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男のオレが悪役令嬢に転生して王子から溺愛ってマジですか 〜オレがワタシに変わるまで〜【完結】  作者: 春風悠里


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18/30

18.ファーストキス

 シルヴィアが泣きそうな顔になって起き上がった。


 しまった、また傷つけてしまった。

 膝枕で横になれと言ったら、筋肉をなぜか触りたがるシルヴィアがあんな行動に出ることくらい予想できたずなのに。そこに文句を言うなんて、僕は最低だ。


 正直なところ、僕の頭はかなり大混乱している。


 僕の行きたいところを知りたがって、僕とお揃いのものを欲しがって、好きだって言ってもらえて、頬にキスもしてくれて、僕がいつも食べているものを知りたがって……気持ちが通じたも同然なんじゃないかとかなり浮かれている。


 が、それに対して僕は失態ばかりだ。浮かれすぎて、シルヴィアが疲れていることに気づかず休みたいという言葉まで言わせてしまった。お揃いの似顔絵入りタペストリーも、やや引き気味だった気がする。アランと引き合わせてしまって泣かせてしまった。そして今も、せっかく僕を触りたいと思ってくれたシルヴィアを拒否して傷つけた。


 初デートがこれは、男として立つ瀬がない。


「今ならまだ引き返せると思うので……オレの言葉を聞いて、正直なことを教えてほしいんです。気遣いとかそーゆーのなしで、本当のことを……」


 どうして何度否定しても別れた方がいいとか釣り合わないとか引き返せるとか言うんだ。


 シルヴィアの瞳が潤む。抱きしめたくて仕方がなくなる。


「オレ……それなりに丁寧に話してはいるんですけど、こ、心の中はかなり口が悪いんです」

「知っているよ。ここでなら、そのままの口調で話してもいいと言っただろう」

「そっちの口調のオレをもっと知ったら、好きじゃなくなるんじゃないかって」

「ないよ、それは。どんな君も魅力的なんだ。不安なら、もっと素の口調でここで話してみたらいい」


 また気分が浮上する。

 僕の「シルヴィアを好きだという気持ち」を確かめたがってくれている。


「そ、それなら今から少し話しちゃいますよ」

「ああ。ぜひ、そうしてくれ」


 正直、話し方なんてどうでもいい。


 顔を赤くして瞳を潤ませて縋るように僕を見て、豊満な胸のシルヴィアがまるで少女のように勇気を出してギュッと自分の拳を握るだけで、守りたくて仕方がなくなる。


 おかしいよな……まったく気がない時はこのプロポーションを見てもなんとも思わなかったのにな。シルヴィアが誘うようなことばかり言うから、かなりグラグラして理性が飛びそうになっている。


「オ、オレは王子がす、好きなんだよ」


 この喋り方もいいな。ギャップ萌えとはシルヴィアのためにあるような言葉だ。


「でも、オレの性格はすげー悪くて……、王子が困るようなことばっかりしたくなるっつーかさ」


 たまに僕のことを王子って呼ぶよな。


「それに、こんな心ん中で言葉遣い悪い女なんてわざわざ選ぶ必要ねーよなって思うんだよ。だって、そーだろ? 王子だろ? よりどりみどりのはずだろ? もっと根っこから優しくて女らしくて素敵な、その……お似合いの女はたくさんいるよな」


 瞳が否定してほしがっているな。自信がないのだろう。シルヴィアの記憶も……そうさせているのかもしれない。姉に対する劣等感が植え付けられているはずだ。


 はー、切なそうな声がたまらなく愛おしい。


「僕は王子なんて身分さえなければ、ずっと君がその言葉遣いでも構わないんだ」

「え」

「僕のために悩んで苦しんでいるのも嬉しいけどね」

「…………」


 じとっとした目で見られる。

 全ての表情が可愛い。


「つまり、オトコ言葉の君も好きになってほしかったってことかな」

「……性格わりーな」

「ああ、悪いんだよ」

「……全然わるくねーだろ」

「悪いよ。君を逃がしたくないから、王家にも君のことを恋人だと既に話してある。君のご両親にも話は流してある。どこからか婚約話が入らないようにね。抱っこしてここに戻ったのも、僕以外の男を選択肢に入れてほしくないからだ。ごめんね、また食堂でからかわれるかもしれない。講義でも自由席の時はいつも君といるだろう。他の男と仲を深める余地がないように行動している」


 ほっとした顔をしているな。なんでそんなに可愛いんだ。

 

「オ、オレが心配だから側にいるだけなんじゃねーの。勉強の出来の悪さも一緒にいて分かっただろ」

「側にいたいんだよ。勉強だって、僕と同じ最上位のクラスだろう」

「……それは元のシルヴィアのお陰で……それに、実力的にはクラス内での底辺だろ」

「頑張って追いつこうとしているじゃないか。ここでも一緒に勉強して、実際にはあのクラスの中でも真ん中にはいると思うよ。テストがまだだから断言はできないけど」

「王子におんぶに抱っこでフォローまでしてもらって迷惑かけて、やっと追いつけているだけじゃねーか」


 なんでこの口調の時は僕のことを王子って呼ぶのかな。


「好きでやっていることだし、頑張る君を見るのも好きなんだ」


 あー……、またシルヴィアはグシグシと泣いて。こんな不安にさせるくらいなら早く学生結婚でもしたくなるな。


 ハンカチを手渡す。


「自分のがあります」


 ん?

 口調が戻ったな。


「いいよ、あげるさ」

「いえ、そんな迷惑をかけるわけには……」

「お揃いのハンカチを買うのを忘れてしまったからな。このハンカチは同じものが複数枚ある。お揃いにするためにもらってくれ」

「……それなら、もらいます」

「ああ」


 シルヴィアが涙を拭いて、ポケットにしまって――。


「あの、バロン様に抱きつきたくなりました」

「そ、そうか」


 うぉあ!?

 シルヴィアがソファに座る僕の上にまたがってきたぞ!? 首に手をまわして、ぎゅーっと。ああ、胸が当たる……!


「シルヴィア、嬉しいけどさ……っ」

「私の不安、全部なくしてください」


 ……私?

 たまに、こうなるな。


 く、理性が限界かもしれない。しかし、シルヴィアを傷つけるわけにもいかなしい、円周率でも数えるか……!


「私、試したいんです」

「あ、ああ」


 試されているのは僕なんだが!?


「オレがバロン様を本当に好きなのか、試させてください」


 シルヴィアの唇が近づいてくる。

 ワタシとオレが混じり合う彼女の甘い香りにクラクラする。ピンクの瑞々しい唇かかすかに開いて「好きです」と呟いたかと思うと――。


 柔らかいその感触に、思わず熱い吐息が漏れてしまう。


「シルヴィア、君が好きだ。もう、理性が飛びそうだよ。かなり限界だ」

「結婚の段取りでもします?」


 彼女がもう一度、僕の唇にふわりと触れる。そあとには、わざとらしく胸が押し付けられる。駄目だ、男としての反応が止められない。またがっているシルヴィアにも、それが分かってしまうだろう。


 シルヴィアがため息をついた。


「やっぱり全然嫌じゃない……」


 僕をこれ以上振り回すのは、やめてくれないかな!?



 

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