第58話 見苦しい奴
怒号は続いている。
エアーギガンテスは、富裕層に対する佐藤の残虐な愉しみを阻止するための足止めだから、逃がさず殺さず、みたいな攻め方をしているんだと思う。
だからまあ、やられないんだろう。
本気で攻めればその分隙が生まれやすくなるけどさ。
邪魔が目的で、本気で攻めちゃいないんだから。
……佐藤は変身しているんだろうか?
知っての通り、俺の火属性と佐藤の水属性は相性が悪い。
戦えば俺が不利になる。
以前、笹谷が須藤に雷撃を喰らわせたときの事例から考えて、俺の技も通じにくくなる可能性が高い。
俺としては、佐藤がエアーギガンテスへの恐怖で先に変身してくれていたら嬉しいんだけど……
そんなことを思いつつ。
俺は怒号の発生源に駆け付けた。
角を曲がって、大きな道路に出たんだ。
そこには。
青い肌で1つ目1本角の2メートル超の巨人に追いまくられている男がいた。
灰色のトレーナーとブルーのジーンズを着た男だ。
髭伸びっ放し、ボサボサ頭の中年男。
体型はあまり太ってはいないけど、逞しくは無かった。
……刑務所の生活で、太ってはいないが、特に鍛えているわけではない。
それが見て取れた。
「追って来るな! 何で俺を襲うんだ!? 他に獲物はいっぱい居るだろ!?」
焦りを含んだ怯えた声を発する中年男。
その目つきは嫌な感じがした……
前情報のせいなのかどうか知らないけど。
俺は
「アンタ、佐藤村虎だな!?」
そう、大声を発しながら道路に姿を現す。
すると
エアーギガンテスが空気に溶けた。
俺が来たから、もう足止めは要らないってことかね。
停止した異空間の路上で、向かい合う俺と中年男。
中年男は立ち止まり、上がった息を整えるためにハァハァ言いつつ
「……なんだいきなり!?」
……認めた。
やっぱりコイツなのか……!
俺の脳裏にコイツがやったことが浮かび上がってくる。
コイツは俺の父さんと女性を殺して。
それを全く反省せず。
脱獄してまた人を殺している……!
許せなかった。
俺は
「……とっととヒーローブレスを放棄して刑務所に戻れよ、オッサン」
思わず、衝動のままに言ってしまった。
意味が無いのにな。
すると
「は? 嫌だね。誰が戻るか。人間は幸せになる権利があるんだよ……黙れクソガキ」
まだハァハァ言いつつ、こちらを嘲る笑みを浮かべる。
「人を殺したアンタにそんなもんはねぇよ!」
俺がそう、衝動に駆られて言い返すと
「根拠は? 脳みそ使って話せ。低能」
俺の言葉をせせら笑い、全く取り合わない。
佐藤は冷笑を浮かべて
「俺だけいつもワリ喰ってんだよ。どこに行っても爪弾きにしやがって。俺は犠牲者なんだよ……奪われたものを取り返して何が悪い?」
そう言って、佐藤は自分の人生を語り始めた。
やれ、小学校ではずっと仲間外れだった、中学でも高校でもそうだったし、彼女が出来たことも無かった。
大学はFランで、行きつく先は無職かブラック企業の社畜。
友達すらほぼ居ない。出来たとしても、半年持たない。
この世は俺を苦しめる監獄だ。何故そんな世の中に俺が気を遣わないといけない?
そう、自分がいかに可哀想か一生懸命主張している。
……なんて見苦しいんだ。
「自分に原因があるとは思わないんだな……ホントみっともねぇよ。アンタ」
思わず出た、そんな俺の言葉に
「お前に何が分かるクソガキッ!」
……地雷だったのか、一瞬で声を荒げた。
佐藤は
「お前は知らないだけだッ! この世に善意も愛情も、そんなもんなんてねぇんだよ! あるのは偽善と打算だけ! 俺に愛を誓ってくれた女も一瞬で俺を裏切った!」
激昂したまま、大声で喚き立てる
「脱獄してッ! 真っ先に嫁に会いに行ったのに! あのクソ女俺を警察に売りやがったッ!」
興奮し過ぎたのか。
涙を浮かべながら。
「許せねえ! ゴミがッ! クソがッ! あなたの苦しみは私は分かってあげられるなんて、面会で言ってやがった癖にッ!」
……ああ。
そういうことか。
あの脱獄の後すぐの、女性と警官が殺された事件。
そういうことだったんだな。
脱獄して会いに行ったら、速攻で通報されて売られたのか……。
獄中結婚した相手に。
おそらく、自首を勧められることも無く……
……所詮、こいつが得た愛と呼べるものなんて……その程度だったんだな。
流石に……ざまあみろと言えなかった。
ただ……哀れだった。
だから俺は
「俺がアンタを終わらせてやるよ……」
そう、左手の赤いヒーローブレスを示すように、変身ポーズを取ったんだ。
そして
「変身!」
変身コールを発し、俺は赤い戦士に変身した。
ザ・他責思考。ミスター他人のせい。
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