第56話 秘策
「どういうことなんですか?」
分からなかった俺は、会長に訊ねる。
会長は
「君と僕が、この町の有名人の自宅を知らないように、おそらく佐藤死刑囚も知らないはずだ、ってことさ」
うん、まぁそれはそうかもしれない。
俺は俳優緋村の家知らなかったし。
……だから?
会長は
「……佐藤死刑囚が、自分が成功者を破滅させることが可能であると気づいた。ここがポイントなんだよ」
そう言った。
そのときの会長の表情は、少し複雑だったと思う。
放課後。
会長は俺たち3人を伴って。
この町の富裕層が住む高級住宅街に俺たちを連れて来てくれた。
何でも、ここに住む人は病院の院長だとか。
そこそこの規模の会社経営者。
そういう人ばっかりだそうだ。
多分、俳優の緋村源八郎の家もここにあったんだろう。
……ここに佐藤が?
「何も成功者は芸能界の大御所だけじゃ無いんだよ」
見なよここの家の規模をさ。
普通の家の2~3倍は平気であるだろう?
会長のそんな言葉には頷かざるを得ない。
……確かに。
大体、形も違うしな。
一般庶民の家は、ハンコ絵みたいな感じの量産型。
間取りも形も似たり寄ったりが普通なのに。
ここの家は凝った構造してるのがザラだ。
玄関が2階にあったり。
まるで佇まいが旅館みたいだったり。
池があって、鯉を飼ってそうだったり。
そこに会長が思うところを言ってくれた。
「俳優の緋村さんの家に死体を投げ込んで、緋村さんを苦しい立場に追いやって苦しめることを覚えたんだから……」
この言葉を口にする会長は少し暗い表情をしていた。
多分、クズの思考をトレースすることに、何か心理的に嫌なことでもあるんだと思う。
「おそらく、しばらくはこっちに嵌るんじゃ無いだろうか?」
なるほど……
新鮮な快感は、2度3度と気が済むまで味わいたくなるもんだしな。
一口チョコの山を前にした子供みたいなもんか。
このチョコを自由に食べて良い、ってなると。
チョコ1個だけで終わって、他の遊びに行く奴は多分いないはず。
そういう思考。
……少し会長の気持ちが分かった。
こういう予想を立てられる自分に、嫌悪感を感じるのかな。
「で、どうするんですか?」
笹谷。
会長は
「ちょっと人が来ないか見張っててくれないか?」
そう笹谷にお願いする。
笹谷は頷き、周囲を気にしてくれた。
会長はそれを見てから
この高級住宅地の誰かのお屋敷の門の影に身を屈める。
そして俺と高瀬の2人に
「壁になってくれ」
そう言いつつ。
俺たちは従った。
すると
「変身」
会長は腕をクロスして変身コールをしたんだ。
一瞬の輝きの中、会長は黄金の戦隊ヒーローに変身した。
会長のヘルメットに刻まれている紋章は……
馬、か。
……ここで変身してどうするんだ?
困惑した。
だけど
「出現しろ! エアーギガンテス!」
抑えめだけど、鋭いシャウト。
会長が天に向けて手の伸ばし。
その先から光が放射され。
俺たちの上に、怪物を生み出したんだ。
屈強な成人男性の身体を持った、一本角の一つ目巨人。
大きさは2メートルを超えている。
その肌の色は青で……
下半身が、子供の考えるお化けみたいな形状になってる。
……足が無いんだ。
浮いてる。
えっ、えっ?
ここで怪物を生むなんて、先輩は何を……?
誰かに見られたら……?
だけど、そんな危惧をする前に
巨人は空気に溶けて消えてしまった。
混乱する俺たち。
そこに会長が
「……エアーギガンテスは空気の巨人。とあるゲームに登場するモンスターだけど……」
何でも。
会長の変身する黄金のヒーローブレスの特殊能力「生物創造」は。
現実の生き物以外にも、他人の考案した架空の生き物も創れるそうで。
(自分が考案した架空生物は駄目とのこと。そして他人考案の架空生物でも、一定の知名度が要るらしい。だから伝承、ゲーム、アニメ漫画小説が元ネタになる)
そしてその生物が無茶であればあるほど、体力消費が激しくなるらしい。
会長は変身を解いていた。
しんどそうな顔で。
そしてこう言ったんだ。
「今、この現実の高級住宅街に、うっすらとした空気としてエアーギガンテスを仕込んだ。ここで佐藤が異空間転移を使用すれば……」
僕ら同様、僕の能力の一部である使い魔エアーギガンテスも巻き込まれる。
そうすれば僕にも佐藤の居所が分かるし、足止めも出来る。
まあ、使い魔の寿命は数日だから、消滅したらやり直しだけど……
そんな会長の言葉には。
俺らは唸らざるを得なかった。
エアーギガンテス……ゲームでは初遭遇時に、一撃でパーティー戦士を殴り殺してしまう上、こっちから斬り掛っても空気に変じて攻撃をミスさせまくって来るがあるあるの強敵。
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