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第5話 出港

第5話 出港



ベークライト王国の会議室で今後の方向性を決めた後、ディアとミリアは早速行動を開始する。

国王と王妃、竜王に挨拶を済ませると冒険者装備に身を包み、マルテンサイト王国へと向かうべく、すぐに冒険者ギルドへと向かった。

二人の見送りを終えると、ロイたちは孤島で行う調査について、関係者による話し合いが始まった。

実際、今回の調査は依頼中のものとは言え、期間的にも大きく空いてしまっている。

それに、この件は冒険者ギルドからの依頼とは異なり、ベークライト王国所属の冒険者が依頼内容とは別の目的で他国に入って活動をするため、特に表立って派手な行動だけは控えなければいけない。

とは言うものの、今回に限っては時間との戦いでもあるため、迅速な動きが必要になる。

それも踏まえて、やるべきことを予め決めておくことで、少しでも無駄な行動を省こうと言うのだ。

そんな話をしていると、会議室の扉がノックされて一人の侍女が入ってくる。


「失礼しますぅ。陛下ぁ、お手紙ですよぉ。速さ重視の鳥を使ってましたからぁ、向こう様はそれなりに急ぎだと思いますよぉ?」

「おぉ、すまんな。マギー」


国王はマギーから差し出された手紙を受け取ると、すぐに中身を確認する。

そして、何かを考えるような仕草を見せると、王妃を連れて会議室の隅へと移動し、そこで頭を寄せて小声で何かを話し始めた。

打合せの進行をしている国王と王妃が別の話を始めてしまったため、打ち合わせは一時中断となり、その間を利用するかのように、ロイがリムに話を投げ掛けてきた。


「リム。今の内に話をしておかなきゃいけない事がある」

「…大体の察しは付きますが、カイル様のことですね?」

「あぁ、そうだ。まぁ、そりゃそうか。お前に話があるって言えば、それしかないよな」


そう言ってロイが真剣な表情で話し始めたのは、リムも言っていたようにカイルのことだ。

実際、今回の出来事でカイルの最後を見ていたのはロイしかいない。

その時の状況を踏まえ、改めて考え直してみると、ロイには分からないことがあった。

ひとつは、なぜカイルはその場に留まったのか。

最後の場面、ロイを押し出すよりも、抱えてそのまま旅の扉を抜ければ良かったのではないかと、ロイは考えていた。

確かに、カイルは夥しいほどの出血をしていたが、その場に留まると言うことは確実な死を意味することぐらいカイルなら分かるはずだ。

それならば、一か八かでも生を掴むために無茶をする方が正しいだろう。

言い換えれば、セシルを一人にしてしまうことよりも優先される何かがあったはずだ。


そして、もう一つがカイルの剣をロイに持たせたことだ。

仮にも戦場に残るのであれば、戦うための武器は絶対に必要だし、丸腰であの敵と戦うなど自殺行為以外の何者でも無い。

だが、可能性の一つとして、カイルは何かに気付き、そのためにあえてこのような分からない行動を取ったのではないか? と言うものだ。

結局、何が言いたいのか分からない、というリムの顔を見たロイが慌てて言い直す。


「ああ悪い。正直なところ、俺も何て言ったらいいのか分からないんだが、お前に言いたかったのは、俺からの報告はあくまでも事実を述べただけで、その他は俺の想像の域を超えないんだが、それでも最悪の事態以外の希望も残ってるんじゃないか、って言いたかったんだ」

「…話は理解しました。念のために言っておきますが、私は最悪の事態など想定すらしていません。なぜなら、それだけは絶対に有り得ないと言い切れるからです。もちろん、根拠なんてありません。これは私の直感であり、揺るがない純粋な想いだからです」

「そうか。お前がそう言うならこれ以上は何も言わない。だが、俺たちは最後までお前と一緒に行くからな? 一人で突っ走らないでくれよ?」

「…善処します」

「リム。そこは、分かりましたと言って欲しいところですね」


付き合いが長い分、ロイとセラーナはリムの意思が固いのは、表情を見なくともわかる。

ロイの話から推測される結末など、リムにとっては聞く価値すらない事も知っている。

だからこそ、二人はリムがしたいことに最後まで付き合うことを決めていた。

すると、先ほどまで話をしていた国王と王妃が難しい顔をして戻ってきたので、何があったのかロイが尋ねてみると、珍しく国王が不満気に口を開く。


「いや、先ほどの手紙なんだがな? 少々面倒なことになってきたようなのだ。この忙しい最中に、全くもって不本意なことだよ」

「面倒なこと… ですか?」

「はい。実はですね…」


頭を抱えてしまった国王に代わり、そこからの説明は王妃がしてくれる。

先ほどの手紙に書かれた内容だが、差出人はパーライト王国の女王陛下からで、内容はとある案件について人手を貸して欲しいとの事だった。

しかも、詳しい内容については手紙での説明が難しいため、自分を信用して可能な限り有能な冒険者パーティーを雇わせてくれと書いてあったそうだ。


「まったく… アルセリアも無理難題を吹っ掛けてきおった」


アルセリアとは、パーライト王国の女王陛下の名前で、ベークライト王国やマルテンサイト王国、アルマイト王国の国王たちとはそれなりに仲が良い。

本来であれば、二つ返事でドラゴンナイトを送り込みたいところなのだが、今は非常にタイミングが悪い。

セシルはおろか、カイルとセレンも戦力にはできず、ディアとミリアも既にマルテンサイト王国に向けて出発しているため、純粋に戦闘力が不足しているのだ。

とは言え、冒険者ギルドに声を掛ければ、優秀な冒険者を集めることは難しいことではないが、パーライト王国の女王陛下自らが依頼してきたと言うことは、セシルが入っていることが前提条件なのだろう。


「言ってはいけない事なのは重々承知しているのだが、この件はセシルがいれば問題は無かっただろう。万が一、任務に失敗しても王族に連なる者であるが故に、非難はされないからな。しかし…」


現状、セシルがいないのであれば、セシルの実力に相当する冒険者を派遣する必要があるだろうし、その上で任務に失敗することなど絶対に許されない。

言い換えれば、国を代表することに繋がってしまうからだ。

そんなプレッシャーを、ドラゴンナイト以外の冒険者にお願いすることなどできるはずが無い。

それならば、この話を断ってしまえばいいのだが、今後の関係性を崩さずに済む理由を考えなければいけない。

国王が難しい顔をしながらブツブツと独り言のように言っていると、セラーナがスッと手を上げた。


「陛下。私たちが行きましょう。手紙の内容を聞くに、セシルやカイルとまではいきませんが、私たちもドラゴンナイトです。今は二人しかいませんが、リムを入れれば三人ですし、この面子であれば多少の荒事だったとしても戦力としては申し分無いはずです。 …いかがでしょうか?」


確かに、パーライト王国からの希望としては、有能な冒険者パーティーとだけ書かれていて、名前やパーティーの指名はされていない。

世間一般の話として、ベークライト王国で最強の冒険者パーティーと言えばドラゴンナイトの名が挙げられるし、指名されていないことを逆手に取れば、セラーナの言うことは正論であり理解もできる。

ただ、問題があるとすればパーライト王国の姫はセシルの友人でもあり、ドラゴンナイトのことも知っている。

派遣されるパーティーにセシルがいないことで、何か言われないかと気にしていると、セラーナに次いでロイが手を上げた。


「陛下。リムを含めた俺たち三人は、パーライト王国のルーニー姫と顔馴染みです。だから、セシルがいなかったとしても、それほど問題にはならないかと思います」

「うーむ。 …そうだな。いや、しかしだな…」


ロイとセラーナ、リムの三名とパーライト王国のルーニー姫は、オーステナイト王国で行われたお見合い会で顔を合わせており、滞在していた期間のほとんどを一緒に過ごしている。

そう言う意味では、仮にパーティー内にセシルとカイルがいなかったとしても、それほど大事にはならないと思っていたのだが、どうやら国王はそれだけでは足りないようだ。

どうしても、セシルとカイルの欠けたパーティーでは満足できる結果を残せないのではないかと考えてしまう。


「陛下。もし、私たちでは役不足だとお考えでしょうか? もし、そうなのであれば向こうに納得せざるを得ない方法で売り込みますが?」

「リム。貴女の気持ちは理解していますし、行動の制限もしないと言いましたが、これだけは覚えておいて下さい。貴女の行動はカイルへの評判に繋がるのです。いいですか? セシルではなく、貴女を鍛えた師であるカイルの評判ですよ?」

「…承知しました」

「王妃殿下。リムの手綱は私にお任せ下さい。握ったまま絶対に放しませんから」

「頼むぞ」

「頼みましたよ」


向こうがこちらの実力に不安を覚えているようならば、それを打ち消すほどの力を見せ付けてやればいい。

そんな実力行使を提案すると、王妃が複雑な顔をしながらもやんわりと釘を刺してくる。

確かに、セシルの強さに達しているリムであれば、他の国の冒険者など赤子の手を捻るようなものだろう。

しかし、だからと言って無闇に争いの火種を巻き散らかす必要も無い。

特に、今回はベークライト王国より推薦されたメンバーでもあるため、自分の起こす行動がそのままベークライト王国への評価と繋がってしまう。

何よりも、王妃がカイルの評判に直結することを強調したため、リムは渋々ながらも了承せざるを得なかった。

最終的に、セラーナがリムの頭にポンッと手を乗せて自分が手綱を掴むから心配は無いと言い切ると、国王と王妃が一安心したように、二人でセラーナに力強く頼むのであった。


それから、国王がパーライト王国の女王に手紙の返事と、パーライト王国でロイたちが別任務で行動する旨を描いた書簡を用意し、王妃はリムに用意するものがあるからと、出発は明後日の午後と決まったところで打ち合わせは終わりを告げた。

一刻も早く出発したいと思っていたリムは、ちょっとだけ不機嫌になりそうになるも、ロイとセラーナに肩を掴まれ、そのまま港町の方へと連れて行かれる。


「…お二人さん。これは、どう言うことですか? 事と次第によっちゃあ…」

「おいおい、待てよ。これくらいでブチ切れないでくれよ。ったく、先が思いやられるじゃないか」

「そうですね。港町に来たのですから、目的は冒険者ギルドしかないでしょう? そこで、明後日に借りる船を確認しようと思ったんですよ。本当に、先が思いやられますね」


そう言えば、先の冒険者ギルドからの依頼で孤島へと向かったときは、ドラゴンナイト所有の船を使ったのだが、その船は向こうに置いたまま旅の扉で帰ってきたため、港にドラゴンナイトの船は無い。

そのため、パーライト王国の孤島までは冒険者ギルドが所有する船を借りることにしていて、既に国から連絡は入れてある。

ならば、出発までの待ち時間も十分にあることだし、旅の道連れとなる船くらいは確認しておかなければいけないだろう。


「分かりました。船の点検も大事なことですし、大人しく手綱を引かれることにします」


リムは、さっきまでプクッと膨れていた頬を戻すと、大人しく二人に抱えられるように、冒険者ギルドへと連れて行かれるのであった。



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そして、いよいよリムたちの出発の日。

リムたちは一足早く港へ来ており、荷も積んで出港準備を終えた目の前の巨大な船を見上げていた。

冒険者ギルドのギルド長ニーアムから借りた船は一般の商船よりも大きく、誰が見ても戦闘用だと分かるような造りになっている。

もともとは、付近の海域で暴れていた海賊たちが使っていたものなのだが、ドラゴンナイトのメンバーが海賊退治をしたときに戦利品として持ち帰ったのだと言う。

特に、船首からぐるっと船を囲うように外に向けて設置されている巨大なボウガンは、ドラゴンすらも射抜くのではないかと言われているため、海賊たちはこれを『ドラゴンシュート』と呼んでいた。

その武器ですら使用可能な状態に仕上げてある。


「ほぉ? 間近で見ると、結構な眺めじゃないか」

「私としては、あまり見たく無い武装が随分と搭載されていますけどね…」


船を見上げるロイたちの元に国王と王妃がやって来て、船を見た率直な意見を口にする。

王妃の場合、自分が射られる側だったのかも知れないが、ドラゴンシュートを嫌そうな表情で見ている。


「最近の海賊共は、これほどの武具をどうやって調達したのでしょうね?」

「カイルたちの話じゃあ、どこかの貴族とか社会的地位のあるヤツが、海賊共に資金と武装を援助して、その見返りに闇商売をさせているって言ってましたよ? まぁ、とある国の王族のアホな息子が一番怪しいんでしょうけどね」

「そのアホな息子って言うのは、カイル様や姫さまから大体の話は伺ってますが、その…闇、商売? ですか?」

「まぁ、その名の通り、表ではできない商売です。つまりは、そう言うことですね?」

「うむ。そう言う類の連中が資金提供していると言うのなら、間違いなく暗殺とか陽動、諜報の類だろうな。つまり、船の装備が豪華になればなるほど、汚れ仕事を数多くこなしてきた、と言うことだろう」


王妃が険しい顔をしながらドラゴンシュートの出所について口にしてみると、ロイがカイルから聞いた話をする。

その中にある、海賊共への資金と武装の提供と言うことについては、色々あることも知っているのだが、それ以上にロイは自分の弟が確実に関与していることも知っていたので、ちょっと皮肉ってみたのだ。

リルブライト大陸で移動をするために船が必須となるのはフェライト王国しかない。

その他にも、魔族国家や竜の国、パーライト王国の孤島など例を挙げるとキリが無いが、陸続きではないところへの移動手段は船以外にはない。

しかも、潮の流れもあるため広い海だったとしても、航路としての選択肢はさほど多くないと言うのが現状だ。

そこを海賊共が襲ってくるため、時として命を優先するために商船は荷物を捨てると言うことだって珍しくない。

当然、冒険者ギルドにも海賊の討伐依頼があったりするのだが、個人やパーティーで船を所有している冒険者などほとんどいないため、依頼元が船の手配をしなければならないのだが、船の手配も相当な費用が発生するので、よほどの事が無い限りは依頼すら入らない。


そんなこともあって、海賊討伐自体が不人気となっていて、仕方無く海賊討伐は冒険者ギルドでの罰則扱いとして、冒険者が何かの罪を犯した場合の強制依頼として海賊退治が行われるくらいだ。

そんなこともあり、海賊討伐は思った以上に進んでおらず、逆にそれを利用する輩が増えていることが現実だった。


「まぁ、俺たちもニーアムに貸しを作るために、海賊退治をすることもあるんだが、奴らは船の豪華さに比例して強さも変わるのは確かだな」

「私としては、ドラゴンナイトの所有する船が、この辺の海域では最強と思っているのだがね… さぁ、これがパーライト王国の女王陛下への手紙の返事と書簡だ。国に着いたら真っ先に向かってくれよ?」


国王からパーライト王国の女王へ手紙の返事が入った豪華な箱が一つと、向こうでロイたちが自由に動けるように配慮して欲しいとしたためた書簡を受け取り、それをセラーナが収納すると、次に王妃が大きめの包みをリムに差し出した。


「そして、これが私からリムへの贈り物です。急ごしらえでしたが、なかなかの出来だと思いますので、気に入ったのなら使って下さい」


そして、受け取った包みをリムが開くと、その中には革製の装備一式が入っていた。

それは、リムが着ている冒険者としての装備と同じようなデザインで、なめした革が使われており、それに合わせるような革製のロングコートも、思わず見惚れてしまうような漆黒に染められていた。

それ以外にも、グローブとブーツも見事なもので、どれもがリムの好みに合わせて作られた装備の一式だった。


しかし、一番気になっているのがこれらの素材で、これまで見たことも無い皮がなめされている。

おそらくは、上位の… いや、相当上位の冒険者でも手に入れられない素材なのだろうと思った瞬間、リムの脳裏にある種族が思い浮かんだ。


「王妃殿下… もしかして、これって竜の素材を使われてますか?」

「あら、良く分かりましたね。ちなみに、これは私が遥か昔の戦闘で欠落した部位から造りだされた素材ですね。察していると思いますが、皮と鱗です」

「ほぉ? なら、それは私が斬り落とした腕から作り出したものか。リム、セシリアは竜族の中でも特に手が付けられず、竜の国に滅亡をもたらすと言われたほどの邪竜だったのだ。それを元にした素材なら、お前の力をも受け入れられるだろう」

「…国王陛下、王妃殿下。本当にありがとうございます。これで、私も思いっきり戦うことができそうです」


嬉しそうに装備一式を胸に抱くと、満面の笑みを浮かべて二人にお礼を言う。

最後に、純白のマントが手渡されると、そこにはベークライト王国の紋章が刺繍してあった。


「本来であれば、ドラゴンナイトの紋章を入れる予定でしたが、貴女は私たちよりもカイルから認められてマントを貰った方が嬉しいでしょうから、今はベークライト王国の紋章を入れさせてもらいました」

「リム。これで貴女はベークライト王国を背負っていることになりますね」

「言いたいことは分かるだろ?」

「…もちろんです。この紋章に恥じないよう、私は私に課せられた使命を全うします」

「良い顔ですね」

「うむ。では行って来い!」

「「「はいっ!!」」」


国王と王妃、冒険者ギルドのギルド長の見送りを受けて、三人はベークライト港を後にする。

これから、およそ一ヶ月に及ぶ長い船旅になる。

だが、これでカイルを探すための足掛かりができた。

リムは王妃にもらった冒険者装備を身に着けると舳先に立ち、まだ見ぬ目的地へと想いを馳せる。

その背には、ベークライト王国の紋章が刺繍された純白のマントが風に靡いているのであった。

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