第7話 接触
第7話 接触
冒険者ギルドの入り口から発せられた声により、先ほどまでの騒ぎと共に、辺りを覆っていた緊張感は一瞬にして掻き消えた。
だが、その代わりに新しい火種のような奴が現れ、全員が注目する中、後ろに五人を引き連れたリーダーらしき人物がロイたちの下に歩み寄ってくる。
特徴的なところとしては、リムやセレンのような子供の見た目なのだが、その中身はかなりの実力者だと感じ取れる。
生憎、リムとセラーナの位置からはそのリーダーらしき人物は見えないが、何かを感じるところがあるのだろう、気付かれないように気配を一段階下げると、笑みを消して再び目を閉じた。
ホッと胸を撫で下ろすロイに、そのリーダーらしき人物が声をかけてくる。
「よぉ、あんたら災難だったな。んで? 一体、どうしたってんだよ?」
「あぁ、すまないな。お陰で助かったよ。いや、俺の配慮が足りなかったらしくてな。お詫びに、ここの連中に酒でも奢ろうかと思ってたところなんだよ。とは言え、アンタにも助けてもらったんだ。どうだ? お礼も兼ねて一緒に一杯…」
「おい! 手前ぇ! アンタじゃねぇだろ! どこのどいつか知らねぇけどよぉ、このお方を誰だと思ってんだ! あぁん!?」
「おい! よせ!」
「あ、いや… で、でもよぉ…」
声を掛けてくれたヤツは、気さくで良いヤツみたいだったのに、その取り巻きみたいな奴らの一人が声を荒げて突っ掛かってきた。
まるでどこかのゴロツキのように素行と口が悪く、ロイとしてはご遠慮したいところだ。
さすがに、リーダーらしき人物は注意するのだが、それでも納得がいかなかったようで、今もしきりに何かを訴えようとしている。
段々と雰囲気も悪くなり掛けてくると、当然の事ながら女性二人が薄っすらを片眼を開いて笑みを浮かべ始める。
しかもさっきよりもはっきりとした笑みに変わっており、まずいと感じ取ったロイがこの場を去ろうと立ち上がり掛けたとき、勢い良く音を立ててセラーナが立ち上がる。
そして、先ほどの素行と口の悪い男を見据えると、静かに声を発した。
「…貴方がどこの誰かなど、私たちには興味ありませんし、関係の無いことです。そもそも、私たちは預かった手紙を受付嬢に渡して、その返事を待っているだけです。ここにいる誰かに迷惑を掛けることを望んでいるわけではありませんし、この国の冒険者では無いので、新人扱いされるのも心外です。お分かりいただけたのなら、私たちに構わないで下さい。 …非常に不愉快です」
シンと静まり返った酒場に、セラーナの通る声が冒険者たちの耳に入る。
すると、毒気を抜かれたように冒険者たちはロイたちのテーブルから去っていき、例の六人だけが取り残された。
だが、場を仕切っていたにもかかわらず、セラーナの言葉で収まってしまったため、行き場が無くなってしまった感じがしている。
「あー… すまないな。さっきの詫びとして、俺たちの待ってる間だけになるが、一緒にどうだ?」
「そ、そうか? こっちこそすまねぇ。 …少々世話になる。おい、お前らも座れ」
その場を取り繕うようにロイが話を切り出すと、向こうのリーダーらしき人物も空気を読んで一緒のテーブルに着く。
そして、リムとセラーナはロイを挟んで座り、空いた場所に六人が座ると注文を取り直す。
飲み物が運ばれてくると、ロイが流れを無視した乾杯をして、謎の集団との交流が始まった。
無論、誰も会話をすること無く、無言のままでカチャカチャと食事をする音だけが鳴っている。
そんな空気に耐えられなくなったのか、ロイが無遠慮に相手のリーダーらしき人物に話し掛けた。
「礼が遅くなってしまったが、さっきは助かったよ。ありがとう。ところで、そっちは俺たちに絡んで来た奴らの対処をする前に、何か用事があって冒険者ギルドに来たんじゃないのか?」
「ん? あぁ、それは構わねぇんだ。おそらく、俺らの都合はもう少し時間が掛かるはずだからな」
「そうか。まぁ、お互いにその辺は干渉しないことにしよう」
「あぁ、そうだな。その方が良いかも知れねぇからな」
他愛の無い話をしながらも、ロイに向けられる殺気を含む視線はなかなか外れない。
おそらくは、残りの五人が発しているのだろうが、問題なのはこのリーダーらしき人物がまるで気にしていないことだ。
すると、それを良いことに、向けられる視線に込められる殺気は益々濃密なものになっていき、ロイは自分の両隣りの二人が、いつブチ切れしてしまうか気が気でなかった。
すると、タイミングを見計らったかのように受付嬢がやって来た。
これから応接室で話を聞かせて欲しいと言われたので、これ幸いにと、ロイが食事を切り上げる。
そして、リーダーらしき人物に礼を述べると、リムとセラーナを連れて受付嬢の後をいそいそとついて行った。
「何だ? あいつ、何慌ててやがんだ? …後なぁお前ら。俺の指示なしに何をしてやがる? 仮にも、こっちが先に手ぇ出してんだからよぉ。これ以上余計なことをすんじゃねぇよ」
「わ、悪ぃ、チビ兄貴。だけどよぉ… あいつ、こともあろうにチビ兄貴をアイツ呼ばわりしたんだぜ? そんなの許せる訳ねぇだろ。天雷のリーダー、カノンだって知らねぇってのも許せねぇよ」
「そうですよ、チビ様。私はいつでも斬り掛かる準備はできてました。チビ様が指示下されば、あんな奴らなど瞬殺してやりましたよ」
「アルテリオ様もセレスティーナ様もカノン様の事をとても大事に思われているんですよ。もちろん、他の天雷の皆さんもでしょうけど」
「ったく、いい加減にしとけよ? お前ら」
そう言って、ウェイトレスが追加した食事をテーブルに並べ始める。
カノンは、先ほどアルテリオたちがロイに向けて殺気を放っていたことは気付いていたが、特に止めることも無くその場の流れに注視していた。
だが、ロイは何の反応も示さず、受付嬢が来たことでその件は強制的にお終いとなってしまった。
しかし、アルテリオを始めとして、他のメンバーもロイの物言いに対して許せないの一点張りだったが、カノンは何とかその場を収めると自分たちの用事を済ませるべく、食事を済ませると本来の用事を済ませるべく受付へと向かった。
「へ? もう到着している? いつの話だよ、それ!」
これが、受付で話を聞いたカノンの第一声である。
カノンたちの用件とは、ベークライト王国からの冒険者が来たら自分たちに連絡を回すよう、入国審査官へと話を通してもらおうとしたのだが、なんと既にベークライト王国からの冒険者はパーライト王国に到着しているとの事だった。
カノンが慌てて日付を確認するが、女王陛下がベークライト王国に手紙を渡し、その返事が来てからまだ一ヶ月ほどしか経っていない。
向こうが手紙を受け取ってからすぐに冒険者を手配し、準備を済ませてから出発させたとしても、あと半月くらいは掛かる見込みだったし、いくら高速船を使ったとしてもこんなに早く到着するはずは無い。
何かの間違いかと思っていたのだが、実際はカノンたちの予想よりも早く到着していたと言うのだ。
しかし、カノンたちも先ほどまで王城にいたのだが、ベークライト王国からの冒険者が謁見を求めてきたと言う話は聞いていない。
つまり、パーライト王国の港までは来ているのだが、まだ王城へは行っていないと言う事だ。
「受付の話だと、今日到着したみたいですよ?」
「とは言え、審査官に連絡を入れておらんから、今日のいつなのかが分からんな」
「すれ違ったらまずいにゃ。やっぱ、城で待ってた方が良いと思うにゃ」
「ったく、チビ兄貴に余計な気ぃ遣わせやがって! そいつら許せねぇな!」
「でも、今はどこで何をしているんだろ?」
「うーん… 仕方ねぇな。まだ外も明るいことだし、城へ向かっていることも考えられる。俺たちも王城へ戻ろうぜ。」
用件の詳細を確認するために受付けに行っていたセレスティーナが戻ると、聞いた話を皆で共有する。
だが、ガルマールが言うように、審査官には事前情報を入れていなかったため、到着時間までは分からなかった。
バイオレットは城で待った方が良いと言えば、アルテリオが向こうの冒険者が勝手に動いていることに憤慨し、チェルシーはその彼らが今どこにいるのかを気にしていた。
暫く考えていたカノンは顔を上げると、メンバーに城へ戻ることを提案した。
当初の目論見が外れてしまったことに、カノン以外の五人はその冒険者パーティーに不信感を示し始めてきたが、今はその冒険者パーティーとの合流が先だと判断したカノンは、後ろで文句を言っている五人を引き連れると、足早に城へと戻って行くのであった。
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「ふむふむ… 外観は異常なし… 破損箇所も特になし、と。あー… これはこれは、なかなか素晴らしく状態の良い船舶ですね。で、これがもう一隻ある… と」
査定用紙にペンを走らせながら、冒険者ギルドの買取り担当者が査定を進めていく。
ロイたちはパーライト王国への入国審査の時に、海賊退治の件について審査官から手紙を受け取っていたので、それを冒険者ギルドの受付に提出した。
その後、手紙の内容を確認したギルド長の指示で、買取り担当者がロイたちを呼び出し、そこで詳しい聞き取りを行った後に、係留してきた二隻の船舶に対して買取をするための査定を行っていたのである。
また、捕らえた海賊たちには重傷者が一人もおらず、全員が軽傷で済んでいたため、すぐにも労働力として使えることから、賞金にもそれなりに色がついたようだ。
船舶にしても、破損している箇所など全く無く、海賊たちが使っていたままの状態だし、船内の捜索も行っていて罠なども解除されているため、こちらもすぐに使えるようになっている。
「では、こちらが捕らえた海賊たち三十二名分の賞金と、持ち込んだ船舶二隻分の買取り金額となります」
「あぁ。すまない」
大き目の革袋が一杯になるほどの賞金を受け取ったロイたちが冒険者ギルドを出ると、外は日が傾き始めていたため、まずは今夜の宿を探しに町へ向かう。
さすがに港町はいろいろな人が行き交うこともあり、あちこちに宿屋が見える。
どれにしようかと決めかねたロイがセラーナを見ると、ぐるりと辺りを見回したセラーナが口を開いた。
「昼間みたいに絡まれるのも面倒なので、大通りを一本裏に入ったところにしましょう」
「なら、あそこが良いですね」
セラーナとリムが場所を決めると、大通りを一本裏に入ってすぐの宿屋へと入っていく。
特に各人で部屋を用意することも無かったので、三人で泊まれる部屋を用意してもらうと、早速テーブルに着いてこれからの動きについて確認をする。
「さて、思った以上に海賊退治の査定に時間が掛かったし、もう夕方だ。さすがに今から城には行けないよな?」
「まぁ、行っても時間は掛けられないでしょう。場合によっては謁見すらできないことも考えられますから、そうなると二度手間になりますね。とは言え、当初の予定よりも早く到着していますから、明日でも問題は無いと思いますよ?」
「そうか。じゃあ、明日の早いうちに出向くとするかね」
「では、これから外で夕食ですね。ちょうど道具屋も見たいと思ってましたので、少し時間をもらえると助かります」
簡単な話し合いをして宿の外を見ると、空はすっかりと夕焼けに染まっている。
セラーナの言うように、これから城へ行くことはできるだろうが、謁見としては時間外となっているかも知れないため、そうなると翌日に持ち越しになることから二度手間になってしまう。
今回の件は、会ってすぐに終わる案件とも思えないため、多少の時間を使わせてもらうことも考慮すると、これから急いで行くよりは明日に変更した方がいいだろう。
もともと、王城へと訪問する日程を組んでいた訳ではないし、世間一般的に考えても到着するのにまだ数日は掛かる見込みだった。
そのため、王城でもロイたちはまだ到着していないと思っているはずだから、急いで城へ行くことも無いだろうと判断し、今夜はゆっくりと休むことに決めた。
ちょうど、リムも道具屋に用事があるというし、路銀としては海賊退治で得た賞金もある。
ベークライト王国を出港する前に、国王から貰った路銀をも遥かに超える金額があるため、リムには好きなものを買っても良いと伝えた。
三人は、この国での依頼を受けるためにも、万全な準備を整えるべく、宿を出ると目的の場所へと繰り出していくのであった。
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翌朝。
辺りは薄っすらと明るさが増してきているが、実際にはまだ夜が明けて間もない時刻。
パーライト王国の王城にある訓練場には、黙々と愛用の両手剣で素振りをするルーニーの姿があった。
そして、ルーニーの周りには人の胴ほどの太さの丸太が十数本ほど立ててある。
足元にはポタポタと大粒の汗が滴っているところを見ると、かなりの時間素振りをしていたのだろう。
ルーニーは構えていた両手剣を下げると目を閉じて意識を集中し、浅い呼吸を繰り返すと自身の闘気を全身に巡らせる。
その闘気が全身に満ちたのを確認すると、目を開いて一気に放出する。
「スタイルチェンジ! クリムゾンナイト!」
すると、ルーニーの周りには真紅の球体が幾つも浮遊し始め、それが体に当たるとその部分が鎧化していく。
全ての球体がルーニーの体に取り込まれると、ルーニーは真紅の鎧に身を包んでいて、その背には純白のマントを羽織っていた。
更に、手元にもやや大きめの球体があり、そこに手を入れて引き出すと、そこにはまるで血のような鮮やかな紅色の刀身をした両手剣が握られていた。
「フッ!!」
そして、ルーニーの姿が一瞬霞んだように見えたかと思うと、周りに立てられていた十数本の丸太が一斉に斬り飛ばされた。
ゴロゴロと音を鳴らして転がる丸太を見ながら、「ふぅ」と手に握る真紅の刀身の両手剣を振り切ると、背後から声が聞こえてきた。
「さすがはルー姉だな。あんなに太ぇ丸太を一瞬で斬り飛ばすほどの斬撃は、俺でも見えなかったぜ。斬撃の速さ、威力、正確さ、どれもずば抜けてんな」
「そうだろ? これがスタイルチェンジの凄さだ」
スタイルチェンジとは、セシルがルーニーにも必要だろうと情報を共有してくれた戦闘方法で、自身の闘気を利用して自分の戦闘スタイルに特化して攻撃力を爆発的に向上させる戦闘方法だ。
ルーニーの場合、魔法も属性攻撃も完全に無視した物理攻撃にのみ特化しているため、魔法戦を仕掛けられると不利になるのだが、それを加味したとしても効果は十分過ぎるものだ。
「俺も、ルー姉みてぇに闘気のコントロールが上手くできりゃあスタイルチェンジもできるようになると思うんだけど、闘気を操るのがこんなに難しいとは思いもしなかったぜ」
「なに、お前ならコツを掴めばすぐだよ。それに、闘気は使えるようになると便利だぞ? 剣に纏わせれば魔法を乗せることができるし、それで刃こぼれすらしなくなるからな」
そう言えるのは、ルーニーがカイルとセシルの訓練を見たからだろう。
初めてそれを見たときは、さすがのルーニーも驚いたものだ。
なにせ、訓練と言いながらも自分の武器を使い、そのまま刃を合わせていたからだ。
普通なら木剣を使ったり刃を潰した剣を使うものだが、カイルとセシルは実戦を想定しているため自分の武器を使っていた。
その意味合いに感心したルーニーが、セシルを捕まえて自分もできるようになりたいと言い続けて、やっと魔法剣のやり方を教えてもらい、つい最近になってようやくスタイルチェンジができるまでに至ったのだ。
セシルからは、ルーニー本人が教えるのであれば、他の者にもやり方を伝えていいと言われているので、母親である女王と弟のカノンに手解きをしている。
だが、ルーニーもそうだったように、この二人も習得にはかなり難航しているようだった。
しかし、カノンにしても女王にしても、さすがはパーライト王国の人間だと感心したくなるほどに戦闘センスは抜群に良い。
「まぁ、お前も母上も戦闘センスは良いんだから、鍛錬を怠らなければいずれできるようになるさ」
「そうだよなぁー… 鍛錬は必要だよなぁー…」
「ところで、こんな朝早くからどうした? お前にしては珍しい時間じゃないか。それに、セレスティーナは一緒じゃないのか?」
ふと、ルーニーが気になったのは、まだ夜が明けて間もない時間にもかかわらず、カノンが一人でこんな場所に来ていると言うことだ。
しかも、いつも一緒にいるはずのセレスティーナがいないことも気になっていた。
「あ? あぁ… いや、その… ちょっと、な…」
「何だ? 男のくせに歯切れが悪いな。言いたい事があれば言えって、いつも言ってるだろ?」
その、あまりに男らしくない態度に、さすがのルーニーもちょっと頭にきたらしく、とても実の弟に話しているとは思えないほどの圧で詰め寄ってしまう。
カノンが「しまった」と思ったときには既に遅く、クリムゾンナイトの姉に訓練場の壁まで追い込まれてしまっていた。
それでもルーニーの追求は収まることを知らず、とうとうカノンは観念して口を割ってしまった。
「はぁ!? お前、その程度のことで腹を立てるのか!? そんなのは、ただの言い掛かりだろうが!」
「い、いや! だってよ、ルー姉は頭にこねぇのか!? 俺たちはバカにされたようなもんなんだぞ?」
カノンが吼えているのは、昨日の冒険者ギルドでの出来事のことだ。
ベークライト王国から冒険者が手伝いに来てくれることを女王から聞いていたので、カノンが入国審査官に事前に話を通しておこうと冒険者ギルドに行ってみたのだが、実は既に到着しているとのことだった。
カノンたちは、まさかこんなに早く到着するとは思っておらず、逆に遅くなることを想定していたので、日数的には余裕を持たせていたのだが、ロイたちはその予想を覆すほどの速さでパーライト王国に到着してしまった。
そして、その事を知ったカノンもまだ日も高いと言うこともあり、そのまま城へと来るのではないかと思って急いで戻ったのだが、いくら待っても姿を見せなかったため、自分たちは振り回されたと勘違いして憤慨していたのだった。
そんなこともあり、気を遣ったセレスティーナは今は一緒にいないらしい。
基本的に、日程的なやり取りをしていない以上、彼らがいつ来るかなど気にすること自体がズレている。
落ち着いて考えてみれば、カノンたちが早とちりしているのだと分かるようなものだが、カノンたちとしては勝手に振り上げてしまった拳の下しどころが分からなくなっているのだ。
実の弟の間の抜けた考え方に呆れ返ったルーニーがカノンを注意しようとした時、訓練場に一人の騎士が入ってきた。
「姫様。早朝から失礼します。先方からの要請で、至急冒険者ギルドへと来ていただきたいそうなのですが、いかがしますか?」
「む? 私にか? カノンではなく?」
「はい。ギルド長がぜひ姫様に見て欲しいものがあるそうです」
何か問題を起こしたのではないかとルーニーはカノンを見るが、当の本人には心当たりも無いようで、しきりに顔を横に振っている。
つまり、カノンが何かをしでかしたわけではなく、純粋に自分に用事があるのだろう。
ルーニーはスタイルチェンジを解いていつも通りの服装に戻ると、カノンに釘を刺すことも忘れて、そのまま騎士と共に冒険者ギルドへと向かってしまうのであった。