第60話 狩猟者の心境
俺は走っていた。
変身を解いたんだ。
俺はここまで、自転車で5分程度掛かる距離を、笹谷のチカラでひと飛びし。
1分くらいで来たからな。
変身状態だと、逃走中に制限時間が来る。
だから仕方が無いんだ。
十分距離を稼いでから変身を解き、俺は走った。
佐藤は後ろから追いかけて来る。
自前の足で。
佐藤の方も変身を解いたんだ。
アイツにも変身の時間制限があるからな。
ただ、少ししんどそうだ。
……普段の運動量と、年齢差か。
それでも佐藤は
「ヒーローブレスを全部集めれば俺は無敵だ!」
強気だった。
諦める様子が無い。
……そりゃま、そうだろうな。
俺はアイツにとって、相性的に簡単に勝てる相手になるからな。
そして俺を殺してブレスを奪うと、今度は高瀬がその対象になる。
それを繰り返せば、全てのヒーローブレスを手に入れることができるじゃないか。
だから、そのための第一歩として。
……こいつは俺を見逃せないんだ……!
「とっとと渡せ! でねぇと嬲り殺しにしちまうぞ!?」
かなり体力が消費されているはずなのに、諦めない佐藤。
俺は
「嫌だね! アンタはクズの上に強欲か!? 救いようが無いな!」
走りながら叫ぶ。
すると
「馬鹿が! 知らねえのか!?」
向こうも半ば叫びながら
「ヒーローブレスを全部集めれば、どんな望みでも全部叶うんだよ!」
そんな、とんでもないことを口にした。
「この世の王にだってなれるんだ!」
俺が全く知らないことを。
え……?
その内容で、俺の足が止まりかかる。
そんなの聞いてない……!
けど
(俺を驚かせるための出まかせかもしれないだろ)
そう思い直し、俺は考えるのを止めた。
走ることに集中する。
だけど、その油断が悪かったのか
……自転車の走行音が聞こえて来たんだ。
チャリチャリ、という。
俺が心を乱している間に、佐藤は放置自転車を盗んだのか……?
どうやったのか知らんけど……
さすがに自転車相手に、走るのは分が悪すぎる。
俺は構え、変身コールを行い。
俺のヒーロー体の飛行能力を駆使し、自転車で追跡して来る佐藤から逃れる……!
「飛ぶんじゃねえよ!」
背後からの悪態。
当然無視。
そしてそこからすぐだった。
少し開けた場所に出る。
その道路の隅っこに、しゃがみ込んで頭を抱えて停止している小柄な女子高生。
俺はその子の傍を通過して、道路の真ん中まで飛行して。
そこで変身状態を解除した。
……十数秒後。
自転車に乗った佐藤が追いついてくる。
「……ようやく諦めたか?」
ニヤニヤした中年男・佐藤。
「逃げてても、勝ち目が無くなるだけだろ」
佐藤の言葉に俺がそう返すと、勝利を確信したのか。
ニヤニヤ笑いを深める。
……相性的に負けは無い。
そう確信してるのか。
舐められたもんだな。
「……男らしい判断だ。気に入ったから一瞬で殺してやるよ」
言いつつ、佐藤は自転車を降りて変身ポーズを構える。
捕食者の目で。
「さあ、変身しな。
残り時間を全部使って、抵抗して見せろ」
そう、狂笑を浮かべて
「変身んッッ!!」
変身コールを口にした。
黒い輝き。
そうとしか言えない、奇妙な光。
その光が消えたとき。
そこには装甲を身に纏った、ヘルメットに亀の紋章を持つ黒い戦士がいた。
……その身体を、金属でグルグル巻きにされた状態で。
「なんじゃこりゃあああああ!?」
佐藤の叫び。
「……自分が狩る側だと思っていたら、本当に不注意になるんすね」
そんな佐藤の背後に。
白い戦士……
高瀬の変身体・タイガーソルジャーが居たんだ。
……結構恐怖があったが。
何とか完了。
俺はさ、餌だったんだよ。
佐藤にとって、俺は逃せない獲物。
そんな獲物を見つけたら、絶対に全力で深追いしてくる。
その心理を利用した。
そして高瀬に、この場所の隅で異空間転移を隠れるような姿勢で解除しててもらい。
俺がそんな高瀬をこっちに引っ張り込み、再起動させ。
追いついて来た佐藤に、後ろから奇襲を掛けさせる。
……上手くいってホッとしている。
「その金属の枷は、溶かせませんから抵抗は無駄っすよ」
そこで発した高瀬の言葉には。
強い達成感と、興奮が感じられた。
勝ち誇る=負けフラグなのね。
読んでいただき感謝です。
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