第30話 異空間での通話
「えっ」
こんな夜に、異空間転移?
何で?
思わずベッドから起き上がり、周囲を見回す。
妖怪、妖怪が居るのか?
ちなみに俺の部屋は2階なのだけど、異空間転移が起きた瞬間に下に落ちるということはなく。
壁は通り抜けようと思えば抜けられるのにな。
これはおそらく、その気になれば異空間に見えてるものを触って、こっちに引き込むことが出来ることと関係あるんだろうな。
足場にしてるものとか、寝ているものは「触れようとしているもの」としてカウントされるんだろう。
だからすり抜けて落下が起きない。
でも、覚悟を決めて抜けようと思えば壁抜けはできるので……
俺は壁に頭を突っ込んで、外を見た。
外には……
特に異変は無い。
外に見上げ入道が居るとか、うわんが暴れてるとか。
そんなのは無い。
静かなもんだ。
静かな、モノクロの、暗い住宅地だ。
……居ない?
頭を引っ込める。
そのときだ。
ブーン、ブーンという音が聞こえた。
……えっ?
何か、俺のスマホが着信でバイブしていたんだ。
スマホを手に取る。
電話の相手は「笹谷」とある。
えっ……?
笹谷……?
いや、そうじゃなくて。
異空間で、スマホを使えるのか……?
まぁ、現にこうして電話が掛かってきているんだから使えるんだろう。
これは新しい発見だな……
俺は通話をオンにする。
すると
『もしもし桜田君?』
笹谷の声が聞こえて来た。
「笹谷か、そっちに妖怪いる?」
一番の関心事を訊ねると、笹谷から『ううん』という言葉が返って来て、続けて
『でも、いきなり夜に異空間転移なんて、これまで無かったよね。どういうことかな?』
そんな質問が
でも、そんなことを言われてもさ
「分からん」
正直に口にする。
こう答えるしか無い。
この力を得て結構経つけど、別に俺はこの道のエキスパートじゃないんだ。
で、沈黙。
……なんだか、焦りを感じる。
いや、別にダベるために電話してるわけじゃないけど
すると、向こうも何か沈黙を悪と感じたのか
『……あのさ、桜田君は別にクラスの他の人たちに嫌われて無いからね?』
なんか、脈絡なく俺の環境に関する話を笹谷が
俺としては
「ええ? 何だいきなり?」
戸惑うしかないわけで。
だけど
『ああ、ゴメン。何を言ってるんだって思うかもしれないけど、ひょっとして誤解しているのかなって思ってて』
「そういうことは無いから」
言いながら、これは自分が人気者であることは知ってるから心配いらん、って聞こえるかもしれないなと頭の片隅で思った。
誤解されたら嫌だなと思ったが、訂正も面倒だ。
どうすっかな、と思いながら
「もしクラスの皆が俺に消えて欲しいって思っていたなら、署名は集まらないだろ」
それを根拠に出した。
……校長が無視できないだけの俺を庇う署名。
それの出所を考えたら、そういう結論になるよな。
だから俺が孤立しているのは、偏に地元の名士の恨みを買って、この県内で生きていけなくなるのが怖いからだ。
実際に影響なんてあるわけない、なんて口で言うのは簡単だけど、普通の人は万分の1でも、リスクは負いたがらないもんだし。
俺と交流持つことが、そのリスクに見合うだけの価値が無かった。それだけの話。
そんなことを電話で言ったら
『桜田君は優しいよね』
……なんかそんなコメントが。
優しい?
何が?
周囲の人間が満点行動を取らないからと、恨みに思わず許してるから?
……いや、笹谷。
別にキミに文句があるわけじゃないけどさ……
満点じゃなきゃ、文句を言う。
それは絶対違うだろ。
満点以外評価する必要は無いってのはおかしいね。
読んでいただき感謝です。
ここまでの物語が面白いと思って下さった方、是非評価、ブクマ、感想等をお願い致します。
(反響を実感できるのは書き手の喜びです)




