……
それは人を狂わせるかもしれない。
それぐらい、魅力的な言葉だ。
だから、そんな事実が存在することを無意識に否定したかったんだと思う。
本当だったら俺の世界が壊れてしまうじゃないか。
それだから。
そんな俺の言葉に
『……やってみる価値はあると思うんだ』
……は?
そんな理由で殺したのか?
会長は、佐藤を?
いくらなんでもそれは酷い。
許せない。
会長を見損ないました!
そう言おうとしたんだ。
だけど
『僕には生き残った者としての責任があるんだ』
そんな一言を、会長は発した。
その一言が、俺のその……会長を全否定する言葉を飲み込ませる。
生き残った者……?
それって……
その一言で、俺の中にある疑念が生まれ。
俺から言葉を奪い去った。
会長はそんな俺に構わず続けた。
『邪悪な人間がこの世から自動的に間引かれるシステムがあれば、皆はもっと幸せに暮らせるはずなんだよ』
会長の言葉には、強い意思があった。
そして、揺るがないモノを感じてしまった。
『そしてそんなことは、何でも願いが叶うという、猿の手みたいなシステムでも使わなければ実現しない』
俺は会長の言葉に異を唱えることが出来なかった。
内容は受け入れるわけにはいかないって分かっているはずなのに。
『だから頼む……君たちのヒーローブレスを僕に譲ってくれ』
……必死の訴えを感じる。
会長はエゴでは言ってない。
使命感で言っている。
……会長……あなたはどうして……?
自分の言いたいこと、伝えたいことを口にし終えた会長は。
そこで通話状態を終了した。
後に取り残される俺たち。
……どうすれば良いんだろうか?
「桜田君……どうするっすか?」
高瀬のそんな言葉に。
俺はすぐに返答することができなかった。
会長の背景は予想は出来ると思います。
読んでいただき感謝です。
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