第32話 変な異空間転移の後
「槍投げの選手に転向しようかなってちょっと考えているんだけど」
「なんでさ」
この前の謎の異空間転移の後。
俺はよく、学校で笹谷と話すようになった。
あのとき体感で、1時間くらい転移してたから。
その間電話で会話したことで、何か距離が縮まったように感じる。
あくまで俺の方は、の話だけどさ。
「だって槍を投げるじゃん」
「あの槍は違うだろ」
陸上の槍投げは戦闘用では無いと思うぞ。
笹谷のバトルスタイルの応用にはならん。
会話の内容はそんな感じで、ヒーロー活動に密接な関係のある武道の話だけではなく
「お兄ちゃんが彼女を連れて来たんだけど、正直どう接したらいいか分からなくてさ」
「お兄さん、初彼女なわけ?」
「まぁ、そうかな」
……こういう、プライベートな話もちょくちょくするようになった。
絆が深まった気がして、嬉しかった。
……そっか。
笹谷、兄弟居たのか。
小学校からの付き合いだったけど、今まで互いの名前を知ってるだけの間柄だったしな。
……なんか、勿体ないことをしてきた気がしたよ。
もっと早く、笹谷と会話したら良かったのかもしれないな。
……そんな風に、会話しながら思ったとき。
俺は視線を感じたので、そちらに目をやった。
そして、気分が悪くなる。
何故ならそこには……
アイツが居たんだよ。
この教室の引き戸が半開きになってて。
その隙間に見える位置。
そこから俺に視線を投げていた。
……俺の嫌いな人間。
この町の名士の家の人間。
須藤隼太。
金髪の小男。
……俺の鞄から弁当箱をくすねて。
ゴミ箱にその中身を捨てた男。
それで俺が激怒して、暴力事件を起こす原因を作った相手。
俺が殴りつけたせいで、前歯が上下共にぶっ飛んで無くなってる相手。
……どんどん、思考が暴力的になっていく。
まぁ、しょうがないか。
あの件は悪いが、俺は少しも申し訳ないとは思ってないからな。
あいつはそれだけのことをやったんだ。
だから、俺は一言も謝っていない。
そのことを母さんに話したら
「別にそこまで怒らなくてもいいよ」
って言ってくれたが、母さんが許したとしても俺が絶対に許さない。
人間、そういうことはあるはずだ。
やったら最後、絶対に許して貰えないことってものが。
……アイツは俺を憎々しげに見ていた。
意味不明だ。
勝手に逆恨みしてやがれ。
……すると。
「桜田君?」
黙り込んだ俺に、笹谷が声を掛けて来た。
そこで俺の思考から、怒りの要素がいくらか去った。
俺は
「ああ、ゴメン」
彼女に詫びて
「お兄さんの初カノの、向こうの態度ってどんなんなの?」
そう、彼女の話に繋がる返しをしたんだ。
主人公、色々あるわけよ。
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