第54話 自炊仲間
結局、その異空間転移では。
停止した世界でたった1人動いている存在は見つからなかった。
どうすれば良いんだ……?
会長が仲間に入って、最後の1人が本当に死刑囚であることが確定した。
そうなって来ると……恐怖しかない。
刑務所を駆け込み寺か何かだと勘違いできるような、倫理観と正義感が終わってるクズが、ヒーローブレスを手に入れた。
何をするのか……?
銀行で金を奪って、飲み屋やその手の店で豪遊するくらいならまだマシだ。
最悪なのは……通りすがりの美人な女性を異空間に引きずり込んで強姦する。
絶対にやるだろう。
同性愛者でない限り、人間性がクズだったら絶対にする。
しない理由が無い。
特に刑務所は女性が居ないだろうし……
高瀬や笹谷はブレスを持ってるから対抗できるけど……
俺の頭の中で、母さんが犠牲になる想像が起きそうになり、慌てて打ち消した。
その日は笹谷が部活で。
高瀬も図書委員。
俺は俺で、今日はスーパーのタイムセールに行かなければならないという重要な使命があったので。
急いで帰宅して、エコバックを持ってスーパーに突撃したんだ。
……ブレスを持った死刑囚も重大な問題だけど。
俺も日々の生活があるからね。
食用油が4時から半額で売られるんだよ。
これを逃すわけにはいかんのだ。
俺の行きつけの激安スーパー「YASKAロウズ」
ここは野菜が古くて、魚も古い。
……その代わりすごく安い。
正直さ、食材は古くても栄養素は変わらんからさ。
そこは拘るべきじゃないと思うんだよね。
俺は
入店し、買い物かごに安い野菜を数個放り込んだ。
100円切ってたから、思わず。
……だけど、食用油のことを思いだし、売り場に直行。
今はタイムセールが始まって10分経ってるから。
どのくらい残ってるだろうか?
行ってみると、対象の食用油1000gが残り数個になっていた。
危ねえ!
駆け付けて、食用油のボトルを掴んだ。
……そしてほぼ同時に、その隣のボトルを別の手が掴んだ。
その手は……
西下会長だった。
「えっ」
「桜田君。君もなのかい?」
意外な場所で、意外な人に出会った気分だった。
「……なるほど。君も自炊してるんだね」
買い物を一通り済ませ。
店の外の自販機の前で、缶コーヒーを飲みながら会長と話す。
「ええ。ウチは母子家庭でして」
大変ですよ、という顔で俺は告白。
会長は
「僕のところは父子家庭でね。母が居ないので僕がやるしか無いんだ。……父はちょっと忙しい男だからさ」
そんなことを困ったような笑顔で告白。
そっか……
何で父子家庭なんだろうか……
離婚かなぁ……?
まぁ、訊かれたくないだろうから、突っ込むのは止めておく。
「僕は1人分だからね。数日おきに野菜のごった煮を作っておいて、それを冷蔵庫で保管するんだ。……君は?」
「一応、母が帰ってから食べるので、毎日作ってますね。……煮物を」
煮物。
失敗が少ないし、煮てる間に別の事が出来るから選びがち。
「色々面白いよね。料理は」
「そっすねえ」
そこで俺は。
同じ苦労を背負うものとして、会長の言葉に同意して笑みを浮かべたんだ。
日常パート?
読んでいただき感謝です。
ここまでの物語が面白いと思って下さった方、是非評価、ブクマ、感想等をお願い致します。
(反響を実感できるのは書き手の喜びです)