第47話 佐藤村虎
佐藤村虎が東京拘置所より脱走……?
俺は瞬間的に怒り……いや、憎しみが噴き出して来るのを実感する。
「桜田君、どうしたの?」
それが顔に出たんだろうか?
笹谷が俺に心配そうな、いや怪訝そうな声を掛けて来た。
俺はハッとして
「あ、ごめん。ちょっと意識が飛んでた」
「どんなのよ、それ」
笹谷は冗談だったと解釈し、笑う。
俺も微笑んだけど……
内心、穏やかじゃ無かったな。
佐藤村虎は、父さんを殺した通り魔だ。
女性と父さん、2人を殺害した罪で死刑判決を受けた。
犯行動機は「無期懲役になって、残酷な競争社会から抜け出したかった」から。
……こいつは20才で、この社会で生きていくのを投げた。
何でも大学に入ったがそこは所謂大卒の肩書だけしか手に入らない大学で。
そこを出ても大した企業に就職できず、暗い未来しか待ってない……
いやそもそも、俺は就職できるのか?
人生詰みじゃ無いか?
そんなことを、勝手に思った。
そして……
何が切欠なのかは知らないけど、決断した。
人を殺して無期懲役になって、刑務所でのんびり暮らそう。
……ふざけてるよ。
俺が母さんに全てを教えて貰った後。
こいつのことを自分で調べて、こいつが語った犯行に至った経緯を知ったとき、こんなくだらない奴が父さんと子持ち女性を殺したのかと憤ってしまった。
そしてこいつは、そのクズ過ぎる計画を実行に移し……
逮捕され、死刑判決。
目論見が大きく外れたわけだ。
なのでこいつは裁判の場で「1人目の殺人は認めるが、2人目は正当防衛だ!」
などと喚いていたらしい。
ボコボコに殴ってやりたいと思った。
ふざけるな! クズ!
……そのときの裁判は、どうも色々大騒ぎで。
俺は詳しくは調べられなかった。
正気を無くしそうになって。
……死刑廃止論者たちの、格好の活動ネタになったみたいでさ。
俺にとっては聞くに堪えない言葉が飛び交っていたようだ。
「彼の人生は孤独そのもの。彼をここまで追い込んだ社会の責任に目を背けるのか」
だとか
「死刑は国家による殺人! 取り返しがつかない刑罰は廃止せよ!」
だとか。
……取り返しがつかないのがダメなら、全ての刑罰がそうだろ。
偽善者共が!
……そして支援者の中の女が、佐藤と獄中結婚をしたらしいという情報を読んだとき。
俺はさすがにもう、これ以上調べるのは無理と思い。
結果、完璧に調べ尽くしたとは言えない状態で今は放置してる。
……けど。
そういうわけで、名前を見て何が起きたのかを把握する程度には、俺は佐藤を知っていた。
そんな奴が脱走したのか……
何やってんだよ、刑務所……?
父親の仇の背景は。
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