第31話 俺が剣道を始めたのは
『桜田君って何で剣道を始めたの?』
そのまま流れで、笹谷と会話をした。
一向に妖怪が来る気配無いし。
通話してるのに黙っているのは、何か居心地が悪い。
一応、たまに思い出したように壁の外や窓の外に頭を出してみるけど。
異変は無い。
外は静かな夜の町の風景で。
何の変化もない。
窓に顔を突っ込んで左右を見回し、異変無しを確認した後。
「んん、強くなりたかったからかなぁ?」
窓から戻ってベッドに腰を下ろしつつ。
俺が最初に剣道を始めた理由を思い出しながら、返答を口にする。
笹谷は
『男の子は強い人に憧れるもんだしね』
私の知り合いの男の子も、マスクドファイターカープで、ライバルキャラのシャドーファイターゴルドがカッコイイって言ってたし。
シャドーファイターゴルドはマスクドファイターカープより強いんだよね……?
笹谷のそんなコメントに、俺は
まあ、確かに今はそうだな。
シャドーファイターゴルドはカープに最初に土をつける相手だ。
鯉とは違う、金魚由来の特殊能力……それに圧倒されて、負けてしまうんだ。
あと、圧倒的な戦闘技術の差……格の違いを見せつけられるわけだよ。
もっともこれは、あとの展開次第だけど。
おそらく逆転する展開になるハズだし。
壁が高いからこそ、打倒したときのカタルシスがすごくなるんだよ。
だからあと半年もすれば、笹谷の知り合いの男の子が好きなのは、順当にカープになってるんじゃないかな。
あのゴルドより強いカープはすごい、って。
そう思った。
だけど……
(俺は単純に強い存在に憧れたわけじゃない)
心で呟く。
俺は自分の前に、倒さないといけない悪が出現したとき。
全く何の問題もなく倒してしまえる、そんな存在になりたかった。
悪に戦いを挑んで悪を倒せない。
自分がそういう存在であることが嫌だったんだ。
何でそう思ったのか……?
それをさ、ヒーロー活動を始めてからずっと考えて。
この前、ようやく気づいた。
ようは
「単に父さんの最期が気に入らなかったんだろうな」
ボソッと
思わず声に出して言ってしまった。
『えっ?』
俺が脈絡のないことを言ったので、電話の向こうの笹谷が驚いた。
俺は自分の発言に気づき
「あ、ゴメン。考えていたことが口に出た」
なので謝り、俺は
「ゴルドは今は悪の戦士だから、そこは一線引いて欲しいところだけどな」
そう笹谷の話にコメントをして
そのときだった。
……突然、異空間転移が解除されたんだ。
俺の部屋に色が戻り、部屋の時計がまた時間を刻み始めた。
『あ、戻った』
通話は続いたまんま。
笹谷も驚いている。
……結局何だったんだ?
この異空間転移……?
一体何だったのか?
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