第28話 父の死の真相
俺にそんなことを言われた母さんは。
少し、考える仕草を見せた。
そして
俺を正面から見つめて。
真面目な口調でこう言ったんだ。
「……そろそろあなたも受け止められる年齢だと思うから、教えてあげるわね」
……その言葉。
俺は、真実から遠ざけられていた。
薄々分かってはいたけど。
父さんは通り魔に戦いを挑んで死んだ。
普通に考えると、挑むに足る理由があるはず。
通り魔だからというのは理由にならない。
それだったら警察に任せろって話だし。
だから俺は、父さんが死んだちゃんとした理由を知らないんだ。
一体、何を言われるのか……?
俺は息を飲んで、待つ。
「あなたのお父さんが死んでしまったのは、人助けで刃物を持った通り魔を殴り倒そうとして、失敗したからよ」
殴り倒そうとして、失敗した……?
母さん曰く、父さんは伝統空手の黒帯だったらしい。
徒手格闘武術を修めた人間の素手は、凶器として扱われるって聞いてる。
父さんは……だから自分なら刃物を持った人間にも勝てると思って通り魔に挑み、返り討ちに遭ったってことなのか……?
いや、そうじゃないだろ。
「何でそうしたの?」
……俺は聞いた。
今、母さんが言ったのは死亡に至った理由だ。
そうじゃない。
そんなのは、父さんが死んだ理由じゃ無いんだ。
俺がさらに訊いたこと。
母さんはそれが少し嬉しそうだった。
母さんは言ったよ。
「……その通り魔はたまたま道を歩いていた私たちの目の前で、女性と子供の親子連れをいきなり襲って、まず女性をめった刺しにして殺したの」
そして
「突然だったから、私たちはそのとき何もできなかったけど、女性を殺したと確信した犯人は、次に女性の子供を狙ったわ」
そこで父さんが動いたらしい。
男の刃物を握った右手を蹴りでへし折り、子供を守ったらしい。
で、目の前で母親を殺されてショック状態になってるその子に「怪我は無いか!?」と言って介抱しようとした。
だけど、それがいけなかった。
通り魔の男が、右手を折られたのに根性を振り絞ったのか、左手で刃物を拾って、後ろから全身の力を込めて父さんの背中に刃物を突き立てた。
それが運悪く致命傷になったんだそうだ。
それが……俺が隠されていた真相。
「幼いあなたが知ってしまうと、その生き残った男の子に憎しみの感情を持つかもしれない。そう思ったから、今まで言わなかったのよ」
母さんは申し訳なさそうにそう言った。
あり得るな、それ。
子供なんて自分勝手なもんだから。
現に俺、父さんを犬死したと意味も分からず言ってしまい、それで殴られたのに。
ずいぶん長いこと、それで母さんの愛情を疑っていたじゃないか。
……十分、あり得る。
そしてそんなの、絶対に父さんは悲しむはずだ。
自分が死んだせいで、クズ野郎から命だけは救えた子が俺に恨まれるなんてな。
黙ってて正解だろ。
だから俺は
「……黙ってて大正解だよ。子供が受け止めるには重すぎる」
そう言って、そして
「今まで黙っててくれて。それで今日教えてくれてありがとう母さん」
そう感謝の意志を口にする。
母さんは……
ニッコリ微笑んでくれた。
目に涙を浮かばせながら。
少年は少し大人になった。
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